中越沖地震10周年 福島を忘れない! 柏崎刈羽原発ハイロ県民シンポ

『原子力資料情報室通信』第518号(2017/8/1)より

中越沖地震10周年 福島を忘れない! 柏崎刈羽原発ハイロ県民シンポ

“地震で柏崎の原発に火災が発生した”という緊急連絡を受けたのはつい昨日のことのような気がするが、もう10年がたつ。
さる7月1日午後、300余名の参加者のもとに柏崎市の産業文化会館で表記のシンポジウムが開かれた。主催は「原発からいのちとふるさとを守る県民の会」で、「柏崎刈羽原発の廃炉を訴える科学者・技術者の会」(以下、KKの会)が共催した。基調報告は原発反対地元3団体の高桑儀実(よしみ)さん。つづいて伊東良徳(よしのり)さん(脱原発新潟弁護団)、田中三彦さん(科学ジャーナリスト)、藤堂史明(ふみあき)さん(新潟大学准教授)、武本和幸さん(原発反対地元3団体)の4人が各20分弱ずつの講演をした。それを受けて、4人に高桑さん、松永仁さん(脱原発新潟弁護団)が加わって、KKの会の井野博満さんの司会でトークセッションがおこなわれた。
どの講演も、的確で鋭い指摘に満ちていた。時間が限られていて述べきれなかったところは、トークセッションで補われた。最後に山口が「まとめ」をおこない、シンポを終えた。
柏崎刈羽原発はハイロしかない、再稼働などはとうてい出来ないという現実が明らかになった。

基調報告は、2007年7月16日のM6.8の中越沖地震で柏崎市、刈羽村、長岡市は震度6強という強い揺れだったこと、地域住民と原発は大きな被害を受けたことをふりかえり、6年たった福島の原発事故にふれ、東京電力の虚偽・隠ぺい体質は40年来かわらず、防潮堤、免震重要棟問題の背景には、柏崎刈羽原発の軟弱地盤があると強調した。
去年10月、米山新知事が誕生した。米山さんは泉田路線の継承と、①福島事故そのもの、②原発事故が健康と生活に与える影響、③安全な避難計画の「3つの検証」を掲げてたたかい、多くの県民の支持を得て当選した。①は前知事時代から継続中、②と③の検証委員会は近々に発足するという。
以下に4人の方からの報告の要点を紹介する。

 

柏崎刈羽原発差止め請求訴訟 地震・津波対策等に関する論点 (伊東良徳)

伊東さんは大きく2点、柏崎刈羽原発の地震・地盤特性と耐震性等に関する問題点を指摘した。
・柏崎刈羽原発の敷地直下、および周辺には、多数の活断層がある。中越沖地震で敷地内がボコボコの軟弱地盤だったことで実証された。
・立地不適の場所に建てたために、東電は耐震性があると強弁するしかなくなった。そのボロがつぎつぎに露わになってきた。
・中越沖地震では3,762箇所もの不適合(東電評価)があった。その結果、基準地震動を最大450ガルから、2,300ガル(1~4号炉)と1,209ガル(5~7号炉)へ引き上げざるを得なくなった。
・その後、耐震補強したと東電は言うが、屋根トラスと配管系支持を補強、部分的な据え付けボルトの補強だけだ。
・開放基盤面から建屋基礎版までに地震波が減衰すると東電は言うが、増幅だったのではないのか。
・防潮堤の耐震性不足が判明。免振重要棟は耐震解析でウソをついていたことが発覚し、不許可になって、東電は断念した。
・5号機の緊急時対策所は福島I―4の4階(水素爆発した)相当で、不適である。

 

柏崎刈羽原発をめぐる技術的問題と県技術委員会について (田中三彦)

田中さんは、6、7号機について適合性審査が終盤に近づいているが、審査が通れば安全なのか、そうではないと規制委員長の発言を引いて、説明した。
・新規制基準は深層防護の第4層と第5層について、周辺住民との基本的な“約束”に違反している。
・規制委員会は実質的に第5層には関与しない。
・新規制基準は原発が事故を起こさないようにするためのものではない。事故が起きてしまったら、どうすれば「緩和」できるかについての基準である。
・7号機の原子炉冷却再循環ポンプのモータケーシングの耐震性については、本来の減衰定数1%で計算すると、応力発生値がぎりぎりの値になる。きわめて危険である。
・福島I―1の爆発は5階で起きたと東電は主張してきたが、4階で起こった可能性を6月15日の課題別ディスカッションの場で初めて認めた。地震動が原因だと考える。
・県の技術委員会では重要な問題が議論されている。フィルターベントの機能・性能と放射性物質の拡散について、メルトダウンの公表がなぜ遅れたのか、などだが、1号機に議論が集中している。2~4号機の未解明問題の議論が必要だ。

 

地域経済から原発を考えるーリスクの対価? 地元復興? (藤堂史明)

環境経済学の藤堂さんは、お金は市場経済の中でしか意味がない、お金は価値を代表しない、経済活動の持続可能性は自然の循環で排熱・廃物の排出が出来るシステムであることが本質だと言う。
・原発の「経済効果」といわれてきた中身は、電源立地交付金と建設・メンテナンス・製造業・サービス業などで「波及効果」があるということだった。しかし、実際はどうだったか。
・地元企業100社への聞き取り調査と、同一規模の柏崎市・三条市・新発田市の3市の経済データの40年間の推移を比較した結果、原発の地元への「経済効果」は見られなかった。
・ICRP放射線防護基準は、「社会的な利益」の最大化をねらって費用の最小化を追求したものである。安全基準は医学ではなく、経済学の考え方で出来ていると指摘した。
・一般公衆の被ばく線量限度は1年間に1ミリシーベルトだが、これは通常の発がん性物質の安全基準の「10万人に1人」の5.5倍である。だが、緊急時・現存被ばく時はこの5~20倍である。
・原子炉の立地指針は、原子炉から或る距離の範囲は非居住地であること、と定めた。福島事故では、1年で100~500ミリシーベルトとなる地域が半径30キロを超えて広がった。リスクに対応したベネフィットを享受して人口増大を含めて都市が発展すること自体、「安全神話」の崩れた今、矛盾である。

 

活断層上に建つ柏崎刈羽原発  (武本和幸)
原発の敷地と周辺に活断層があるか、無いか。建設当初から住民側と東電・国とが対立してきた見解に関して、反対運動側に有利な結論が出かかっている。この4月に、火山灰の「藤橋テフラ」と「刈羽テフラ」とは、分析の結果、同一のものだと判明した。
・敷地内に23本走る断層の活動の年代を20~30万年前とする東電の主張は誤っている。
・敷地内の断層が5万年以後に活動した証拠があれば、原発の建設は不可だったのが、2006年に規制基準が改訂されて、12~13万年以降の活動歴があれば不可と判断基準が変わった。
・「藤橋テフラ」は「柏崎刈羽原発活断層問題研究会」が柏崎市内の13万年前の「安田層」から採取した。「刈羽テフラ」は、東電が「古安田層」と称する地層で採取した、20万年前のものと東電は主張する。
・地層の堆積年代を決めるのは広域火山灰・巨大噴火だが、それに反して、東電は「安田層」の堆積年代を転々と変えて、規制基準に合わせ、活断層ではないと強弁している。
・他に比べ格段に大きい基準地震動、防潮堤液状化、免振重要棟の変位量、すべて欠陥地盤の証拠である。

紙幅でトークセッションは割愛するが、10月発行予定の「KKニュースレター」12号をご覧ください。

(山口幸夫)