美浜3号事故・原子力安全・保安院への質問
美浜3号事故に関する原子力安全・保安院への質問
各地市民一同
1.前回質問からの継続項目
(1)ミルシート使用の是非に関する保安院との見解の相違について関電への確認結果。
(2)東電エルボ部問題(実際には直管部を検査)の発覚経緯と水平展開の現状。
2.事故時評価について
(1)事故時の運転マニュアルについて
・保安院は資料8-1で、「事故時における運転員の原子炉停止操作については、運転マニュアルに沿ったものであり、妥当なものと考える」と述べている。この場合の運転マニュアルとはどのようなものを想定しているのか。その際、2次系操作では主蒸気隔離弁を早期に閉じるようになっているか。今回、主蒸気隔離弁を閉じる操作は16:05までいっさいなかったのか。
(問題点)
・原子炉停止操作には2次系操作も含めて評価していると思うがそれでよいか。
・関電は3月1日発表の添付資料3-5で、今回の操作を「通常操作」と比較しているが、その場合の「通常操作」とは1次系、2次系それぞれでどのようなものと保安院は理解しているか。
・異常な過渡変化に属する「主給水流量喪失」の解析では、主蒸気隔離弁は早期に閉じることを前提としているが、マニュアルの2次系操作でもそのようにしているのか。また、主給水管破断事故の解析結果と比較しているが、その場合も主蒸気隔離弁は早期に閉じることになっているか。
・今回の事故では主蒸気隔離弁は16:05まで閉じようとしなかったのか。それはなぜか。
(2)被災者の早期救出について
・関電の、被災者の救出のために脱気器水位制御弁を早期に止めるべきだという解析に対して、保安院は「被災者は事故発生直後に被災していると推測できることから、必ずしも事故被害の低減に直ちに結びつくものではなかったと考える」と述べている(資料8-1)。保安院としては、被災者は初期の段階で打撃を受けているので、早期救出は必要ないという見解なのか。主蒸気隔離弁を早期に止める方法をなぜ検討しないのか。また、流出量の大小は制御系の保護などにも関係なかったのか。
(問題点)
・蒸気の噴出を早期に止めれば、被災者の発見・救出はより早期にできたことは事実経過に照らして明らかだと思われるが、保安院はそのようなことは無駄な努力だという考えか。
・事故後可能な限り早期に主蒸気隔離弁を閉じる方法で、蒸気の噴出も止めることができるのではないか。なぜその方法をとらなかったことについて検討しないのか。
(3)補助給水制御弁の設計ミスについて
・これは明らかな設計ミスだと思うが、その原因と責任についてどう考えているか。
・「当院としては他プラントの類似弁についての対策の必要性等について検討してまいりたい」は当然必要であるが、それをどのように実現していくのか。
(問題点)
・これは設計ミスだという確認でよいか。弁の蒸気発生器側の圧力は最高で6.29MPa(65気圧)だから、ごく定格的な圧力範囲にある。それにもかかわらず、弁が開かなかったという構造は明らかに設計ミスではないか。
・このようなミスが生じた原因と責任についてはどう考えているか。
・事故という異常な条件のもとで、普段は動いていない機器が常に動くとは限らないことを、この事態は示しているのではないか。
(4)高温蒸気が与えた設備への影響について
・制御室にまで蒸気が浸入した事実が隠されていたのはなぜか。保安院はこの事実を04年10月には知っていたのになぜ公表も安全委への連絡もしなかったのか。
・電気ケーブルの絶縁抵抗が測定されているが、その具体的な測定結果について保安院は把握しているか。それを公表すべきである。
・「美浜発電所3号機以外の他プラントにおいても確実な施工がなされているかについて、必要に応じて確認するよう事業者に対して指示を行っていくこととする」のは当然必要であるが、それをどのように実現していくのか。
3.リスト漏れの問題について
(1)リスト漏れの根本原因について
・第8回事故調査委員会の場で、リスト漏れの根本原因は何かと問われ、関電は「当初に三菱重工業がリストから漏らしていたため」と答えている。保安院は、この関電の主張を認めるのか。
(2)関電の原子炉設置者としての資格について
3月9日読売新聞夕刊は、美浜3号機で新たに点検リストもれが数十箇所見つかったと報じている。貴院は関西電力に対して、14日の事故調査委員会に改善策を出すようにし指示したとも書かれている。新たな点検リスト漏れは、関西電力の配管管理のずさんさを改めて示すものである、貴院は、3/3付資料8-2-1「保守管理業務の基本姿勢について」の中で、「一義的には、原子炉設置者の責任であることの自覚が不足している」と評価している。
