原子力規制委員会はこの10年間まともな規制をしたか

『原子力資料情報室通信』第583号(2023/1/1)より

◆原子力規制委員会の役割と限界

 原子力規制委員会は、原子力利用を積極的にすすめるという枠内での規制であるので、おのずと限界があり、規制のすすめ方も消極的になりがちである。運転停止命令が出された例はごくわずかで、原子炉設置許可などの取り消しはなされたことがなく、申請書を受理せずに突き返すという対応はとられることはまずない。

 審査が始まったら、途中で不許可という判断はされず、審査する側からの露骨な誘導や提案によって、ときにはゴールポストを動かすなどして、補正申請によって問題を回避させるという救済がはかられる。原子力規制委員会の不十分な規制の対応ぶりを、最近の話題からいくつかひろって紹介する。

 

◆敦賀2号炉の審査はすすめるべきではない

 12月9日、原子力規制委員会は敦賀2号炉の審査を再開した。 敦賀2号炉の審査は、日本原子力発電が作成した活断層近傍のボーリング調査の柱状図に対して、2020年2月に原子力規制委員会側から内容の改竄を指摘されたことをきっかけに、規制基準の審査が中断されていた(正式に中断されたのは2021年8月18日)。敦賀2号炉は1987年2月に運転開始した電気出力110万kWの加圧水型炉で運転開始から35年が経過している。日本原電は敦賀2号炉の規制基準適合のための原子炉設置変更許可申請書を2015年11月に提出し、審査がスタートした。

 そもそも原子力規制委員会は敦賀2号炉の原子炉設置変更許可申請書を受理すべきではなかった。原発の敷地の中で原子炉から250メートルしか離れていない位置に浦底断層という大地震を引き起こす活断層が通っているだけでなく、浦底断層から枝分かれした活断層が原子炉の直下を走っており、原発の立地条件として不適格だからである。

 「敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」は最終的に2015年3月25日に報告書をまとめ、日本原電から出された異議も否定して、敦賀2号炉の原子炉建屋直下を走るK断層とD-1断層は一体の構造であり、活断層であることは否定できないと結論している。また、日本原電はかつて敦賀原発3・4号炉(2004年申請)の安全審査において、ボーリング調査の結果をもとに描かれる地質の解釈図の“捏造”をおこなったことがある。旧原子力安全委員会の「地質・地盤に関する安全審査の手引き検討委員会」(第2回会合、2008年2月1日)において、中田高さん(広島大学名誉教授、変動地形学)が「(日本原電の解釈図は)『地質学の基本』をねじ曲げたボーリング結果の解釈」だと指摘した。

 日本原電は、地面にとびとびの位置に掘られるボーリング調査をおこなっている。調査結果からボーリング調査されていない位置もふくめた地質図をつくる際に、自分たちに都合のいいようにデータを加工して地質解釈図をつくり、浦底断層が当時の基準(5万年前以降に活動)でいう原発の安全審査で考慮すべき活断層ではない、と主張していた。これについては、委員として手引き検討会に参加し敦賀3・4号炉の行政審査にかかわっていた杉山雄一さん(当時・産業技術総合研究所・活断層研究センター長、地質学)が行政審査でも問題になったことを明かし、「あれを専門家がやったとすれば、僕はたしか意見聴取会で言ったと思いますが、犯罪に当たると思います」と述べている。

 敦賀2号炉の原子炉設置許可の審査時点(1次審査は1979~80年)でも、浦底断層の活動性を示唆するトレンチ調査図があったにもかかわらず、活断層の認定がされなかった、と鈴木康弘さん(名古屋大学教授、変動地形学)が著書の中で指摘している。その後、2007年に敷地内でトレンチを掘って調査をおこなったところ、決定的な証拠が出てきたので、2008年になってようやく日本原電は浦底断層が原発の審査で考慮すべき活断層であることを受けいれ、耐震バックチェックでは考慮する対象の断層としている。しかし、別の断層とつなげることで地震動の計算に使う“活断層までの距離”を250メートルではなく、5キロメートルとすることでバックチェックをすり抜けたようにみえる。

 日本原電は、自分たちに都合のいいようにボーリング結果を加工したことはいまだに認めておらず、間違いであったとも考えていない。反省のなかったことが、次のデータ改竄を引き起こしたことは間違いない。日本原電は敦賀2号炉の原子炉直下の断層が活断層であるという有識者会合の評価を受けいれてはいない。原子力規制委員会は、ためらわずに不許可の判断をすべきである。

 

◆むだな再稼働審査をいつまでつづけるつもりか

 現在、福島第一原発事故以後の新規制基準のための設置変更許可申請が出されて、まだ許可されていないのは、敦賀2号炉をふくめて10基ある。他の9基は、泊1・2・3号炉、大間、東通1号炉(東北)、志賀2号炉、浜岡3・4号炉、島根3号炉である。これらはいずれも(島根3号炉もふくめて)、敷地内の重要施設直下などに活断層があったり、近くに大きな地震を起こす活断層があったり、巨大な震源域内に敷地がすっぽりはいっていたりと、地質・地盤、地震に関して問題を抱えている原発である。

