東京電力柏崎刈羽原発6、7号機、 原子力規制委員会は審査をやり直せ

『原子力資料情報室通信』第521号(2017/11/1)より

東京電力柏崎刈羽原発6、7号機、 原子力規制委員会は審査をやり直せ

はじめに

さる10月4日、原子力規制委員会は、2013年9月に東京電力が提出していた柏崎刈羽原発の6、7号機の原子炉設置変更許可申請書の審査書(案)1)を確定した。本稿執筆時現在、この適合性審査書(案)についての意見募集がおこなわれている(30日間:10月5日~11月3日)。
3・11後、列島上のすべての原発は止まったが、原子力規制委員会の適合性審査をへて加圧水型原発の5基が再稼働した。このたび、沸騰水型原発について初めての適合性審査が終わったので、意見募集に入るというわけである。ただし、本件の2基の原発が安全だと判断されたのではない。また、再稼働してよい、と原子力規制委員会がお墨付きを与えたのでもない。
審査書(案)の本文は485ページという大部のものだが、ほかに添付資料、参考資料として審査の概要、規制委員たちが審査書(案)について問い質した事項とその回答などがあり、合わせると785ページになっている。10月4日の原子力規制委員会の議事録には、原子力規制部審査グループ安全規制管理官が、事前に規制委員たちから出されていた質問に回答をし、さらに、その場での質問に答えた中身が記載されている。
今回の審査には注目すべき特徴がある。東京電力が原子炉設置者として適格かどうかも審査されたことである。東京電力が福島第一原発の事故を引き起こした当事者であることを踏まえ、「人と環境を守るとの使命に照らし」、「原子炉を設置し、および運転することにつき必要な安全文化その他の原子炉設置者としての適格性を有するかどうか」が審査されたのである。異例のことである(本誌前号(No.520)の武本論考参照)。

審査の問題点
1)柏崎刈羽原発は中越沖地震で傷ついた原発である。その事実を踏まえたか
「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(以下、新潟県技術委員会)は2007年7月の中越沖地震(M6.8)で柏崎刈羽原発が基準地震動(S2)を遥かに超える地震動を受けて傷ついたことを重視して、「地震、地質・地盤に関する小委員会」と「設備健全性、耐震安全性に関する小委員会」の2つの小委員会で議論を重ねていた。この事実を思いおこす必要がある。その議論の途中で3・11が起きた。2小委員会では、当時の原子力安全・保安院や原子力安全委員会の審議よりもずっと深い議論が展開された。しかし、見解が分かれたまま、あるいは、審議がつくされないままに、新潟県技術委員会の座長が全7基が止まっていた状態から、まっさきに7号機の運転再開を判断したのであった。多くの新潟県民や原発に慎重な人々には拭いがたい不信感が残った2)
しかし、この審査書(案)と関連資料のどこにも、柏崎刈羽原発6、7号機が中越沖地震で傷ついた原発であること、また、親の新潟県技術委員会で審議が不十分だったことを配慮して審査した形跡がない。

 

2) 基準地震動の策定が甘すぎる
審査書(案)では、海域と陸域とに2つの断層を選定して8種類の基準地震動を設定し、さまざまなレシピ、計算法でシミュレーションをおこない、安全性のチェックをしたとする。それによると、5、6、7号機のある大湊側の敷地内で、最大加速度は東西方向での1,209ガルである。それが起こりうる地震の最大であって、中越沖地震を起こしたとされる長さ36キロメートルの海底活断層(F―B断層)によるとした。
新潟県の「地震、地質・地盤に関する小委員会」で重要な論点の一つだったのは、F―B断層は長さ50キロメートルを超えるであろう佐渡海盆東縁断層から派生した短い断層であり、本体はM7.5程度の地震を起こす可能性があり、これを考慮すべきだとする主張であった。これに反対する東京電力の見解があり、両論併記で親委員会に報告されたが、まったく審議されずに、運転再開されたのであった。この審査書(案)は、そのときの東京電力の見解に従っているのである。

 

3) 建屋、機器・配管系は地震力に耐えられるか
塑性域に達するひずみが生じても、その量が小さなレベルにとどまって破断延性限界のひずみに対して十分な余裕を有し、その施設に影響を及ぼすことがない限度に応力、荷重等を制限する値を許容限界とする。これが原子力規制委員会の立場である。東京電力の方針はこれに沿っていて、「適切に考慮する方針としていることを確認した」と審査書(案)は述べる。方針の確認で済む話かと思う。
中越沖地震で柏崎刈羽原発の原子炉建屋の耐震壁には多数のひびが入った。審査書(案)にある緊急時対策所は6号機のとなりの5号機に設置された。その3階の壁には長さ3.3メートルのひび割れが生じた。しかも、配管や機器が壁についていて目視できないところがどうなっているか、チェックすることができない。許容限界内かどうか判断ができないのである。
傷ついた柏崎刈羽原発の配管系で、塑性ひずみをどうやって測定できるか、「設備健全性、耐震安全性に関する小委員会」で詳しく議論された。東京電力が提案した硬さ測定による方法では、限界があることがわかった。また、ひずみの量が大きいと懸念される箇所であっても、放射線の線量が高くて、測定者が直にしらべることが出来ない箇所があることもわかった。結局は、計算で確かめるしかないが、あくまでも計算でしかない。不安が残った。「適切に考慮」できないことがあると言わねばならない。
6、7号機はABWR型であり、重要機器である再循環ポンプが内蔵された構造である。そのポンプのモーターケーシングの耐震性が上記の小委員会で大きな問題になった。基準地震動Ssに対する安全性はモーターケーシングの減衰の程度をあらわす定数に左右される。東京電力がその定数にどの数字を使って安全解析をしたのか、疑義が生じたのであった。許容基準値に対して余裕がないおそれがあった。今度の審査書(案)には、この懸念にはまったく触れられていない。