そうであれば、関西電力の原子炉設置者の免許を剥奪すべきではないか。
(3)「管理指針」作成当時について
・当該破断箇所のオリフィス部を含む流量計オリフイス部は、三菱重工業が当初作成した「管理指針(案)」では含まれていなかったが、関西電力が最終的に作成した「管理指針」には含まれた。これは関西電力からの要望によるものという。そうであれば、流量計オリフィス部が点検リストに含まれているかどうかは、とりわけ厳格にチェックされるべきあると考えるがどうか。また、関西電力が、なぜ管理指針作成当時に、流量計オリフイス部が点検リストに含まれているかをチェックしなかったのかについて、保安院は聞き取り調査を行ったのか。
(4)高浜4号でリスト漏れがあったという報告を受けていたことについて
・関西電力は、「リスト漏れという報告は受けていなかった」と各時期について繰り返している。しかし高浜4号の場合のみは、同じオリフイス部が点検リストから漏れていることも日本アームから知らされていた。これに関して関電報告書では、「当社は他プラントへの展開はしなかった」とのみ書かれている。なぜ、他のプラントを調べなかった関電には重大な責任があると考えるが、どうか。また、なぜ他のプラントを調べなかったのか、保安院は聞き取り調査を行なったのか。
・高浜4号と美浜1号でのリスト漏れについては今まで関電も事故調もリスト漏れ一覧に含めてこなかった。高浜4号と美浜1号のみならず、泊や敦賀など、リスト漏れが存在し事後的にリスト漏れが修正されただけのケースもあわせ、事故調が過去に発表したリスト漏れ一覧のアップデートが必要なはずだが訂正は行わないのか。
(5)大飯1号の配管減肉の対策に関して
・関西電力は、美浜3号機事故の約1ヶ月前に、大飯1号機の主給水管の大幅減肉を確認していた。これに対する対応で、関電若狭支社が追加点検部位の抽出を指示し、美浜発電所が当該オリフィス部が未点検であることを確認したが、2004年8月14日からの定検で検査対象になっていたため、何もしなかったという「新たな事実」が関電報告書では書かれている。また報道によれば、美浜発電所はこのことを若狭支社に連絡しなかったといわれている。
① 保安院は、この事実を知っていたのか。
② 美浜発電所は、当該オリフイス部が「未点検箇所」であることを確認したとき、運転開始以来28年間も主要点検部位が検査されていないことを知ったわけだから、その時点で、余寿命計算を行う等、配管の状況を把握するよう指導すべきではなかったのか。
③ 当時の関電の報告書について「妥当」と評価した保安院の責任について明らかにすること。
④関電が2003年10月に策定した品質保証システムでは、検査漏れがわかったときには、管理指針による余寿命計算と、原子炉の停止を含めた検討をおこなうこととしていたという。美浜発電所が破断箇所が未点検であることを認識した際、余寿命評価を行なえば、肉厚がほとんどないほど薄くなっていることも分かったはずである。関電が破断箇所の余寿命評価を行なったのかどうかについて、保安院は調査していないのか。
(6)美浜1号のオリフイス部が点検リストから漏れていることを日本アームが確認した件について
・日本アームは、美浜1号機の同じオリフイス部が点検リストから漏れていたことを確認し、2001年9月の提案書には反映したが、登録漏れは関電に伝えなかったという。なぜ日本アームは、美浜1号のリスト漏れが確認されたとき、同じ発電所の美浜2・3号機の点検を要請しなかったのか、聞き取り調査を行ったのか。
(7)27箇所のリスト漏れが発見された経緯などについて
①三菱重工業は、10箇所の付番見落とし(点検リスト漏れ)を発見して、関電に「未調査箇所」として報告したという。
・10箇所のリストと見落としを発見した時期はいつか。
・それを関電に「未登録箇所」として報告したのはいつか。
・なぜ点検リスト漏れとして報告しなかったのか。
・10箇所のリストを明らかにすること。
②日本アームは、「当初からの登録漏れを事故発生までに当社全プラントで17箇所発見し、発見した部位のスケルトン図を修正し、定期検査提案に反映させていた」と関電報告書では書かれている。
・日本アームが17箇所の登録漏れを発見したのはいつの時点か。
・また日本アームはどうやって発見したのか。NUSECの助言により発見したのか。
・17箇所のリストを明らかにすること。
4.技術基準違反などについて
(1)技術基準違反に関する詳細情報の公開について
