決して再稼働させない、あきらめない 原子力規制委、伊方原発の原子炉設置変更許可
伊方原発反対八西連絡協議会 事務局担当
伊方原発1~3号炉運転差止請求訴訟・共同代表 近藤誠
7月15日、原子力規制委員会は四国電力伊方原発3号機が新規制基準に適合しているとする「審査書」を確定し、原子炉設置変更を許可した。5月21日から意見公募が行われたが、「ただ聞き置く」だけのセレモニーに過ぎないとの疑問がぬぐえない。規制委員会は今後、工事計画や保安規定変更の認可、設備検査を進め、四国電力は地元同意を得て「年内」もしくは遅くとも来年初頭には「再稼働」する計画だ。こうした審査の進行に合わせるように、愛媛県は6月15日に伊方原発の重大事故に備える広域避難計画の修正を発表した。
修正は、四国内の4県を含む周辺6県に避難先を拡大、原発から5キロ圏内の「PAZ(予防的防護措置を準備する区域)」以西の佐田岬半島住民の避難対策の具体化、大分県の受け入れ態勢の具体化の3つを主なものとしている。半島部の避難は、事故直後に道路や港の状況を確認して、避難方法を検討することや、避難できない場合には屋内退避を指示することなどを明記。大半の住民の避難先となるとされる大分県は、避難する地区ごとに受け入れ市町村や寄港地を決めている。一見、従来より柔軟性が加わった計画といえるが、住民からは「実際には混乱することや、子供、高齢者を考慮した乗船方法などのマニュアルが必要ではないか」との危惧や、道路などの崩壊などで避難が困難になることを懸念する声が出ている。しかし修正計画ではそうした場合には「屋内退避を指示する」と住民の「置き去り」を対策としている。また、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SP-EEDI)に関する記述を削除し、放射性物質の実測値を基に避難指示を行うことにした。実測値観測を基にした避難は、実測した時点ですでに放射能が住民の居住地域に達している可能性があり、被ばくせずに避難が可能なのか疑問を呈する声も強い。
半島部から大分県沿岸までは約30キロ幅の流れの速い「早瀬の瀬戸」といわれる海峡があるが、天候の悪い時や、津波発生時には船による航行は難しい。港への接岸すら困難だ。こうした以前からの住民からの指摘に対しては、修正計画では何も反映されていないままだ。また、6月10日に開かれた広域連携推進会議の席上、高知県の災害担当者からは「南海トラフ地震の発生時には、高知県内の避難所が不足すると想定した広域避難について検討している」とし「愛媛県からの受け入れについても合わせて検討したい」と説明。実質的には高知県内の対応すら手が回らないという現状が明らかにされた。四国電力は年内もしくは、来年初めに再稼働に取り組む、としているが、この避難のための広域推進会議の次回開催は周辺の県を含めた防災訓練の実施後の、来年1~2月に予定しているという。少なくともその時期を過ぎるまでは再稼働は考えていないということなのだろうか。
決して稼働させない、あきらめない
こうした再稼働推進の動きに対する住民の抵抗、反撃も強まり、広がっている。
6月7日は、松山市で「福島を繰り返すな!伊方原発再稼働やめよ!!6.7大集会」が開かれ、四国内のみならず、西日本各地から約2500人の市民が参加して、「原発問題はいのちの問題。いのちの犠牲によって成り立つ電気はいりません」と集会宣言を行い、県知事あてに提出した。同集会に先立つ4月21日の伊方原発運転差し止め訴訟第11回口頭弁論では、八幡浜・原発から子どもを守る女の会の斉間淳子会長が反対運動の中で受けたいやがらせ、脅しなどの体験を語り、傍聴者に衝撃を与えた。また、八幡浜市では、同裁判の河合弁護士が制作した映画『日本と原発』の上映会が「伊方原発をなくす」八幡浜市民の会」によって取り組まれ、原発関係の集会、上映は初めてという集落2か所を含め4か所で開催され、予想を超える市民の参加があった。市民の会は昨年10月に結成。以後、毎週金曜日に街頭でのアピール活動、商店街デモ行進を続けており、市民の反応も好意的だ。
