原発のミサイル防衛について

『原子力資料情報室通信』第588号(2023/6/1)より

原発の防衛について、2022年11月28日第34回原子力小委員会で「原子力発電所等の警備に関する関係省庁・関係機関の協力と対応等」として「弾道ミサイルに対しては、イージス艦とPAC-3による多層防衛により対応」1)と説明している。

日本の弾道ミサイル防衛
 一般に、日本の弾道ミサイル防衛体制は、①早期警戒衛星による発射探知、②イージス艦による目標探知・識別・追尾、③イージス艦に搭載されているSM-3ミサイルによるミッドコース段階(大気圏外)での迎撃、④PAC-3ミサイルによるターミナル段階(高度十数km)での迎撃、の4段階からなる。
 ではその最終防衛ラインであるPAC-3の配備状況はどうか。日本が保有するPAC-3は航空自衛隊の高射部隊(24個高射隊と高射教導群)に配備されている。PAC-3の射程は発表されておらず、自衛隊はウェブサイト上で数十kmとしている2)。ただ、軍事業界紙は通常のPAC-3は20km(12マイル)、改良型のPAC-3MSE(Missile Segment Enhancement:ミサイル部分強化型)は35km(22マイル)3)、米軍の準機関紙 Stars and Stripesは29km(18マイル)としている4)。なお自衛隊は中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)5)や中期防衛力整備計画(平成 31 年度~平成 35 年度)6)でPAC-3MSEの配備を進めると記載しており、いわゆる防衛3文書の一つ「防衛力整備計画」7)でも、数値目標の記載はないが、「必要な数量を早期に整備する」としている。

原発とPAC-3
 では、実際にPAC-3は原発や原子力関連施設のミサイル防衛に役に立つのかを検証するために、地図上にPAC-3配備部隊の駐屯地を中心に半径35kmの円を描き、原発と六ヶ所再処理工場の位置をプロットした。
 結果、驚くべきことに、PAC-3の射程を35kmと仮定した場合、その範囲内に入っている原発は一つも存在しないことが分かった。たとえば、稼働中の九州電力川内原発最寄りのPAC-3配備部隊駐屯地は高良台分屯基地(福岡県久留米市)だ。同基地は川内原発からは直線距離で約160kmになる。日本最大の原発である柏崎刈羽原発や稼働中の伊方原発、再稼働を計画している女川原発や島根原発も同様にPAC-3はかなり離れた場所に配備されている。若狭湾でさえ、範囲内に入る原発は一つもない。
 PAC-3はトラックに積まれているため、もちろん移動は可能だ。起動展開訓練も行われている。しかし、政府は「北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、日本に飛来する場合、極めて短時間で日本に飛来することが予想」「北朝鮮西岸の東倉里(トンチャンリ)付近から発射された弾道ミサイルは、約10分後に、発射場所から約1,600km離れた沖縄県先島諸島上空を通過」8)と説明している。検知してから原発の防衛のために移動して間に合うのだろうか。
 さらに問題なのは、六ヶ所再処理工場が無防備だということだ。六ヶ所再処理工場は実際に商業的な再処理が開始されれば、莫大な放射性物質を抱え込むことになる施設だ。これが破壊されれば、日本壊滅に至りかねない。近隣には米軍三沢基地があり、米軍機の墜落といった事故も起きている。フランスのラ・アーグ再処理施設は地対空ミサイルが配備されることがあり、施設の危険度の高さを物語る。
 PAC-3の配備が原発と関係ないように見えるのは当然で、基本的にPAC-3は自衛隊の基地防衛のために配備され、例外的に市ヶ谷の防衛省に配備して都心を防衛している。だからPAC-3で原発防衛などと言うのは、現時点では実効性が全くなく、やってる感を出しているだけでしかない。   

1) www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/034_03_00.pdf
2) www.mod.go.jp/asdf/equipment/other/Patriot/index.html
3) www.thedefensepost.com/2022/03/30/us-army-patriot-interceptor-thaad/
4) www.stripes.com/theaters/asia_pacific/2023-04-24/japan-missile-defense-north-korea-launch-9901197.html
5) warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11591426/www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2014/pdf/chuki_seibi26-30.pdf
6) www.cas.go.jp/jp/siryou/pdf/h3135cyuukiboueiryoku.pdf
7) www.kokuminhogo.go.jp/pdf/290421koudou3.pdf
8) www.mod.go.jp/j/policy/agenda/guideline/plan/pdf/plan.pdf


図:原発立地地点とPAC-3配備基地35km圏(沖縄県除く)

 

 

(松久保 肇)

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。