・保安院は「PWR管理指針の不適切な運用が78件、そのうち技術基準に明らかに適合しないものは46」としている。この内訳について、配管部位等を含め、詳細な情報を公開すること。
(2)大飯2号の手抜き検査の手法について
・関電と保安院の報告では、管理指針の不適切な運用と技術基準違反の場合に限定して報告されている。関電が行ってきた手抜き検査についてはふれられていない。大飯2号機の第5ヒータ空気抜き管の4部位は、「主要点検部位」と定められているにもかかわらず、運転開始以来25年間一度も検査をしていなかった。その理由として関電は、4部位(45度エルボ部)の前後にある条件の厳しい90度エルボ部を測定し、そこから類推して4部位は測定しなくても安全だと判断したという。この手法については保安院は不適切と考えているのか、見解を明らかにすること。
(3)定検短縮は関電の会社としての方針ではないのか
・技術基準違反が常態化していたことの背景として、保安院は、「安全第一という関西電力の方針とは裏腹に、現場の第一線では、定期検査工程を優先するという意識が強かったことを示すものであった。この経営層と現場第一線における認識の乖離について、監督機能などが十分に機能せず、この結果、こうした問題が長年にわたり是正されずにいたことは重要な問題である」としている。定期検査工程を優先する=定検を短縮するというのは、関電が報告書でも書いているように会社の方針ではないのか。
(4)関電が技術基準違反も三菱重工業に責任を転嫁している問題について
・技術基準違反が常態化していたことの背景として、関電報告書では「不適切な運用を行なった部位に共通することとして、メーカからの技術連絡書に、技術的にその時点で問題はなく次回定期検査での取替や補修が推奨されていること」と書かれている。関電は、リスト漏れだけにとどまらず、技術基準違反も三菱重工業に原因があると述べているが、これに対する保安院の見解を明らかにすること。
(5)関電と三菱の意見の食い違いについて
・他方、三菱重工業は報告書で、「検査において余寿命が1年未満と評価された場合には、プラント運用の実態に照らし、技術的に十分安全であると評価されるものについては、電力会社と当社で協議し余寿命の再評価を行い、電力会社の判断で次の定期検査まで当該配管の使用を延長した例があったことについて監督官庁から不適切との指摘を受けました。」(三菱報告書P10~11)として、配管取替を先送りするよう判断をしたのは関電だと述べている。この両者の意見の食い違いについて、保安院は真実を明らかし、判断を下すべきではないか。
(6)技術基準違反と美浜事故は別という関電の主張について
・関電は、このような技術基準違反などの行為について、「これらは事故の直接的な原因ではないが」(再発防止策報告書P16)とわざわざ断りを入れている。美浜3号機とずさんな配管管理は別問題であるという関電の見解を、保安院は認めるのか。
5.関電の再発防止策について
(1)報告書の再提出について
・保安院は、関電と三菱重工業に報告書の再提出を要求しているが、それは、再発防止策に関する「アクションプラン」に限定したものなのか。それとも、報告書全体の再提出を要求しているのか。
(2)「より安全な原子力」と経済性最優先は両立しないのではないか
・関電は再発防止策として、「より安全な原子力」という言葉を繰り返している。しかし定検短縮などの経済性最優先と「より安全な原子力」は両立しないのではないか。
(3)定検期間などについて具体的に指導すべきではないのか
・関西電力が「より安全な原子力」、「ゆとりある原子力の職場作り」と言うのであれば、定期検査期間を3ヶ月かける等、具体的方策を示させるべきではないか。
6.保安院としての対策について
(1)関電はA系・B系のうちA系が破断したことについて、B系より強い旋回流がヘッダ部からの分岐部で発生していたという推定を示している。これは保安院の2月18日通告が認めているような、類似設計の配管がある場合に検査を「絞り込む」ことの危険性を示しているのではないか。
(2)美浜事故後も現に減肉による水漏れが多発している。減肉などによる水漏れなどの事象について、事故調での一覧表をアップデートすることが必要ではないか。
(3)保安院は事故調資料8-2-1で、関電について不適切な配管管理の事例をリストアップしたが、東電をはじめ他の電力会社について同等の調査を行なっていない。しかし各事業者による恣意的な配管管理も明らかになっている。「不適切な配管余寿命管理」の分類と集計を、すべての事業者に対して行なうべきではないか。