【連載】水道水のセシウム濃度調査 第7回 水道水のセシウム濃度推移(1965~2017)

『原子力資料情報室通信』第527号(2018/5/1) より

【連載】水道水のセシウム濃度調査 第7回 水道水のセシウム濃度推移(1965~2017)

今号では、福島原発事故以前からの水道水に含まれる放射性セシウム濃度の推移に着目しました。
『環境放射能調査研究成果発表会』の論文抄録集1)(1965~2010年)と、原子力規制委員会のモニタリングデータ2)(2011年3月~)、および、原子力災害対策本部における水道水中の放射性物質に関する検査結果3)をもとに、約50年分の水道水に含まれる放射性セシウム137濃度をまとめました(グラフ)。
全ての期間を通じては、同じ条件による値を得ることができませんでした。1965~86年は東京の値、1987~2010年は国内平均値、2011年の値は3月~4月末の値の平均値(福島県を除く)、2012年以降は国内平均値をプロットしました。加えて、原発事故直後の福島県内の最高値をバツ印で書き加えました。
水道水中に含まれるセシウム137の濃度は、1964年にはおよそ10ミリベクレル/リットル(mBq/L)であり、1970年頃までは徐々に減少していきました。しかし、核実験の影響か70年代、80年代は減少がゆるやかになっています。(例えば中国は1964年~1980年の間に、23回もの大気圏内核実験をおこないました。4))1986年には、チェルノブイリ原発事故による放射能汚染の影響で1.5 mBq/Lほどに跳ね上がり、その後だんだんと低くなっていき、福島原発事故直前では0.05 mBq/L程度にまで下がっていました。
福島原発事故によって、水道水中のセシウム137濃度の全国平均値(福島県を除く)は、およそ1000 mBq/Lという高い値にまで上昇しました。事故前の2万倍です。福島県内においては、災害やそれによる断水で測定ができなかった期間や地域がありましたが、記録上の最高値は3月31日に田村市で採水された80.5 Bq/L (80,500 mBq/L)でした。当時の福島県以外での最高値は、茨城県ひたちなか市で3月25日に採水された18 Bq/L (18,000 mBq/L)でした。全国平均値は、2012年以降は1 mBq/Lを少し下回る値で推移しています。
なお、現在の飲料水の放射性物質の基準は10 Bq/kgですが、2011年当時は放射性ヨウ素で300 Bq/kg、放射性セシウムで200 Bq/kgでした。
1965年~2010年のグラフから読み取れる、水道水中に含まれるセシウム137の半減期は5年ほどでした。物理学的半減期の約30年よりも早いスピードで汚染が減っています。セシウムは時間の経過に伴って、水に溶けやすい状態から、土壌粒子と結合した溶け出しにくい状態へと変わっています。森林から川へ流出するセシウムの大部分が、泥などの濁り成分と一緒に動いていて浄水場で除かれています。水に溶けやすい状態のセシウムが減っているので、水道水の汚染がより早く減少していると思われます。
長い年月をかけ、自然の作用の助けもあって、少しずつ汚染が解消されてきていたにもかかわらず、1度の福島原発事故によって数十年分もの時間が戻ってしまったようで残念です。日本全域ではありませんが、普段使う水道水が放射性セシウムで汚染されているという現実と、今後も長い期間、向き合っていかなければと暗い気持ちになります。

(谷村暢子)

1) www.kankyo-hoshano.go.jp/08/08_0.html
2) radioactivity.nsr.go.jp/ja/list/194/list-1.html
3) www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/
suido/kentoukai/houshasei_monitoring.html
4) www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-01-01-04
水道水中に含まれるセシウム137の濃度推移
(資料1~3より筆者作成)