もんじゅの試験運転再開に抗議する

もんじゅの試験運転再開に抗議する

2010年5月6日
NPO法人 原子力資料情報室
共同代表 伴英幸

 高速増殖原型炉「もんじゅ」の試験運転再開には強い不安と深い疑問がある。
 ナトリウム漏えい対策を中心に改良工事が行われたといえども、「もんじゅ」本来の危険性、すなわち暴走事故の潜在的な危険は解消されたわけではない。また、ナトリウム漏えい事故は世界では二度、三度と繰り返している。
 「もんじゅ」の安全総点検が終わった後でも、ナトリウム漏えい検出器の不具合が続出した。このトラブルでは日本原子力研究開発機構(以下、原研機構)の品質保証体制や通報遅れに端を発した組織体制の問題が浮かび上がった。後者は14年前の手痛い経験が活かされず、当時の改善がまもられないまま机上のものだったことを如実に示した。
 設備の点検は万全というが、配管の内側の目視点検はほんの一部だけで、大部分は調べていない。燃料集合体も一体を点検しただけだ。この一体も貫通口がないかを確認し、外側を目視点検しただけで、燃料ピン一つ一つの検査は行なっていない。これでは、漏れていないから大丈夫と言っているに過ぎず、とうてい万全の点検とはいえない。「もんじゅ」は14年間も運転を停止し、動かないまま老朽化した設備なのである。
 設備に対してと同時に、これを運転する組織にも強い不安が残る。運転再開は新たな事故を待つようなものであり、とうてい認めることはできない。
耐震安全性も確保されたとは言い難い。耐震安全審査指針が改定された結果、以前には否定された活断層が認定され、敷地直下に2つの断層面があることが分かった。想定される最大規模の地震動の加速度は466ガルから760ガルに引き上げられた。30年も前に466ガルで設計され、これに基づいて20年も前に建設された建屋や機器類が760ガルにも耐え得るという。建屋・機器の「実力」で評価したというが、これらが持つとされた安全余裕を切り詰めた結果にほかならない。燃料集合体や一部の機器・配管類の最終的な耐震安全性は時刻歴波形を使って検討され、安全性が確保されるとしているが、観測地震データもない敷地で計算上作られた時刻歴波形の信頼性があるとは言い難く、まさにロシアンルーレットのようである。加えて、最大の地震動(760ガル)の策定に疑問が残る。震源断層面の不確実性(断層面の上端を4kmでなく3kmを基本とすべき)、その上の地盤減衰の不確実性(630mまでの地盤の減衰率は3%でなく1%とすべき)、水平動と上下動の関係の不確実性(直下の活断層を考えるなら水平動の3分の2の上下動でなく、さらに強くするべき)などを考えると、とうてい十分とは言えない。
いっそう深い疑問は原型炉「もんじゅ」はすでに原型炉としての意義を失っていることだ。次期実証炉へつなぐはずの原子炉は大きく炉型を変えているからだ。次期実証炉は出力を変えて2基建設するといわれているが、言葉の裏にある実態は、1基が原型炉として考えられているということだ。「もんじゅ」の10年程度の発電実績に何ら意義はなく、運転再開は極めて官僚的な対応に他ならない。
さらに加えて、2050年ごろから商業レベルで導入としているが、果たして高速増殖炉の実用化に意味があるのかどうか深い疑問がある。高速増殖炉の開発先進国はすべて撤退した。技術的困難、経済的困難、社会的合意の困難の3つの大きな困難が克服できずに撤退したのである。本格運転前にナトリウム漏れ火災事故を起こしたような日本の技術が、困難を克服できるとは考えられない。技術力の低下はそこかしこで指摘されていることである。また、実用化のためにはコストが原発並みに、あるいはそれ以下になって、この炉の経済的有利さが証明されなければならない。「もんじゅ」の建設費は軽水炉の7倍以上高く、遠い先の50年ごろからの実用化と言ってみても、何ら根拠のある数字ではない。スケールメリットなどが描かれてはいるが、現在の技術の延長上に経済的困難が克服できるとは考えられない。
加えて、高速増殖炉のプルトニウム増殖はプルトニウム239の割合が98%に達する超核兵器級のプルトニウムの増殖である。しかも、この再処理は核分裂生成物が少ないことから、原発の使用済み燃料の再処理に比べて容易といわれる。核拡散が深刻な状況に陥っている現代の国際社会にあって、このプルトニウムの取り出しが容認されることは考えにくい。社会的合意の面からも困難が克服できるとは考えられない。
「もんじゅ」の運転再開に抗議すると同時に、運転を即時停止して、高速増殖炉から撤退することを訴える。