10・12 資料室「40周年」記念の集い

 『原子力資料情報室通信』第497号(2015/11/1)より

 

 原子力資料情報室は10月12日、設立40年の記念の集いを東京で開いた。110余名の会員のみなさまに参加していただいた。たいへん有難うございました。第一部は、花崎皋平(はなざきこうへい)さんと武藤類子さんの講演を、第二部ではにぎやかな交流会をもつことができた。
 資料室設立の契機となった京都での「反原発全国集会」(1975年)は、「生存を脅かす原子力」が共通の認識であった。〈原発は多重防護の設計になっている〉、〈原発は安全だ〉、〈原発の電気は安上がりだ〉という電力、国、推進学者にたいしてきびしく反論し、批判した。その上、万一のとき「どのように責任をとるつもりなのか」と反問した。いま、私たちはこれらすべてに、いっそう現実的な今日の問題として直面している。
 北海道小樽市在住の花崎さんは1970年代から知られた哲学者、実践者であり、高木前代表との浅からぬ交流もあった。アイヌの人たち、足尾、水俣、沖縄、三里塚などの民衆の生き方に根ざした深い思索は多くのご著書に結実している。
 2011年9月19日、東京の「さようなら原発5万人集会」で福島から参加した武藤さんのスピーチの中の、「私たちはいま、/ 静かな怒りを燃やす / 東北の鬼です」は、ひときわ大きな満場の共感をよんだ。現在、福島原発告訴団1万5千人の長として東京電力の責任を追及しておられる。1)

日本の民衆思想の三つの柱 

 花崎さんは、あの3・11の年の4月にドイツで読んだ新聞記事と、その後の「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の提言書の背景を考察し、ドイツやヨーロッパ思想・文化と比較して日本の民衆思想を論じた。
 ミュンヘンのカトリック司教が、核エネルギーをふくめてどの世代にとっても好もしくない技術は「われわれがどのような生活を望むか、その限度についての問題である」、その「限度」とは、「万人が持つことができる基本認識であり、キリスト者である必要はない」と語った記事が、はじめに紹介された。
 さらに、核エネルギーについてのあらゆる決定は、技術的経済的観点に先行して「社会の価値決定にもとづく」のであり、「社会の価値決定」こそが第一に重要である、それはエコロジー的責任だと花崎さんは強調した。
 ひるがえって、日本列島住民は、自然の万物に霊性が宿っているとみなしてきた縄文の時代から連綿と伝えられている基層文化に依拠し、戦後に自覚された「平和と人権」思想を受け継ぎ、倫理の大事な柱に据えるべきだと、花崎さんは述べる。
 そう考えるとき、日本民衆の思想の特徴は三本の柱にまとめられるという。第一に、「ただの人」であることを誇りに生きることとして、田中正造、石牟礼道子、滝沢克己を例にひいた。第二に、生存基盤と結びついた生き方に倫理的な価値をおく「生存権」を主張した沖縄の安里清信(あさと せいしん)を、第三に、「霊性(スピリチュアリティ)」をあげ、アイヌの人たちふくめてこれらの人々に共通している、と述べた。
 そして最後に、反原発運動における女性たちのねばりつよいやりかた、古文書を貸し出すのに対馬の民衆が二日がかりで結論にいたったやりかたを高く評価し、とことん話し合ってからきめることがこれからの脱原発運動に望ましい、と語った。

原発事故は終わらない

 前日の柏崎の集会から駆けつけてくれた武藤さんは、福島の現状、原発事故の責任追及、原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)2)の福島県民集会と県への申し入れ行動について、たくさんのスライドをつかって、説明された。
 事故から4年半をこえる福島では、原子炉内の核燃料のゆくえも分からず、汚染水は凍土壁のめどが立たず深刻化し、空と海に毎日放射性物質が放出され、1日7千人の作業員が搾取と危険のなかで被ばく労働を強いられ、除染で出た放射性廃棄物はフレコンバッグが破れ、大水で流出し、仮置き場の線量が高い。
 国と福島県は線量が下がりきらない地域の避難指定を解除し、避難者の借り上げ住宅制度の廃止、賠償打ち切りを当事者の意見を聞かずに決めた。
 小児甲状腺がんの多発という警告を封じこめ、新たな放射能安全神話がつくられようとしている。三春町の小学校では官製テキストで放射能と共存しようと教育がされている。
 福島では災害関連死が津波での死亡を超え、故郷への郷愁と放射能への不安のはざまで、精神の疲労は限界に来ていると、福島の苦悩を語った。
 最後に武藤さんは、事故前の自然ゆたかなくらしを振りかえり、愛犬の肖像を見せながら、「自分の頭でかんがえて生きよ」ということだろうと、述懐した。
(山口幸夫)

1)さる7月31日、東電元会長と副社長らの3名にたいして強制起訴が決定し、市民の正義が一歩進んだ。
 kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/
2)「ひだんれん」は、住宅無償提供打ち切り・避難指示区域解除・賠償打ち切りの撤回を求める要請を福島県
知事に提出しており、10月27日に行動が予定されている。 hidanren.blogspot.jp/