原子力政策大綱への反対意見
原子力政策大綱への反対意見
2005年9月29日
原子力資料情報室
共同代表 伴英幸
33回に及ぶ策定会議、2つの小委員会での議論、各地でのご意見を聴く会、2度にわたる意見募集など多くの議論を経て原子力政策大綱が策定されることとなりました。私は初めて策定会議の一委員となり、脱原発を求める立場から議論に参加してきました。一般からの意見募集を複数回行なった点や、核燃料サイクル政策の決定に際しては複数の選択肢を抽出して総合評価を行なうなど、政策決定のあり方で初の積極的な方法が取られた点は評価できると考えています。加えて、大綱は、安全の確保の重要性と国民の原子力政策への理解と信頼の大切さを強調している点において評価できます。原子力政策への国民参画は未だ確立されていないとしつつ、その重要性が指摘されました。どのような参画があるのか今後の課題として認識されたと受け止めています。その際、脱原発の可能性も含めたものであることが重要だと考えます。
評価できる点はあるものの、策定される大綱には同意できません。同意できない諸点のうち特に3点について以下に述べます。
1. 基本的考え方として「2030年以降も総発電電力量の30?40%程度という現在の水準程度か、それ以上の供給割合を原子力発電が担うことを目指すことが適切である」と原子力発電の割合を位置づけた点です。
これに反対する理由はこれまでにも述べてきました。ここでは、この政策を採用した結果もたらされる運転期間の延長について、さらに2点を加えます。高経年化対策では原子力安全・保安院の最新の検討状況を反映させたうえで「仕組みを充実すること」としていますが、同院の報告書にもあるように、ステンレス鋼とニッケル基合金の応力腐食割れのメカニズムがいまだ解明されておらず、また、同報告では私たちが問題提起した中性子照射の速さが脆化に影響している点の検討がありません。さらに、宮城県沖地震(05年8月16日)では、耐震設計用地震動の基準となっている解放基盤表面に換算した加速度が周期0.05秒のところで設計用限界地震動S2の大きさを超えてしまいました。この地震の規模はしかし、地震調査委員会が想定していたこの地域での地震の規模の半分でした。原発の運転期間の延長は大変危険であると考えます。
策定会議の審議過程では、吉岡委員が原子力発電の総合評価を繰り返し求めました。私もその総合評価を行なうべきだとの考えです。原子力委員会のミッションは原子力政策を進めることであることが強調されて、その作業は行われませんでした。脱原発を含めた原子力発電の総合評価が今後の課題として残ったと考えています。
2. 従来の核燃料サイクル政策が踏襲された点です。
政策決定の際に行なわれた総合評価の方法は、これまでの原子力政策の審議過程では行なわれてこなかった方法であり、今後とも改良して継続するべき方法だと考えています。しかしながら、個々の項目の評価方法やその内容には、私の提出した総合評価結果と決定的に異なっており同意できません。放射性物質が環境中へ放出されることやプルトニウムが地上で行き来するようになることなどを評価していくべきだと考えています。特に、政策変更コストの算出は納得がいきません。
原子力施設の円滑な立地が可能となるように交付金などが支出されていますが、それにより地域経済が過度にこの資金に依存することになり、一地域の経済的依存が逆に原子力政策を規定するという硬直した状況に陥ってしまっているのではないかと危惧しています。
選択肢では、ここの選択肢に最も適した条件を設定することも考えられますし、感度解析なども議論を深める点では重要だと考えています。その意味から、佐藤栄佐久福島県知事の意見にあるように議論が十分に深められませんでした。総合評価の内容の深化は今後の課題です。
3. 「高速増殖炉については、…2050年頃から商業ベースでの導入を目指す」とした点です。多くの条件が付けられてはいますが「基本的考え方」とされました。高速増殖炉をめぐる議論では、FBRサイクル実用化戦略調査研究フェーズIIの成果を評価して「今後の展望をまとめる」とされながらも、根拠なく実用化時期の目標が設定されました。実用化の見通しは無いとの主張への反論すらありませんでした。高速増殖炉開発に関しても、実用化を目指すというのであればなおのこと、しっかりした総合評価が必要です。