第94回公開研究会報告 共に抱えるジレンマ:日本とアメリカのプルトニウム問題―トム・クレメンツさん

『原子力資料情報室通信』第508号(2016/10/1)より

 8月10日、米国のサウスカロライナ州にあるサバンナ・リバー・サイト(SRS)核施設を監視する団体(SRSウォッチ)の所長であるトム・クレメンツさんを講師として公開研究会を開催した。SRSは、米国内では最も大きくて重要な核施設で、冷戦後の主な作業は、不要となった核弾頭に入っていたプルトニウムを処分することである。現在では、13トンのプルトニウムがSRSで保管されているが、処分は思う通りに進まない状態である。
 今年の3月に茨城県の東海村にある高速炉臨界実験装置(FCA)から331kgのプルトニウムがSRSに輸送された。さらにスイスとドイツからも今年、プルトニウムが輸送されており、他の外国からも送られる予定だ。サウスカロライナ州民は「ふるさとが国際的なプルトニウムの捨て場になるなんて許せない」と声をあげ、州知事も政府に対して抵抗している。
 日本からのプルトニウム輸送についてクレメンツさんは、次のように語った。「プルトニウムを東海村からSRSに移動することが本当に核不拡散に貢献するなら、サウスカロライナ州民は少しは受け入れるような気になったかもしれない。しかし、これは全く政治的な理由でしかない」。2014年の核セキュリティ・サミットで安倍総理はオバマ大統領に「安全」のために東海村のプルトニウムをアメリカに輸送すると約束したが、「もし日本が真剣にプルトニウムの問題に取り組むのなら、こんな意味のない見せかけのことではなく、まずはプルトニウムの生産を止めるべきだ。これから年間8トンのプルトニウムを生産する見込みの六ヶ所再処理工場を凍結することこそ、核セキュリティに意味のある貢献だ。それなくして、331kgのプルトニウム移動はサウスカロライナ州民をただ苦しませるだけだ」とクレメンツさんは訴えた。
 1950年代から冷戦が終わるまで、SRSは、アメリカの核兵器のための材料を生産する役割だったが、皮肉なことに冷戦後は、生産した大量の核兵器用プルトニウムが不要になったとして、処分する役割に切り替えられた。2000年にアメリカとロシアが廃兵器から取り出したプルトニウム、それぞれ34 トンを処分することで合意した。処分方法はプルトニウムをMOX燃料に加工し、原発で燃やすことだ。2007年にはSRSでMOX燃料工場の建設を開始した。しかし、MOX工場ではさまざまな技術的な問題や商業的な問題が発生し、建設は大幅に遅れている。アレバ社の設計のもとに建設を進めていたが、設計上の問題が発生して、やり直しの部分などで遅れが生じた。また、コストも高いので、MOX燃料には需要がないなど、さまざまな問題がある。
 米国のMOX政策の発端は、もちろん日本と違う。米国ではプルトニウムをそもそも燃料として考えたわけではなく、あくまでも MOX燃料製造は兵器級プルトニウムを処分するための手段である。とはいえクレメンツさんによると、米国のMOX経験には、日本への教訓があると言う。2014年には米国エネルギー省のプルトニウム・ワーキング・グループがプルトニウムをMOX燃料に加工し、燃料として燃やすよりも、希釈し核廃棄物として処分したほうが費用削減効果がはるかに高いという推定を発表した。SRSで建設中のMOX工場は今まで50億ドルをかけ、約50%完了しているにもかかわらず、2017年度のエネルギー省予算ではMOXプロジェクトを廃止し、コストが低い、しかも速い「希釈・処分」方法を活用することを提案している。エネルギー省のデータによると「希釈・処分」よりもMOX処分方法は320億ドル以上高くなる(表)。この理由も含めて、クレメンツさんは、このMOX工場が実現すると思わないと言う。
 SRSでは長い年月をかけて、さまざまな方法でプルトニウムの処分に取り組んできた。クレメンツさんは、 プルトニウムを高レベル放射性廃棄物と一緒にガラス固化するのが最も効果的な方法であると主張している。しかしこの方法は2002年に開発が取りやめになり、現在はできない。新たな選択肢の中では 「希釈・処分」が選ぶべき方法だと言う。
 酸化プルトニウムを「スターダスト」と呼ばれる秘密の物質と混ぜることによって、兵器級プルトニウムにかかっている保障措置を終了させ、高レベル放射性廃棄物として扱うことが可能になるというものである。そうなれば高レベル放射性廃棄物と同じようにパッケージし、処分することができる。SRSでは約350gの希釈されたプルトニウムを缶に入れ、それを輸送用のドラム缶に収納する。この方式だと1トンのプルトニウムを処分するのに約2600本のドラム缶が必要となる。これはMOX処分方法より効率がよいので、クレメンツさんだけではなく、エネルギー省も米国連邦議会もMOXにはあまり積極的ではないようだ。
 クレメンツさんの話を聞いて、アメリカのプルトニウムに関して恐ろしい皮肉を感じた。SRSの存在の前半の役割は核兵器のためにさまざまな物資を生産することだったが、存在の後半はその核兵器の分離のために出てきたプルトニウムの処分が主な役割となった。しかし、もっと恐ろしい皮肉は日本の現在の政策である。SRSで深刻な問題をかかえながら必死で処分しようとしているプルトニウムという物質を、日本はこれから大量に生産しようとしている。しかもそのプルトニウムを今、六ヶ所村に建設している工場でMOXに加工し、燃料として使用するという方針だ。しかしMOX燃料の利用は、アメリカでは大失敗している。エネルギー省は、高額の資金をすでに使っているにもかかわらず、MOX方式は経済的に生産が合わないと発表し、打ち切る方向に動いている。
 日本にとっての教訓は明らかである。再処理とMOX燃料加工・使用の泥沼に沈まないように、直ちに政策を変更する。日本という唯一原爆攻撃を経験した国、核不拡散を真面目に取り組むべき国として、プルトニウムをSRSに送り込むという無意味な行為をするべきではないし、1年間にプルトニウム
8トンを生産する見込みの六ヶ所再処理場をとりやめなければいけない。そして、日本はアメリカと力を合わせて、核廃棄物としてプルトニウムを処分する方式を開発すべきである。 

(ケイト・ストロネル)