【声明】 福島原発事故の損害を消費者転嫁する前に東電の破産処理をすべきだ

福島原発事故の損害を消費者転嫁する前に東電の破産処理をすべきだ

2016年12月19日

NPO法人 原子力資料情報室

 

 福島第一原発事故の損害費用を広く消費者に転嫁するという本末転倒した制度の導入が目論まれている。ことの発端は10月に東京電力がこのままでは債務超過になり経営破綻する恐れが出たことを理由に政府の救済を求めたことにある。政府は東電を破産から救済するために、「新制度」を導入して消費者転嫁をいっそう進めようとしている。私たちは、なし崩し的かつ上限のない青天井の救済策より、東電を破産処理した上で出直すことを求めたい。

 

 「新制度」の導入は2020年、総括原価方式が終了した時点である。損害費用は、現在は東京電力が電気料金を通して調達している。損害賠償費用が被災者目線で支払われていない問題があるが、それはともかく、例えば、発送電が法的に分離される2020年以降は、送電会社を通して損害費用を確保しようとするのが「新制度」である。こうすることで東電と契約解消した消費者も費用を支払わされることになる。4年も先に導入する制度をいま決めているのだが、いったん消費者転嫁の「新制度」が導入されれば、今後、増えていく損害費用に容易に対応できる。

 東電の損害額は賠償費用8兆円、除染・中間貯蔵5.6兆円、廃炉費用7.9兆円という。経産省が改めて見積もりをした結果だ。ただし、廃炉費用の金額は廃炉支援機構からのヒアリングを転記しただけで、経産省自身が見積もったものではないと、無責任な対応をしている。廃炉に要する金額はさらに膨らむ可能性が高い。不透明なのは、費用のうち事故炉の廃炉技術の開発費用は政府が負担していて、東電負担がどの割合かが明らかになっていない点だ。上記見積で廃炉費用がヒアリング結果を吟味せずにそのまま載せているのは、あえて政府負担分と東電負担分を明らかにしないために違いない。

 損害額のうち、除染費用4兆円は政府が購入した東電株(1兆円)の売却益を充てる皮算用だ。中間貯蔵1.6兆円は電源三法交付金から支出する。税金で賄うことになる。

 問題は賠償費用と廃炉費用だ。賠償費用は送電部門を通して確保したいという。いわゆる託送料金に加えるのだ。

本来なら、東電が身を切って支払うべき賠償を消費者に転嫁することを合理づけるために、経産省は「過去分」という概念をひねり出してきた。「受益者負担の公平等の観点から、事故前に確保されておくべきであった賠償への備え(=過去分)」という。否応無しに原子力の電気を使わされてきた消費者も負担するのが「公平」だというのである。通常では考えられない理屈を振りかざしている。屁理屈さは次のように考えると明瞭だ。レストランが火災になり保険では支払いきれないので、これまでに食事をした方全員に不足分の負担を求めているのと同じようなものだ。

 理屈にならない屁理屈をとおすのだから、金額の根拠も数字合わせそのもので、2015年度の原発の設備容量と1966年から2011年までの設備容量を比較して3.8兆円とし、2020年までには1.4兆円を電気料金から徴収するから残り2.4兆円を託送料金に上乗せするという。

 また、廃炉費用は送電会社の利益で賄うという。合理化を進めその分も廃炉費用に充てる。これが「新制度」の内容だ。

 負担を消費者転嫁する「見返りに」、原発の電気を市場で取引できるように「ベースロード電源市場」を創設することも経産省は目論んでいる。一部の新電力が「安い」原発の電気を卸電力市場に出すことを求めていることへの対応だ。一般消費者はそんなことを望んではないだろう。むしろ原発の電気を使いたくないと考えている方たちが多数だ。それはともかく、すでにある日本卸電力取引所に既存の原子力事業者(大手電力会社)が原発や石炭火力などの「安い」電気を出さないからだといって、ベースロード電源市場を創設すれば機能するとは限らない。詳細は今後決めるというから、結局は市場創設に失敗し、損害費用の消費者転嫁だけが残る恐れが強い。

 東電を破綻させないことを前提に場当たり的な救済策を後付けしているから、理屈にならない論理を押し付けることになるのだ。菅直人元総理大臣が国会エネルギー調査会(準備会)(11月)の席上、2011年当時は事故の最中にあり東電救済が止むを得ないと考えたが、今なら東電を破産処理しても大きな問題は起きないので破産処理をするべきだと述べている。河野太郎衆議院議員は過去分をいうなら過去に原発であげてきた利益をまず差し出すべきで、また、火力など設備を売却して損害に充てるのが真っ当な対応だと主張する。

 東電経営陣や大株主が懐を痛めず、消費者に損害費用を転嫁することは認めがたい。東電の破産処理を行うことが先決だ。

 以上