日・インド原子力分野の協力に向けた協議に反対する要望書
日・印両政府は本日ニューデリーで開催される両国間の「エネルギー対話」において原子力分野の協力に向けた協議に入るとされています。しかし、インドへの民生用原子力協力に被爆国日本の国民は納得していません。
本日、私たちは添付の要望書を政府に送りました。
2010年4月30日
内閣総理大臣 鳩山由紀夫様
外務大臣 岡田克也様
経済産業大臣 直嶋正行様
日・印両政府は本日ニューデリーで開催される両国間の「エネルギー対話」において原子力分野の協力に向けた協議に入るとされている。
2008年9月6日、原子力供給国グループ (NSG)は、米印原子力協定締結に関する米国の意向を受けて、インドを例外として扱うよう、そのガイドラインの変更を決定した。インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟していない。したがって同国の原子力活動は、民生用・軍事用ともに国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置下にはない。そのためNSGは、インドとの原子力取引を禁止していたが、ガイドラインの変更により認められるようになった。
この決定直後の2008年10月にインドのシン首相が来日した際、日印は原子力協力の協議に入るものと見られていたが、結局、見送られた。その理由を、麻生太郎総理大臣(当時)は次のように述べている。
「日本を含むNSGは9月にNPTに加盟していないインドへの民生用原子力協力を例外的に認めることを承認したが、ただ唯一の被爆国である日本の承認は予想以上に国民の反発が強かった。」「国民を納得させるのに時間がかかる。」「国民の合意を得るまでには時間がかかるだろう。」(日本経済新聞、2008年10月20日付け夕刊)
インドへの民生用原子力協力をめぐっては、現在も「国民の合意を得た」と言えるような状況にはなく、ヒバクシャをはじめ、私たち日本の国民は「納得していない」。私たちは以下のような理由から、本日開催される「日印エネルギー対話」において原子力協力の協議を開始することに強く反対する。
1)インドの例外扱いはNPTに基づく核不拡散体制を根底から覆す
核拡散防止条約(NPT)の「交換条件」の一つは、核兵器を持たないとの約束と引き換えに、原子力面での協力を約束するというものである。そして、1995年NPT再検討・延長会議が採択した『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』は、NPTの認める5つの「核兵器国」(米英ロ中仏)以外への核関連輸出に関しては「IAEAの包括的保障措置を受諾し、かつ、核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的な拘束力のある約束を受諾することを要求すべきである」としている。つまりは、NPT加盟国以外との原子力協力を禁じている。(これは米国の先導によって先に確立されていた NSGの規則を受け入れたものである)。NPTに加盟せず1974年と1998年に核実験を行い、現在も核兵器を製造し続けているインドに対し、原子力面で協力するというのは、NPT体制を根底から覆す行為である。「被爆国」日本は、このような行為に加担すべきではない。
またインドを例外扱いするダブルスタンダードは、NPT非加盟国のパキスタン及びイスラエルと、NPTから脱退した北朝鮮に対し「前例」を提供する危険性があることを、世界の核廃絶運動は警告してきた。実際、パキスタンは国連軍縮会議(CD)で核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に強く反対しているし、パキスタンとイスラエルは原子力協力を求めるなど、警告は現実になっている。日本政府は、こうしたダブルスタンダードを助長するような行為を、厳に慎むべきである。
2)インドのずさんな放射性物質管理が示す安全軽視
インドでは放射性物質管理の不備にともなう作業従事者の被曝などが頻発している。最近も、たとえば2009年11月24日、インド南部のカイガ原発でトリチウム汚染された水を摂取した従業員が体内被曝した事例が報告されている。また今年4月7日には、コバルト60に汚染された金属を扱った作業者が、急性放射線障害のためにニューデリーの病院に緊急入院している。この作業者の被ばく線量は3.7グレイだった。これは国際原子力事象尺度のレベル4にあたる。
この5月にはニューヨークでNPT再検討会議が開催される。その直前に、NPTに加盟していないインドと原子力協力に向けた協議に入ろうとする日本政府に、はたして核廃絶の先頭に立つ意思と資格があると言えるだろうか。またインドとの原子力協力は、日本政府が国際協力の要件として掲げる原子力の3S(安全、安全保障、セキュリティ)にも反する。これらの原則を捻じ曲げてまで国内原子力産業の利益を優先する日本政府の欺瞞的な態度に、私たちは強く抗議するとともに、インドとのエネルギー協力は自然エネルギーや省エネ技術などの分野に限定するよう求める。
青木 克明 (核兵器廃絶をめざすヒロシマの会)
青柳 行信 (NGO人権・正義と平和連帯フォーラム福岡 代表)
石丸 初美 (プルサーマルと佐賀県の100年を考える会)
片岡栄子 (ふぇみん婦人民主クラブ 運営委員)
川崎 哲 (ピースボート 共同代表)
菊川 慶子 (花とハーブの里)
木口 由香 (特定非営利活動法人メコン・ウォッチ)
小林 栄子 (日本熊森協会福岡県支部 会員)
阪上 武(福島老朽原発を考える会)
佐藤 大介 (ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン)
茂垣 達也 (日本生協連商品本部家庭用品部)
設楽 ヨシ子 (ふぇみん婦人民主クラブ 共同代表)
篠原 弘典 (みやぎ脱原発・風の会 代表)
芝野 由和 (長崎総合科学大学長崎平和文化研究所)
清水 規子 (国際環境NGO FoE Japan)
田中 靖枝 (波風の会)
豊島 耕一 (佐賀大学理工学部教授)
内藤 雅義 (日本反核法律家協会 理事)
長峰 直子 (空と海の放射能汚染を心配する市民の会)
新倉 修 (日本国際法律家協会会長・青山学院大学教授)
伴 英幸 (原子力資料情報室 共同代表)
藤本 泰成 (原水爆禁止日本国民会議 事務局長)
船橋 奈穂美 (生活クラブ生活協同組合・北海道理事長)
古沢 広祐 (「環境・持続社会」研究センター)
星川 淳 (グリーンピース・ジャパン 事務局長)
細川 弘明 (アジア太平洋資料センター 共同代表)
柳田 真 (たんぽぽ舎 共同代表)
湯浅 一郎 (ピースデポ 代表)
横原 由紀夫 (広島県原水禁 元事務局長)
吉田 遼 (NPO法人セイピースプロジェクト 代表)
三陸のさんま・わかめを愛する会
東北アジア情報センター