原子力資料情報室声明:原発再稼働に前のめり? 原子力規制委員会の姿勢を問う
原発再稼働に前のめり?
原子力規制委員会の姿勢を問う
2014年2月24日
NPO法人原子力資料情報室
2月18日の閣議後記者会見で、茂木敏充経済産業大臣が、原発再稼働に向けた新規制基準適合性審査の「見通しを示すことは、事業者が経営に一定の見通しを持つうえで有益だ」と述べた。翌19日、原子力規制委員会は「審査の今後の進め方について」という原子力規制庁作成の「たたき台」を了承した。「基準地震動及び基準津波高さが確定し、かつ、他に重大な審査上の問題が無い原子力発電所については、申請書の補正及び『審査書案』の作成のステージに入ることとし」「審査チームの総力を結集して優先的に取り組む」というものである。そのために2~3週間後くらいに「審査状況を島崎委員長代理と更田委員に判断していただく」とした。
委員会後の記者会見では、茂木発言との関係に質問が集中、「総力を結集して優先的に」というのは「前のめり」ではないか、審査が始まった時に「先頭集団の原発を作らない」方針だったのが変わったのかなどの声が上がった。それに対し、原子力規制委員会の田中俊一委員長は「茂木大臣が言ったとか、そういうことは私たちにとっては別に関係ないこと」「先週からこの話はもう進んでいて」と茂木発言との関係を否定、優先については全部一緒にやる力量がないと言い訳をした。
そもそも茂木発言を呼び込んだのは、「先週」の原子力規制委員会で審査状況について原子力規制庁の一般的な報告があった以前に、玄海、川内、高浜、大飯の現地調査で原子力規制委員会の更田豊志委員が「よほどのことがない限り、夏まで審査をやっていることはない」などと踏み込んだ見通しをしゃべり散らしたことかもしれない。1月15日の原子力規制委員会後の記者会見では、田中委員長が「私はいつも審査会合、時間があればYou tubeで淡々と見て、ああ、こういう御議論がされているというのを見ているだけ」「更田さんが何か言ったみたい」と他人事で、まさに無責任きわまりない姿勢をさらけ出した。
原子力規制委員会の審査が信用されない理由のひとつは、その点にある。地震・津波の審査は島崎邦彦委員長代理、プラントの審査は更田委員と、それぞれひとりの委員にお任せなのだ。とくにプラントの審査は有識者会合もなく、委員と原子力規制庁の職員、原子力規制庁に編入される予定の独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の職員のみで進められている。それも、もともと原子力安全・保安院で電力会社の言いなり審査をしてきた職員たちである。科学的・技術的審査の正統性に疑問なしとしない。
そこでなのかどうか「今後の進め方」では、「『審査書案』に対する科学的・技術的意見を広く募集する」とした。意見募集と、立地及び周辺自治体からの要請に基づいて実施する公聴会である。しかし、それらが「科学的・技術的意見」を求める方法として適切だとは思えない。とりわけ立地地元での公聴会には期待できず、再稼働に向けた説明会の様相となることは目に見えている。
茂木発言の後で原子力規制委員会が審査の見通しを示し、総力を結集して「審査書」なるものをまとめたとして、誰が素直に「安全性が確認された」と信用するだろう。安倍政権の言う「世界で最も厳しい水準の新規制基準の下で原子力規制委員会によって安全性が確認された原子力発電所について再稼働を進める」前提が、目下の状況ですでに崩れていることとなるのだ。
原子力規制委員会があくまで政治的圧力とは無縁であり、再稼働にお墨付きを与える意識はないというのであれば、私たちもそうであることを信じたい。信じられるような姿勢を明確に示していただきたいと強く要望する。