 これらの原発での審査は7~9年(島根3号炉は4年)以上つづいている。しかも、地質・地盤、地震に関する審査がまだ完全におわっていない。審査する側や事業者を支えるコンサルタントなどの人的資源が、柏崎刈羽原発や六ヶ所再処理を優先的にすすめるために割り当てられたという面もあるかもしれない。

 しかし、そもそも原発を建てるのにふさわしくない地質・地盤条件であり、巨大な地震が襲う危険性が高いということが、審査のすすまない原因である。事業者側の能力がないからというよりは、無理筋を押し通そうとしていることから、まともにやっていたのでは審査が通らないという状況である。原子力規制委員会は、人的および金銭的な資源を無駄づかいしないためにも、現在つづけられているこれらの原発の審査をただちに打ち切るべきである。

 

◆先送りの沸騰水型炉の水素爆発対策

 12月7日、原子力規制委員会は「原子炉格納容器ベントのBWRにおける原子炉建屋の水素防護対策としての位置づけの明確化」と副題のついた「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(設置許可基準規則)」の解釈などの変更案を示し、一般からの意見募集をはじめた。追加の設備対策を求めてはおらず、炉心損傷が起きたときに、原子炉建屋の損傷を防止するために、格納容器ベントをおこなうように手順を整えることを要求したものだ。

 これは、炉心熔融するタイミングが確実に検知できて、炉心熔融で発生する水素ガスのほぼ全量が格納容器ベントでコントロールできることを想定しているかのようである。実際に福島第一原発事故で起きたことは、格納容器のトップヘッドフランジ付近から水素が噴出したり、格納容器ベントで排出したはずの水素ガスが非常用ガス処理系から逆戻りして原子炉建屋内で大爆発を起こしたりと、水素ガスがいつどこをどうやって移動したのかがつかめていない。1号炉では原子炉建屋4階の非常用復水器が設置してある区域をふくめて複数箇所で爆発が起きたし(原子力規制委員会は認めていない)、3号炉では3階以下のどこかをふくめてやはり複数回の爆発が発生したとみられる(こちらは原子力規制委員会も認めている)。格納容器ベント系以外から格納容器外にでてくる水素爆発対策として、水素濃度計や静的触媒式再結合器(PAR)を設置することになっているが、オペレーションフロアだけに設置され、基数も処理能力も苛酷事故に対応できるレベルとはとてもいえない。

 苛酷事故時の水素ガスの処理のためには、通常運転で想定するより処理能力の高いPARを、下層階をふくめ水素が噴出したり滞留したりしそうな箇所すべてに相当数設置することが必要になる。一方で、設置場所によってはPARの耐震性がネックとなる。また、PARで水素ガスを処理する際に、ヨウ素やセシウムなどがPARに付着するため発熱で高温になり、爆発の着火源になる可能性もあるとして、中部電力は浜岡原発で設置する計画してはいない。今回の解釈の変更は、水素爆発対策の検討の過程ででてきたこうした問題点をすべて先送りにして、設備的な補強はせずに格納容器ベントの手順整備に担わせて、対策をすすめているふりをしている。

 

◆六ヶ所再処理・航空機落下確率の値切り

 最後にゴールポストを動かした事例を紹介する。日本にある原発や核燃料関連施設のなかで、航空機の墜落に対する防護設計がされているのは、青森県六ヶ所村にあるウラン濃縮工場と再処理工場(海外返還ガラス固化体貯蔵施設をふくむ)のみである。施設の近くに三沢米軍基地と射爆撃訓練場があるための特別措置である。しかし、想定している航空機(戦

闘機)の種類が最新の配備機でなかったり、衝突速度の想定が不十分だったりという問題がある。

 新規制基準では航空機墜落確率の評価手順をさだめていて、その手順によって計算された確率の値が1000万分の1未満であれば、施設側に防護設計(外壁を厚くするなど)を求めない、となっている。青森地方裁判所でおこなわれている再処理事業指定差し止め訴訟の口頭弁論で、伊東良徳さんは、日本原燃の計算に間違いがあり墜落確率が1000万分の0.96と、判断基準値に迫っていることを指摘した。この確率の計算は実際におこった事故件数をもとに計算するので、その当時の状況で、墜落事故がひと月以内にあと1回でもおきれば、基準を超え、ただちに防護設計が必要になるレベルであった。

 このとき原子力規制委員会がとった対応は、「事業者に防護設計を求める」ではなく、「航空機墜落確率の評価手順を変更する」である。六ヶ所再処理工場がF-16戦闘機に対する防護設計を施されていることを盾に、F-16以下の小型航空機の事故の件数を0.1倍してカウントすることにして、結果として計算される確率の値を小さくする方向に誘導した。

 

表1 日本国内の原発の規制基準審査の状況

(上澤千尋)

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