原子力資料情報室声明:大きな危険を伴う燃料集合体の取り出し 慎重な作業を求める
NPO法人原子力資料情報室は、東京電力福島第一原子力発電所4号機の使用済み燃料プールから近日中に燃料集合体の取り出しが開始されることを受けて、以下の声明を発表いたしました。
【NPO法人 原子力資料情報室 声明】
大きな危険を伴う燃料集合体の取り出し
慎重な作業を求める
2013年11月14日
NPO法人 原子力資料情報室
共同代表 山口幸夫、西尾漠、伴英幸
東京電力は、11月中旬にも福島第一原子力発電所4号機の使用済み燃料プールから燃料集合体の取り出しを開始するとしている。これは、福島第一原発の事故収束作業に欠くことのできない重要な工程ではあるが、しかし極めて大きな危険を伴った作業でもある。国際的な関心も高い。東京電力ならびに原子力規制委員会には、現状の計画に固執することなく、安全評価を改めて行った上で、現場の状況や安全を重視した慎重な作業を行うこと、また適切な情報公開を行うことを強く求める。
事故当時定期点検中だった4号機の使用済み燃料プールには、1,533体(使用済みは1,331体、未使用は202体)の燃料集合体が貯蔵されている。東京電力はこの燃料集合体を22体ずつ構内用移送容器に納めて原子炉建屋4階にある使用済み燃料プールから取り出し、地上までの32メートルを吊り降ろして、敷地内の別建屋にある共用プールに移送する。計画では2014年末までに移送を完了する予定だ。この取り出し作業は、地震や事故によって使用済み燃料プールの健全性に疑問がある状況下では避けて通ることの出来ない作業である。
しかし、この計画においても、東京電力が過去繰り返してきた、甘い想定に基づく安全軽視の傾向を同様に見出すことができる。
まず、東京電力が今回の取り出し作業の安全性確保についても単一故障の仮定を維持しており、原子力規制委員会もこれを追認していることは大きな問題だと考える。東京電力は機器一つ一つが故障した場合でも安全性が担保されるとしているが、福島第一原発事故で我々が目の当たりにしたのは、共通の原因で複数の機器が破壊されるという事態ではなかっただろうか。
次に、この作業で想定される最悪のケースが発生した場合の、緊急時対応計画が見えてこないことも問題だと考える。たとえば燃料集合体を格納した構内用移送容器が損傷した場合、単純な放射線漏えいによる敷地境界の放射線線量率の評価だけで十分とはいえない。人が現場に近づくことさえ困難な状況が続けばジルコニウム火災に至る可能性も否定出来ないと私たちは考えるが、そのような場合、どのようにして対処するのか。東京電力のスケジュールには「緊急時の対応訓練等」という文言はあるが、実際の対応計画が見えない。対応計画の策定及び公開を求める。
また、輸送される燃料集合体の健全性も問題である。事故時、使用済み燃料プールにも海水が注入された結果、当初から燃料集合体の腐食等が懸念されていた。これをうけて東京電力は2012年に使用済み燃料プールから未使用の燃料集合体を取り出し、健全性を確認して問題がなかったと報告している。しかしプール内には、長年保管されてきた破損燃料が存在し、加えて、落下したがれきなどで燃料集合体が破損している可能性もある。そうした燃料の健全性は問題ないのか。燃料集合体を構内用移送容器に移す際に、プール内から取り除くことができなかった細かいがれきで損傷する可能性もある。東京電力はがれきが干渉するなどして燃料取扱機で取り出せない燃料集合体は、別途クレーンで取り出すとしているが、それで損傷しない保証はない。スケジュールありきではない、現場の状況にあわせた極めて慎重な対応が必要だ。
さらには、福島第一原発については、燃料集合体の取り出し以外にも言えることだが、保障措置上の問題はクリアされているのかどうかも懸念がある。核物質の適切な保障措置が行われているのか、情報公開を求める。
我々は、東京電力が他の場面でも引き起こしてきた、想定の甘さに起因する問題の更なる悪化が、燃料集合体の取り出しにおいても生じることを懸念している。よって、東京電力には、1.現状の計画に固執することなく、開かれた場で、計画を再点検すること、2.改めて安全評価をきちんとおこなうこと、3.輸送容器落下に伴う容器破損など最悪の事故の評価とそれへの対策を立案すること、4.取り出し作業はスケジュールを最優先するのではなく、現場の状況を重視して慎重に行うこと、5.適切な情報公開を行うこと、以上の5点を強く求める。
以上