 

4) 柏崎刈羽原発の地盤に断層等により変位が生ずる恐れがある
設計基準対象施設の地盤にはきびしい条件がついている。原子力規制委員会は、その条件の要求を満たすための地盤の変位、地盤の支持、地盤の変形の3点について審査したと言う。
柏崎に原発をつくる話が持ち上がったとき、「トウフの上に原発なんて」と反対した地元の人たちがいた。柏崎平野は油田地帯であって、地盤が劣悪だとされていたからであった。柏崎市、刈羽村、その周辺の地質、地盤については長年にわたって地元の研究者グループが調査してきた歴史がある。その人たちの調査研究によれば、原発敷地内の23本の断層の活動年代について東京電力の20~30万年前とする解釈は誤っているというのである。グループは論文を書いて原子力規制委員会の田中俊一委員長に要請書を送って科学的回答を求めた(2017年5月22日付、「柏崎刈羽原発活断層研究会」、大野隆一郎代表)。しかし、これは無視されてしまった。審査書(案)は東京電力の安田層の堆積年代の誤った評価をそのまま受け入れて、地盤に問題なしとしている。審査は科学的審査とはとうてい言えない。
その分野の担当は石渡委員と思われるが、審査書(案)に対する石渡委員の質問項目のなかにも、断層の活動年代にかんする項目は無い。解せないことである。

 

5) 水素爆発、水蒸気爆発を防ぐことができるか
福島第一原発事故では、1、3、4号機で水素爆発が起こった。炉心が溶融して発生した水素がどのように漏れ出たのか、どこでどのように爆発したかは、現在でも解明されてはいない。新潟県技術委員会が検証作業を続けている問題のひとつだ。審査書(案)では、あの事故の反省を込めて、水素爆発が起こらないような装置を用意したという。
問題は、原子炉建屋に設置される水素再結合装置(PAR)が果たして有効に機能するかどうかである。国際的ないくつもの実証実験と称するものと国内の電力共通研究とが引用されているが、それらは実機による実証実験ではない。あくまでも模擬実験に過ぎない。事故のさいの水素濃度とその分布状況が必ず想定したとおりになるかどうかは断定できない。
PARの性能維持管理については、検査の頻度、検査方法等、詳細設計において決められるとされた。「原子炉建屋の損傷を防止するための機能を維持することを確認した」と審査書(案)は述べるが、そもそも必ず機能するという装置ではない。
また、炉心が溶融して原子炉圧力容器を破って落下し水蒸気爆発が発生する可能性は低いとしているが、溶融炉心の量や状態いかんによるのであって、あまりにも楽観的である。

 

6) 代替循環冷却装置は機能するか
東京電力が途中から提案した新しい冷却装置が審査対象になっている。今回の審査での目玉にされているふしがある。うまくすると、ベントをしないで済むという話である。しかし、ほんとにそうか。
重大事故が起こって、格納容器が破裂し大量の放射性物質が放出されるのは、なんとしても避けたい。破裂前のある段階で、あえて放射性物質を「放出する」のがベントである。そのときは、住民は必ず被ばくする。新潟県技術委員会では、ベントの問題は大問題であり、いざというときには、県の承認を得たのちに、ベントするべきだとの議論まであった。
この新装置は「サプレッション・プールの水を水源として、復水移送ポンプにより原子炉及び格納容器の循環冷却をおこなう装置」と説明されている。水、といっても実際は高温の熱水で、しかも放射性物質が混在しているであろう。重大事故の最中に熱交換ユニット車と大容量送水車を現場にもってきて、配管を一部新設し、格納容器内に冷却水をスプレイして爆発を防ぐ、という。これによってフィルター付きベントを回避できるという。だが、実証試験はできない。小さい規模でのあるレベルでの模擬実験しかできない。ベントの実験もそうだが、実機による実証実験をおこなうことができないあやふやな装置である。
しかし、10月18日の原子力規制委員会で、沸騰水型原子炉にこの装置の設置が義務付けられることが決まった。柏崎刈羽原発6、7号機の新規制基準適合性審査を通じて得られた技術的知見の反映であるとしている。

◆  ◆  ◆

審査書(案)には、適格性問題をふくめて無数といってよいほど多くの問題点がある。
10月9日、「柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会」の10周年シンポジウムが開かれた。その席で立石雅昭新潟大学名誉教授・新潟県技術委員会委員が、地層の堆積過程と海成段丘の成長、広域火山灰などの総合的調査に基いて、4)の問題点をとりあげて東京電力と原子力規制委員会の誤りを指摘した。
今後、工事計画や保安規定などいくつもの工程が控えている。そのうえ、現在おこなわれている新潟県での3つの検証委員会の議論には3~4年かかる。それが済まないうちは再稼働の議論を始めないというのが新潟県の姿勢である。そう見てくると、再稼働への見通しはないというべきである。

(山口幸夫)

 

1)東京電力柏崎刈羽原子力発電所の原子炉設置変更許可申請書(6号及び7号原子炉施設の変更)に関する審査書(案)
search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000164873
2)ちなみに、2、3、4号機については小委員会での審議すらおこなわれていない。