さらに、6月17日には、伊方原発反対八西連絡協議会などの呼びかけで、八幡浜、宇和島、大洲、西予、内子などの原発、再稼働に反対する住民が参加して、「STOP!伊方原発・南予連絡会」(南予=南伊予地方)を結成、発足させた。18日には、八幡浜市議会総務委員会で、女の会提出の「再稼働反対要請」の請願、平和と民主主義を目指す全国交歓会(全交)提出の「地震による安全性が確認するまで再稼働をしない」要請が昨年6月議会の同委員会に続いて賛成多数で採択された。本会議では、全交の請願がわずか1票差で否決されたが、前回は審議未了で廃案になったことに比べて大きな前進だ。女の会では、今後も請願を出していくことにしている。
愛媛県内では、ここには紹介していないが、各市民グループによる、独自の再稼働反対の活動が取り組まれており、県や各自治体への再稼働反対要請、四国電力への抗議、要請行動が続けられている。2011年6月11日から始められた市民による毎月11日の伊方原発ゲート前の抗議行動は今月で50回目を迎えた。県庁前の毎週の金曜日抗議行動も続いている。一つひとつの行動は人数が少なく、小さいものに見えても、その全体の力は大きいものになる。こうした市民の行動は、最近の愛媛新聞のアンケートによっても、「国の審査合格が出ても再稼働に反対・どちらかというと反対」の回答が合わせて69.3%と圧倒的な再稼働反対の意思が示されていることからも明白だ。
県知事の姿勢は
このような市民、県民の絶え間ない行動に押されて、愛媛県知事、県議会議長は6月3日、四国知事会も4日にそれぞれ原子力規制庁、経済産業省に対して、伊方原発など原発の安全対策強化として、厳正な安全規制の実施と説明責任の履行、最新知見による厳格な地震・津波対策、原子力規制委員会の独立性確保と外部意見への真摯な対応など9項目。防災対策の強化として、原子力災害対策指針の整備、住民の広域避難体制の整備、避難・輸送路 の整備など5項目を要望した。また、廃炉方法の研究も合わせて要望。池田克彦規制帳長官は「意見募集中で、それらの意見に耳を傾け説明していきたい。廃炉研究も避けて通れず、真剣に取り組みたい」(6月3日付、愛媛新聞)と述べた。
宮沢経産業相は「基準に適合した合格したところは再開させていく方針。地元の理解は大変大事で、国として責任ある対応をしていきたい」と、具体性のない従来の政府答弁だけだった(同上)。なお、中村時広知事は「安全性や必要性について国の考えを示されてから」「期限ありきとは考えていない」と現状は「白紙」とし、市町村、県議会、首長などとの意見交換をし、「最終責任を負う国がどのくらいの決意で臨んでいるかを明確にし、県民に報告する」と再稼働の是非の判断時期を述べている。しかし、意見を聞く自治体の範囲については「意見を述べてくるところ」とあいまいな答弁に終始している。
いずれにしろ、こうした知事の国、規制委員会に対する要請は、同委員会が、審査案を了承した後の行動であり、規制委員会の審査結果について、信頼できないことを公に明示したことになる。麻生財閥が長年にわたって君臨する九電の川内原発は強引に再稼働へ向けて走っているが、民意に逆らった暴走は必ずや大きなしっぺ返しをこうむるであろう。四国電力・伊方原発も同様である、大幅に余る電気需要の状況であるのに、再生可能エネルギーの購入をサボタージュして、原発をベースロードと称して稼働させようと目論んでいる。しかし、伊方原発には、他の原発にはない大きな危険性、難題がいくつもある。
伊方原発が抱える難題
第一に原発沖に確認されている日本最大の活断層、中央構造線活断層帯だ。もし動けば、マグニチュードで「8ないし、それ以上」というとてつもない巨大地震を引き起こす可能性が指摘されている。新規制基準では基準地震動の加速度を再三の見直しの挙句に650ガルまで引き上げたが、現実には2007年に発生した新潟県中越沖地震M6.8での柏崎刈羽1、4号炉での基準地震動に相当する解放基盤表面はぎとり波は1699ガルに達し、2008年岩手・宮城内陸地震M7.2ではそれまで予測されていなかった活断層が動き地表面で4022ガルを観測した。
