ストップ汚染水! ―海をこれ以上放射能で汚染しないために―

 『原子力資料情報室通信』第492号(2015/6/1)より

 

東京電力が福島第一原発でこの4年間やってきた主な作業は、溶けた核燃料の冷却だ。その結果約60万トンもの高濃度汚染水が発生し、サイトを貯蔵タンクで埋め尽くす状態だ。3基の原子炉のメルトダウンという巨大過酷事故は、大量の汚染水という新たな問題を発生させ事故対策をより困難にしている。“汚染水問題”の概要を簡単にまとめる。

建屋地下は高濃度汚染水の“ため池”

 東京電力(以下東電)はこの4年間、溶融した核燃料冷却のため毎日約400トンの水を原子炉に注水しており、この水は高濃度の放射能を含んで1~4号機の建屋地下に流れ込む。この汚染水はそこで津波で運ばれたり冷却のために注水された海水、さらに地震で損傷した建屋の壁などから流れ込む地下水約400トンと混合している。1~4号機建屋地下はこれら高濃度放射能汚染水の“ため池”と化している。計約800トンとなるこの汚染水から、東電はセシウムと塩分を除去し、約400トンは再び冷却のために原子炉へ、残り約400トンを貯蔵タンクで貯蔵する作業を続けてきた。(2014年後半から注水量は約300トンになっている。)

なぜ汚染水が増えるのか?

 汚染水が増えるのは建屋へ地下水が流入するためだが、これは福島第一原発の敷地の構造に根本的原因がある。福島第一原発の敷地は本来高さ約35メートルの断崖であったものを、約25メートル削って施設が建設された。また買収時には敷地内に複数の河川が流れていて、敷地造成によって地下水脈が切られ、建設工事は泥沼の中で行われたという報告もある。地下水は、敷地内を山側から太平洋側に約1000 トン/日流れており地震による建屋の損傷や壁の亀裂等から地下部分への地下水流入は止められない。また東電は、建屋内の高濃度汚染水が逆に外部に流出するのを防ぐため内部の水位を外側より低く注入量を調節しているくらいだから、流入は想定内である。溶融燃料の冷却作業は、必然的に高濃度汚染水を毎日発生させる。

地下水バイパス、サブドレン、地下水ドレン

 実は、3・11前から福島第一原発では敷地直下に流れている地下水は大問題だった。大量の地下水は建屋へ浸水するだけでなく、原子炉建屋が大量の水の浮力で浮き上がってしまう危険性をもたらすためだ。東電はこの浮き上がり対策として、地下水バイパス、サブドレイン、地下水ドレンなどによる「水抜き」作戦によって地下水位を下げる作業を行ってきた。地下水バイパスは、敷地山側に設置された井戸(12本)だ。サブドレン(57本)は建屋周囲に、地下水ドレン(5本)は護岸に設置された大きな井戸で、いずれもポンプで地下水をくみ上げ海に放出する設備だ。これらの設備が地下水から建屋を守ってきたのだが、3・11の大地震によって損傷し機能を失った。その結果、大量の地下水が建屋地下に流入することとなった。
 これらの設備が復旧して、事態はさらに深刻になった。事故で放出された放射性物質が、当然これら地下水に含まれるようになり、簡単に海には放水できない。ところが東電は、地下水に含まれる放射能は高濃度汚染水よりは「はるかに低いレベル」として、これら地下水をフィルタ等で除染後、海洋放出する計画だ。最終的に除去できないトリチウムは、1リットルあたり1500ベクレルという「運用目標」なるものを作って(告示濃度限度は同60,000ベクレル)、地元漁協を説得し始めた。すでに地下水バイパスは2014年5月から港湾内に排出している。

ALPS(アルプス:多核種除去装置)

 現在全体で約60万トンに達する高濃度汚染水対策についても、東電は2013年からALPS(アルプス)という設備で62核種の放射能を法令規準以下まで除去し、「処理水」として海洋放出する計画だ。しかしこの装置は運転当初から様々な事故・トラブルに見舞われ稼働率も約50%と低く、想定通りには稼働していない。またCo(コバルト)、Ru(ルテニウム)、Sb(アンチモン)やI-129(ヨウ素129)などは計画どおりには除去できていない。
 高濃度汚染水から放射線の強いSr(ストロンチウム)だけを除去する作業も行なわれている。これは汚染水貯蔵タンク付近の高い放射線量を低減するためとされているが、東電はこのSr除去水も「処理水」と言い始めていて、「放射能除去」の定義のすり替えを始めている。
 原子力規制委員会も2015年1月、汚染水の削減策としてALPS等で処理した「処理水」(トリチウム総量で1000兆ベクレル)の放出を2017年以降認める決定を下している。これはALPS以外の設備で処理された「処理水」の放出も認めるものだ。

 高濃度汚染水には、トリチウムが1リットル当り最高400万ベクレル以上も含まれる。この「トリチウム汚染水」について、東電が独自の「運用目標」を作ってみても、放出総量については法律上の規制がないので、事実上規制なしに等しい状態である。規制側が行うべきことは、東電の汚染水対策の失敗を擁護する方針ではなく、放射能の総量規制の導入であろう。           

(澤井正子)

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