東京電力福島第一原発事故から14年 政治と司法はどこを向いているのか
2025年3月11日
NPO法人 原子力資料情報室
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から14年を迎える今年、国のエネルギー政策の基本的な方向を定める第7次エネルギー基本計画に原発積極活用の方針が書き込まれて決定された。3・11後、形だけだとしても基本計画に記述してきた「可能な限り依存度を低減する」との文言を削除したのだ。大きな方向転換である。政府は、「政策は変わっていないが、原発立地自治体や原子力産業界の要望で変更した」と説明した。なお、この変更が示された原案について4万件を超えるパブリックコメントが寄せられたが、大勢の反対の声を無視しほぼ原案のまま閣議決定された。
2023年に開始された、除去しきれない放射性物質を含む福島原発の「ALPS処理水」の海洋放出に続き、原発事故によって放射能汚染された表土を取り除く除染作業で発生した「除去土壌」の再生利用の検討が進んでいる。再生利用は、これまで放射性物質として取り扱う必要があるとされてきた放射性物質濃度の80倍もの濃度の土壌を、一定の管理条件を設けて全国で利用できるようにするものだ。
「ALPS処理水」の海洋放出も、「除去土壌」の再生利用も、放射性物質の集中管理の原則を反故にし、多くの市民に無用な被ばくリスクを与えるものである。リスクを受ける市民にとって何らメリットのない被ばくが、福島の復興のためという名目で、また、ICRPが定義する「現存被ばく状況」だから、IAEAが安全を確認したからという根拠で、市民の反対の声を顧みることなく進められている。
また最高裁は今月、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3名のうち死亡により公訴棄却とされた1名を除く2名について、検察官役の指定弁護士側の上告を棄却する決定をし、無罪が確定した。当初、東京地検はこの件を不起訴としたが、国民の中からくじで選ばれた検察審査会による起訴相当の議決を経て争われていたものである。経済活動を追求する企業が大事故を起こしても刑事責任は取らないでよいというメッセージとなった。市民の価値観と司法の価値観の隔たりは、近年益々鮮明になっている。
昨年おこなわれた燃料デブリの試験的取り出しでは、廃炉に向けての進捗がアピールされた。しかし、福島の復興は福島原発の廃炉のゴール像抜きにしては語れないが、それがはっきりと見えてこない。敷地をどのような状態にすることを目指すのか。燃料デブリは回収できるのか。また、燃料デブリだけでなく、解体建屋や水処理廃棄物、除染などで発生する約784万トンとも推計される多様なレベルの放射性廃棄物をどこに保管・処分するのか、それを受け入れる地域はあるのか。ゴールが不透明な状態で重ねられる廃炉作業が、労働者被ばくに支えられていることに留意しなければならない。
政府が今すべきことは、原子力業界の要望を優先することではなく、福島原発事故被害者の真の救済と、市民社会の声に向き合い、福島原発の廃炉に向かって現実的な検討を進めることである。
以上