核施設事故シミュレーション -韓国・日本-

『原子力資料情報室通信』第516号(2017/6/1)より

核施設事故シミュレーション -韓国・日本-

姜政敏(カン・ジョンミン)博士、上澤千尋 講演報告

 

4月28日、衆議院第一議員会館で、米国自然資源防護協議会(NRDC)のカン・ジョンミン博士と、当室の上澤千尋による、核施設事故シミュレーションに関する講演が行われた*。東京電力福島第一原発事故で放出された放射能が広く世界に拡散したように、原子力災害は国内に留まらず国際的問題だ。アジアで原子力事故が起きたとき、被害はどのような様相を呈するのか。韓国の古里原発と日本の六ヶ所再処理工場での事故による放出放射能の拡散シミュレーションから、事故の影響を考えた。

 

使用済み燃料プールでの火災の危険性 ―カン・ジョンミン博士

現在東アジア地域には、中国36基、韓国25基、台湾6基、日本42基の原発がある。そのなかで、今回は、福島第一原発と韓国の古里(こり)原発について、プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル博士、マイケル・シェプナー博士と共同でシミュレーションを行った。気象条件によっては、日本に重大な悪影響を及ぼすことになる。

使用済み燃料プール火災事故
100万kW級原発1基が毎年つくり出す使用済み燃料は約20トンで、その中に含まれるセシウム137の量は、チェルノブイリの事故で放出された約80ペタベクレル(80×1015ベクレル)に相当する。このため使用済み燃料は非常に危険だ。
原子炉の使用済み燃料プールの冷却システム(冷却用ポンプや熱交換器)が停電によって停止したり、故障・破損して水漏れが起き冷却水が失われると、崩壊熱によって使用済み燃料の温度が上昇する。次いで、ジルコニウム被覆材が酸化し、発熱化学反応が起き、火災の原因となる。また、高温になったジルコニウムと水蒸気とが反応して水素が生成され、水素爆発が誘起される危険が生じる。これを米国原子力規制委員会(NRC)では、「使用済み燃料プール・ジルコニウム火災」と呼ぶ。

貯蔵密度
使用済み燃料プールは稠密(ちゅうみつ)化が進められているが、高稠密な使用済み燃料ラックは箱状となっている。この形状ではプールから漏水し、ラック底部に水が残る場合、空気冷却ができず、火災が発生しやすい。
福島第一原発事故では、4号機の炉心に入っている燃料をすべて取り出して、使用済み燃料プールに貯蔵していた。使用済み燃料プールの水漏れが起きたが、幸運にも原子炉ウェルからの漏水が流入して水位が保たれので、悪魔のシナリオと呼ばれる最悪のシナリオは回避された。もし水が追加されなければ、3月30日の時点で4号機使用済み燃料プール火災が発生し、東京まで避難地域を拡大させなければならなかっただろう。
NRC公認のシミュレーション・コード「HYSPLIT」により、福島第一原発事故当時の気象条件を入力してシミュレーションした結果、3月19日に使用済み燃料プール火災が発生した場合は3,500万人、4月9日に火災が発生した場合は160万人が避難を余儀なくされるという解析結果が示された。

