原子力小委員会参加記⑧ 原発は民間に引き受けられないリスク
2月20日、第38回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会が開催されました。テーマは経産省から「原子力政策に関する直近の動向と今後の取組」、「放射性廃棄物対策に係る最近の取組状況」についての報告、原子力安全推進協会(JANSI)から「産業界における自律的継続的改善の取り組み」、デロイトトーマツから「次世代革新
炉への投資や再稼働投資に関わる原子力事業環境面での課題」についてプレゼンテーションがありました。総花ですが、山口彰委員長が退任(審議会は原則10年任期)になるとのことで開催したのかな、という印象を受けました。
私は以下の意見を発言しました。
■能登半島地震を踏まえた原子力防災体制の強化
原子力基本法に国の責務として、「原子力事故による災害の防止に関し万全の措置を講じ」ることが明記された。これまで、原子力防災会議で避難計画が「具体的かつ合理的」であるとして国として了承してきたが、今回の地震ではその避難計画が絵に描いた餅であったことを露呈した。避難の実効性が確保できないなら廃炉もやむなしという強い態度で早急に全
国の避難計画の見直しを行うべきだ。
■廃炉支援の強化
有価証券報告書などから分析する限り、北陸電力は2011年以来運転していない志賀原発におよそ8000億円を投じている。最終的に、北陸電力は志賀原発の維持・改修には1兆円以上をかけることになる。これらはすべて電気料金の内数として電力消費者が負担することになる。都合の良いときは原発は安い、でも投資環境整備と称して、電力消費者に費用を上乗せしないと原発は維持できない、建てられないというのはあまりにご都合主義的な話だ。原発への支援というのであれば、むしろ現状の廃炉支援策より踏み込んだ廃炉への支援と廃炉後の地域振興策についてこの委員会で検討するべきだ。
今回の報告の中で最も興味深かったのは、原子力事業環境面での課題です(資料は原子力小委員会のサイトに掲載されているのでご覧いただきたい)。概略、投資回収リスク(事業期間が長期に渡ること、バックエンド事業に不確実性があることなどのリスク)、ファイナンスリスク(巨額の資金需要に対して、企業の与信枠が限られ金融機関が融資できない)、原子力事業環境の長期的な見通しの必要性、といった問題点を指摘し、「官民での役割分担を明確にしたうえで、事業者にとって予見可能性があり、また一貫性のある政策検討が必要」と締めくくっています。前回の報告の際、副題を「原発は自由主義経済の否定か?」としましたが、まさにそのままの内容のプレゼンテーションでした。
委員からは、長期脱炭素電源オークションでは原発支援は不十分(小林委員・黒崎委員・小野委員)、原子力政策に関する長期的な政策の必要性(浅野委員・又吉委員・山下委員)、バンカブル(銀行が融資できる)な制度にするべき・原子力の価値の再評価(遠藤委員)をといった意見が出ました。
最近発表された英国ヒンクリーポイントC原発の建設コストは2基(3260MW)でおよそ8兆円です。柏崎刈羽原発6・7号機(2712MW)の建設費は7800億円でした。およそ10倍です。再処理や放射性廃棄物、事故リスクを考えると、営利企業としては引き受け不可能なリスクとしか言えません。
能登半島地震と志賀原発の問題については、情報発信の在り方に問題があったという意見が、またJANSIに対しては、規制側との緊密な関係性の構築、自主的安全性向上の取り組みを外部発信すべきといった意見がでました。
(松久保 肇)