放射線作業離職者に健康管理手帳を!

『原子力資料情報室通信』372号(2005年6月1日発行)より

放射線作業離職者に健康管理手帳を!

放射線作業離職者に健康管理手帳を!全国連絡会
全造船機械関東地協(石川島分会)

内山俊一

健康管理手帳とは

 労働安全衛生法は職場になじみ深い労働者保護法の一つであり、その67条には「健康管理手帳」として、離職後がんその他重度の健康障害を発症するおそれのある業務従事者には、離職の際健康管理手帳を交付し、健康診断と治療を受ける権利を保障しています。健康管理手帳の交付は12業務、これまでの交付者数は約2万8000名で、実はその半数を粉じん作業が占めており、その業務内容は「じん肺法」に規定する作業を要件としています。「じん肺法」は多様な粉じんのうち、鉱物性粉じんを吸入することによって生じたじん肺および合併症への対応として、適正な予防と健康管理、その他必要な措置を講じることを定めています。
 じん肺は企業在籍中の健康診断はもちろんですが、慢性的に進行する疾病であることから退職後も健康管理手帳を交付し、健診と治療を受ける権利を生存中保障しているわけです。私たちの必要を満たす生産に携わり、その業務から受けた損害を回復し、維持できるよう保障することは社会的に当然のことと考えます。

多発性骨髄腫の労災認定

 じん肺作業者同様に放射線作業者、特に離職者に対して健康管理手帳の交付を求める取組みは今回がはじめてではありません。諸団体の苦労の積重ねもあって労災認定は大きく前進し、特に厚生労働省は白血病以外のケース、つまり多発性骨髄腫と放射線業務との因果関係について、疫学文献などを検討し、判断を下しています。
 問題の発端は石川島プラント建設㈱(IHIの100%子会社)の元社員長尾光明さんが、離職後13年近く経て発症した多発性骨髄腫を労働災害として申請したもの(2002年11月)。長尾さんの放射線従事期間は4年3ヵ月、放射線管理手帳の記録による累積被曝線量は70ミリシーベルトでした。申請を受理した富岡労基署は判断を厚生労働省にあずけ、厚労省は専門家による3回の検討会を開き、長尾さんの多発性骨髄腫が放射線作業が原因で発症したことを認めました。富岡労基署は2004年1月、労働災害として認定しました。
 旧科学技術庁(現文部科学省)が(財)放射線影響協会に委託調査した「原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学的調査」(第Ⅱ期)は95年3月時点で、放射線作業従事者30万人、そのうち被曝作業に従事していない者、日本国籍を有しない者を除く人数を24万名とし、さらに99年3月時点で住所不明、女性、20歳以下、85歳以上、等を除く者は約17万6000名としました。この対象内でも、ガン・悪性新生物で死亡した人は2138名、多発性骨髄腫で死亡した人は少なくとも8名います。この調査は死亡調査で、生存し闘病中の労働者は上げられていません。これらは「じん肺」同様の保護の必要性を求めています。

離職後のささやかな安心

 そしてさらに直視したいのは、労災申請と認定の実態、そして東京電力をはじめとする電力側の対応です。放射線管理手帳は1970年頃から原発の運転が開始されるに伴って従事者に所持させることになっていましたから、30年間経過の2003年3月時点では30万人に達しています。労働災害として申請したのは14名、しかもそのうち認定者は9人という実態です。
 中部電力浜岡原発の作業が原因で慢性骨髄性白血病で死亡した嶋橋伸之さんの場合、雇用主から、労災は時間がかかりいろいろ調べられて大変だからと、示談を持ちかけられた経緯があります。こうした隠蔽工作が他にもあるだろうと考えても、この申請と認定数は腑に落ちない問題を含んでいます。
 最も被害を蒙るのは離職した被曝労働者です。企業は離職した後は雇用関係はないからと、定期健康診断や治療に便宜ははからないし、法的保護も無く、全くの無権利状態に放置されている現状です。被曝を累積し命を削って作業した労働者への無関心が壁となっています。ここに離職後の健康管理に法的保護を求める理由があるのです。予防の健康診断と治療の法的保護があることは労働者にとってささやかですが、安心材料なのです。

放管手帳と抱き合わせで

 放射線管理手帳は放射線従事者中央登録センターが発行管理していますが、そもそもこの登録
センターは国の機関ではありません。東京電力など原子力事業者と東芝やIHIなど、建設・保守事業者が資金を出しあって管理運営する放射線影響協会(上記の放射線従事者に係る疫学調査も同協会の放射線疫学調査センターが実施)です。企業は登録センターから手帳を購入し、労働者に交付し、在籍中は労働者の紛失を避けるためということで、企業の関係部署が保管し、退職時に本人に返却するという仕組みです。従って、本来手帳は企業のものという意識が働くから、本人が手帳紛失などでその確認に迫られ、退職後の事情から登録センターに確認しようとしても、センターから言わせると企業を通して請求してくれということになります。二重三重の原発請負体制では、企業が確実に存続する保証もないから企業を通しての手帳入手は危ういものです。
 私たちは、国との交渉で従事者の離職時に健康管理手帳発行を求めています。放射線管理手帳も離職時に本人に返却されるので、最も合理的な処理として厚生労働省が手帳発行手続時に、放射線管理手帳も同時に添付する便宜をはからうのがよいと思います。

 「放射線作業離職者に健康管理手帳を!全国連絡会」では、ブックレット『被曝労働者にも健康管理手帳を!』(300円)を発行しました。大いにご活用ください。

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