古里原発3号機 燃料プール火災シミュレーション

では、韓国の釜山に近い東南部沿岸に位置する古里原発で事故が起きたらどうなるか。古里原発は、1978年に1号機が運転を開始した韓国初の商用原発で、3号機は1985年から運転されており出力は95万kW。古里地域は日本に近く、他国にどのような影響を与えるかを解析した。現在、古里原発3号機には818トンの使用済み燃料が高稠密に貯蔵されている。ここで火災が発生した場合、炉心から取り出したばかりの使用済み燃料は高い崩壊熱を出しているため、最大で90%(1,959ペタベクレル)のセシウム137が放出される可能性がある。今回は、使用済み燃料からセシウム137が75%(1,633ペタベクレル)放出されると仮定して「HYSPLIT」でシミュレーションを行い、地表に落下したセシウム137の沈着量を図示した。
3日間にわたって1,600ペタベクレルが放出されたと仮定して、2015年1月1日の気象データを用いて解析すると、事故後1週間の間に、日本海を越えて中国・四国地方から紀伊半島まで放射性物質が到達する。韓国より日本の方が影響を受けるという結果となった(図)。同4月1日の気象データでは、韓国の沿岸部から北朝鮮、中国・北京、ロシアまで汚染。同9月1日の気象データでは、韓国南部と日本海を越えて日本の北陸、北関東、東北南部が汚染される結果が示された。
気象条件によって韓国は最大で国土の半分が1平方メートルあたり100万ベクレル以上汚染され、約2,400万人の避難が必要になる。ところが、日本はもっと大きな影響を受け、最大で約2,800万人の避難が必要と試算された。4万km2の地域は高濃度に汚染され、30年以上の避難が必要となる。
使用済み燃料プール火災事故の影響は、チェルノブイリ事故や福島第一原発事故より遥かに重大な影響を及ぼすだろう。また周辺国にも大きな損害を与える。もし中国で事故が起きた場合は、韓国や日本にも影響が及ぶことがわかる。

低稠密貯蔵/乾式貯蔵で影響減
使用済み燃料は、高稠密ではなく低稠密で貯蔵し、オープンラックにすると、セシウム137汚染の影響は約25分の1程度に抑えられる。今回のシミュレーションで用いた高稠密条件では、セシウム137が1,633ペタベクレル放出されるのに対して、低稠密条件では65ペタベクレルとなる。低稠密貯蔵にすると、事故の規模を抑えることができる。また、5年間プールで冷却した使用済み燃料は、プール貯蔵より乾式貯蔵キャスクに移したほうが、自然災害やテロリズムに対してより安全になる。

【問】連鎖的に古里1号機から4号機まで、使用済み燃料プールで事故が起きた場合の対策は?
【答】有効な対策はない。避難などのマニュアルはあるが、古里原発30km圏内の人口は約300万人で、実際に避難することは難しい。事故が起こらないようにするしかない。使用済み燃料が出続ける限り、このような事故を完全に防ぐことはできない。

 

六ヶ所再処理工場で事故が起こったら…… ―上澤千尋

1991年に高木仁三郎さんが京大原子炉実験所の瀬尾健さんの開発したソフトをつかって、六ヶ所再処理工場の事故による放射性物質の拡散計算を行った1)。条件として、(1)プルトニウムを含む有機溶媒の火災、(2)航空機事故あるいは地震による廃液タンク破壊を想定した1)。
また2006年に、上記(2)のケースに放射能量や気象設定を加えて、使用済み燃料プールでの事故のシミュレーションを行い、その結果が六ヶ所再処理工場事業許可取り消し訴訟で青森地裁に提出された2)。風が東京方面に吹いているケースでは、生涯リスク線量換算で7シーベルト(全数死亡)の放射性物質が広がる範囲は73.5キロメートルに及び、八戸市・青森市が含まれる。同3シーベルト(半数死亡)では134.4キロメートルに達し、函館市・弘前市・盛岡市などが含まれる。同250ミリシーベルト(急性障害)では691.1キロメートルまで広がり、首都圏・北信越地方・北海道全体がその範囲となることが示された。
これらの結果と解説の詳細は、過去の報告3)などをご覧頂きたい。

 

1) 高木仁三郎「下北半島六ヶ所村 核燃料サイクル施設批判」(1991年,七つ森書館)第Ⅳ部,第4章,pp.199-231
2) 上澤千尋「六ヶ所再処理工場・使用済み燃料貯蔵プールにおける事故時の放射能放出に関する計算書」(2006年1月) https://cnic.jp/files/rk-sf_acc2006.pdf
3) 『原子力資料情報室通信』No.381, pp.1-6(2006/3/1),No.408, pp.10-13(2008/6/1)

 

(片岡遼平)