入倉孝次郎京都大学名誉教授は、2014年3月の愛媛新聞のインタビューで「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値に思われることがあるがそうではない。(四電の基準地震動)あくまで目安値。平均像を求めるもの(略)。基準地震動は出来るだけ余裕を持って決めた方が安心だが、それは経営判断だ」と原発の基準地震動の値の決め方の実態を証言した。これを受けて私たちは「伊方原発3号炉の基準地震動650ガルは最大の地震動を想定したものではなく、平均像に基づいて設定されたものであり、最大の地震動は少なくともそれを10倍したものでなければならない。本件に即して言えば、6500ガルの地震に耐えなければならないが、ストレステストの際の伊方3号炉のクリフエッジ*は855ガルに過ぎず、想定される最大の地震には耐えられず、重大事故を起こし、原告らが被曝や日常生活の喪失を強いられることは明らかである」(2015年4月3日陳述。伊方原発運転差し止め請求訴訟原告準備書面40)と四電の基準地震動の非科学性を明らかにした。
7月13日未明、伊方原発から南西約60kmの大分県佐伯市付近を震源とする地震が発生した。震源深さ60km、マグニチュード5.7の地震規模としては小さいものであったが、震源付近は震度5強、筆者の住む八幡浜市は震度4、隣接の西予市は同5弱の揺れとなり、宇和島市では、市役所のロッカーが倒れ、資料が散乱するなどの被害があった。地震の揺れで飛び起きて「もっと大きい揺れが続いて来るのではないか」という不安を抱いたが幸いにも来なかった。しかし、いつかはこの不安が現実になる日は来るのだ。地元紙のコラムでも同様の危惧を記載していた。県民が一様に抱いている不安と思いなのだ。
危険性は一層強まっている
伊方原発は現在は運転停止しているが、補助建屋の核燃料プールに損傷が生じたり、冷却機能が失われる事態になれば、福島事故と同様か、それを上回る悲惨な事態を招く。原発がある限り、私たちの不安と恐れはなくならない。また、伊方原発の立つ三波川変成帯の地質は地すべり多発地域であり、四国の地質の特色でもある。大雨、地震によって原発周辺だけでなく、四国各地で地すべりが誘発すれば、仮に運よく非常用電源が一時的に働いても、送電網の広域の損壊で、長期に亘る電源の喪失が予測されているが、新規制基準審査では無視されている。
何よりも、直下ともいえる大断層が動けば、制御棒を含めた運転停止機能が働く前に核燃料を大きな衝撃が襲い、核燃料の暴走事故につながる可能性が強い。
こうした事態が起きた中での住民の避難など、混乱の極に達するだけで、放射能の降り注ぐ下で大量に被ばくする結果しかありえない。避難計画の書面は誰にでも書ける。しかしいざ事故になれば、ただの紙切れの過ぎないことは福島原発事故が実証している。
また、佐田岬半島全域を含めた愛媛県の空は、米軍の管制下にあることはほとんど知られていない。原発施設上空も米軍機が我が物顔で飛んでいる。1988年には原発ドームから1kmも離れていない山腹に米軍の大型ヘリが激突し乗員7人が死亡する事故が起きた。しかし事故現場には、土地所有者、国会議員さえ立ち入ることが出来ず、拳銃を携帯した米兵だけが現場を歩き回っていた。こうした大事故にもかかわらず、事故報告書すら公表されないままだ。山口県の岩国基地と沖縄県普天間、嘉手名米軍基地を結ぶ線上に伊方原発は建設された。しかし、1~3号炉の安全審査では全く無視された。新規制基準審査でも米軍機の飛行実態は無視されたままに落下確率計算が出され、施設に落下する確率は低いとして、実際に施設に航空機が衝突した場合を想定した審査は行っていない。原発の本当の安全にかかわる審査は全てこの様に、「重要な事項は審査しなくて済む」ための口実を作るだけの「審査」でしかないのだ。事故多発の米軍ヘリ、オスプレイの国内、岩国基地への配備によって、米軍機墜落事故の危険性は一層強まることとなる。
急峻な地形上に立地する伊方原発の敷地は福島第一原発の敷地の4分の1の面積しかない。福島と同様の冷却体制が必要になっても汚染した冷却水をためるタンクの設置場所はない。汚染水は瀬戸内海に垂れ流すしかない。それでも再稼働を強行するというのか。
川内原発を動かしてはならない。もし稼働が強行されても、即刻、停止させなければならない。伊方原発も決して再稼働させない。あきらめないこと、レジスタンスを続けることが必ず実を結ぶ時が来る。現実に2年~3年にわたって私たちは原発を止めているのだ。追いつめられているのは原発推進派なのだ。