原子力資料情報室声明:産業界の日印原子力協力協定調印推進姿勢に抗議する

産業界の日印原子力協力協定調印推進姿勢に抗議する

 

2015年11月26日

NPO法人 原子力資料情報室

 

 

 日本原子力産業協会は11月12日に、「日印原子力協力協定の締結に向けて~原子力平和利用を通して世界に貢献を~」と題する理事長声明を発表した[i]。このなかで、高橋明男理事長(元東京電力フェロー)は「原子力を含む幅広い分野での日印協力関係の強化は両国の発展のみならずアジア地域の更なる安定と発展に寄与するものと期待されている」とし、さらに「わが国の産業の活性化と共に、原子力技術の維持・向上および人材の育成・確保につながる」とのべ、日印原子力協力協定の締結をビジネスチャンスと捉え、期待を寄せている。また11月17日には日本経済団体連合会が「戦略的なインフラ・システムの海外展開に向けて ~主要国別関心分野ならびに課題2015~」とする提言[ii]のなかで、「原子力発電も安定的な電力供給に貢献するものであり、直近の日印首脳会談に併せて、原子力協定を締結することが求められる」とした。

 いずれの文書も、日本政府にインドとの原子力協力協定を締結することを促すものだ。

 

 私たちはこうした産業界の動きを、平和と民主主義という社会の重要な基盤を損なうものであり、極めて深刻な問題を包含していると考える。

 

 インドは、核不拡散条約(NPT)に非加盟の核兵器保有国であり、今後もNPTには加盟しない姿勢を示している。またインドは民生用・軍事用に原子力施設を峻別するとしているが、イスラエル、パキスタン、北朝鮮とならんで、核兵器用の核物質の製造を停止していない国でもある。このインドの核兵器は、隣国パキスタン、そして中国の保有する核兵器と相まって地域に強い緊張関係を生み出している。

 そのような国と原子力協力協定を締結することは核保有を認めることとなり、核兵器を廃絶するという世界の多くの市民の願いに逆行する事となるのみならず、インドの核兵器保有国としての地位をいっそう強固なものとすることに繋がる。さらには地域の緊張関係を核戦争にエスカレートさせかねず、平和という私たちの社会の存立基盤を根底から覆しかねない。

 

 さらに、現在、インド政府は原子力発電所建設に懸念を持つ地元住民などを抑圧[iii]し、ときには暴力的に弾圧し[iv]、民主主義という社会の基盤を掘り崩している。スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故、そして福島第一原発事故など、深刻な原子力事故は繰り返し発生しており、地元住民が原子力発電所の安全性に懸念を持つのは当然である。そのような懸念を力で抑圧しようというインド政府の姿勢は、まさに非民主主義的な態度である。

 インドでは多くの原子力発電所建設計画が存在するが、1箇所を除いて計画は進んでいない。その理由のひとつに日本との間に原子力協力協定がなく、日本製原子力資機材が輸入できないということがあげられている。つまり、日本がインドとの原子力協力協定を締結することは、現在動いていない原子力発電所建設計画が進むということを意味しており、結果、その安全性に懸念をもつ地元住民の反対運動と政府によるその暴力的な弾圧という構図がさらに拡大するということをも意味している。

 

 経団連が自身の「企業行動憲章 ― 社会の信頼と共感を得るために」[v]の前文で「国の内外において、人権を尊重し、関係法令、国際ルールおよびその精神を遵守しつつ、持続可能な社会の創造に向けて、高い倫理観をもって社会的責任を果た」すと謳うように、もはや人権や持続可能性に配慮しない企業活動は、社会に受け入れられない。

 

 一方で、まさに戦争こそが最大の人権侵害、社会の持続可能性を破壊するものであり、核戦争はその最たるものであることは、戦争被爆国日本が十二分に理解していることだ。NPTに加盟しない核兵器保有国インドとの原子力協力協定の締結は、その核戦争のリスクを高めかねない。さらに、インドでは原子力発電所に反対する市民の人権が抑圧されており、この協定を締結することはその抑圧をさらに促すことにつながりかねない。

 このように極めて重大な問題を抱えるインドとの原子力協力協定の締結を促す産業界は、インドへの原子力関連資機材の売却や原発建設といった一時的な利益と引き換えに自らの存立基盤を掘り崩そうとしていることを自覚するべきである。そして自らの社会的責任を果たすべく、これらの提言を撤回し、平和と民主主義を求める日本・インドひいては世界の市民の声に応えるよう、日本・インド両政府に働きかけるべきだ。

 

以上