原子力資料情報室声明 インドをNSG参加国として加入させてはならない

 

インドをNSG参加国として加入させてはならない

2016年6月16日

NPO法人 原子力資料情報室

 

 6月23日から24日にかけて、韓国ソウルで原子力供給国グループ(Nuclear Suppliers Group、NSG)の会合があり、その場で、インドをNSGに参加国として受け入れることが議論されると報じられている

 NSGは、原子力関連資機材や技術などの輸出国が核兵器に転用されないために守るべきガイドラインを定めている。1974年インドが実施した核実験(米・カナダの輸出核物質と資機材、技術が用いられた)を契機に、1978年に成立した。

 インドは1998年にも核実験を実施し、核不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons NPT)、包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test-Ban Treaty、 CTBT)にも未だ未加盟の国だ。しかし、2008年の米印原子力協力協定を契機に、インドをNSGの例外措置として受け入れることが決定された。この時は、輸出先として受け入れられたのだったが、今回は、参加国として受け入れるという。これまで、NPT非加盟国でNSG参加国となった国はない。仮にNPTに加盟せず、NPTに定められた核軍縮義務も核不拡散義務も負わないインドがNSG参加国となれば、核不拡散体制のさらなる弱体化が懸念される。

 日本は、昨年12月の日印共同声明において、日印原子力協力協定について、「技術的な詳細が完成した後に署名されることを確認した」(パラグラフ13)以外に、インドがNSGの完全なメンバーになるために協働する(パラグラフ43)ことを発表している。そして、報道によれば今、日本はインドとともに、インドのNSG加入に向けてNSG参加国からの更なる支持を得るための方策を検討中だ。

 しかし、インドのNSG加入は日本が長年主張してきた、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(Fissile Material Cut-off Treaty、FMCT、核兵器の数量増加を抑える目的で軍事用の高濃縮ウランやプルトニウムなどの生産を禁止する条約)にかんする交渉の早期妥結と、明らかに矛盾する。

 

 スイス・ジュネーブで2月、5月、8月の3会期にわたって開催される「多国間軍縮交渉の前進に関するオープンエンド作業部会」(Open-ended Working Group、OEWG)の第2会期(5月2~13日)で、日本政府は3つの作業文書を提出している。そのうちの一本、「核兵器のない世界に向けた効果的措置」作業文書(A/AC.286/WP.22 Effective measures towards a world free of nuclear weapons)において、FMCTの早期妥結は核兵器のない世界に向けた次の論理的なステップ(パラグラフ19)であり、ジュネーブ軍縮会議で実施されているFMCT交渉は長期的に停滞しており、2016年末においても状況が変わらないようなら他の舞台での議論の可能性も検討するべき(パラグラフ21)、だと主張している。

 しかし、この提案は2010年のNPT運用検討会議においても提起され、ロシアやフランス、それに非同盟運動(Non-Aligned Movement、NAM)諸国の反対にあい、取り下げられた。この間の動きを鑑みれば、2010年段階で合意できなかったものが、今日合意できる現実的な提案とは到底思われない。

 ではなぜ、ジュネーブ軍縮会議でのFMCT交渉は失敗しているのか。その主要な理由は、表立ってはパキスタンの反対だ。そして、その反対の最大の理由は、2008年以降、インドがNSGの例外扱いを受けていることへの反発だ。

 日本のFMCT交渉の早期妥結という主張と、現実の国内政策、そして、昨年12月の日印共同声明は矛盾する。FMCTは民生用プルトニウムの問題に触れてはいないが、民生用であってもプルトニウムは核兵器に転用可能である。そして日本は2014年現在プルトニウムを47.8トン保有し、更に六ヶ所再処理工場を稼働させることで年8トンのプルトニウムを使用済み燃料から分離することを計画している。また、日本が核兵器開発をすすめ、プルトニウム増産を止めないインドのNSG入りに協力することは、FMCTの趣旨に明らかに反する。さらに、FMCT交渉の推進においては、より大きなパキスタンの反発を招くことにもなる。それとも、日本政府はパキスタンのNSG入りも支持するのか(現在、パキスタンもNSG加盟を申請中)。しかし、パキスタンもインドと同様、核軍縮に向けては動いていない。

 5月27日、安倍首相はオバマ大統領とともに広島を訪問し、以下のように演説した。 

「『核兵器のない世界』を必ず実現する。(略)絶え間なく、努力を積み重ねていくことが、今を生きる私たちの責任であります。(略)世界の平和と繁栄に力を尽くす、それが、今を生きる私たちの責任であります。必ずや、その責任を果たしていく。日本と米国が、力を合わせて、世界の人々に『希望を生み出す灯』となる。」 

 インドをNSGに加盟させることは、一体どのような意味において核兵器のない世界の実現に向けた絶え間ない努力と一致するのであろうか。インドと協力することで核不拡散体制の枠の中に取り込んでいくと主張するが、現実はむしろ、核不拡散体制のさらなる脆弱化をもたらし、希望を消し去ることになるのではないか。

 インドをNSGに加入させてはならない。日本はインドのNSG入りに手を貸すべきではない。ましてやインドとの原子力協力協定締結など、もっての外のことである。

 

以上


 

6月30日追記

6月24日のNSG会合でインド加入問題については先送りすることとなった。本件について、下記のコメントを発表している。

 

 韓国ソウルにおいて、6月23~24日にかけて原子力供給国グループ(NSG)の会合がおこなわれた。この会合の重要議題は、核不拡散条約(NPT)に非加盟のインドのNSG加盟だった。

 NSGでは48の加盟国の全会一致でのみ議案が採択される。今回のインドのNSG加盟案は、少なくとも7ヵ国(中国、ブラジル、スイス、トルコ、オーストリア、アイルランド、ニュージーランド)の反対により否決された。反対理由は、インドがNPTに加盟していないことや、NPT非加盟国が加入することで、核不拡散体制が弱体化することへの懸念、また、NSG加盟を申請しているパキスタンと同時に検討するべき、といったものだ。なお、日本は、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、カナダ、オーストラリアなどとともに賛成に回ったと報じられている

 インド加盟は否決されたものの、NSGソウル会合後に発表された声明では、NPT非加盟国のNSG加入にかんする技術的、法的、政治的問題について議論を継続することとされている。例年であれば、次回会合は来年開催されるが、報道によれば、メキシコの提案で年内にこの件で会合が持たれる可能性もある。

 原子力資料情報室は、6月16日に発表した声明「インドをNSG参加国として加入させてはならない」にて述べたとおり、インドをNSGに加盟させるべきではなく、日本はインドのNSG加盟に協力するべきではないと考える。今後もこの問題について、継続的に問題提起をおこなっていく。

 

 

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