【寄稿】日米原子力協定延長とプルトニウム削減計画

ウェブサイト核情報主宰の田窪雅文さんからご寄稿いただいた「日米原子力協定延長とプルトニウム削減計画」を掲載します。

(初出:平和フォーラム/原水禁・Newspaper2018年8月号)

日米原子力協定延長とプルトニウム削減計画

7 月16 日、日米原子力協力協定が30 年の満期を迎え、自動延長されました。これに関連して日本のプルトニウム保有量の大きさが国際的な懸念を呼んでいます。英国保管22 トン(年内にも閉鎖予定の再処理工場で日本に割り当て予定の1 トンを含む)、フランス保管16 トン、国内10 トン、合計48 トン(核兵器6000 発分)。政府は削減する所存との説明をして、再処理計画を続ける意向です。以下、関連情報を簡単にまとめました。

●日本は唯一再処理を認められている?
2006 年版「わかりやすいエネルギー白書の解説」にある次のような表現が再処理推進派によって繰り返されている。「我が国は、IAEA(国際原子力機関)による厳格な保障措置の実施等の努力を積み重ねてきたことにより、非核兵器国の中で唯一、商業規模で濃縮・再処理までの核燃料サイクル施設を保有する国として認められています」。国際社会が認めているかのような書きぶりだが、「認めている」のは米国。その米国はユーラトム(欧州原子力共同体)にも「認めている」。

●核不拡散条約(NPT)が他国の再処理を認めていない?
「★ 3 条:各非核兵器国は、原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止するため……国際原子力機関との間で……保障措置を受諾する★ 4 条:この条約のいかなる規定も……平和的目的のための原子力の研究、生産及び利用を発展させることについてのすべての締約国の奪い得ない権利に影響を及ぼすものと解してはならない」。つまり、保障措置下にある限り、加盟国は全て再処理・ウラン濃縮が「認められている」。

●日米原子力協力協定が再処理政策を押し付け?
米国の1954 年原子力法第123 条が協力協定締結を定めている。2017 年1 月20 日現在、米国はユーラトム(28カ国)及び他の20 カ国(合計48 カ国)、それにIAEA、台湾と協定を結んでいる。永田町界隈では、米国がこの協定によって再処理を日本に押し付けているとの都市伝説が存在する(主に野党?)。実際はこの伝説の間違いの確認を国会(2016 年5 月26 日)で求めた逢坂誠二議員(民進党)に対する外務省の答えの通り。協定は「移転された核物質等について、いかなる軍事的目的にも使用しないこと、適切な防護措置をとること、保障措置を適用すること、再処理や第三国への移転等について、両国政府の事前の同意を要すること」を定め、協定の終了後も、「核物質などが実際に存在している限り軍事転用を防ぐ」ためにこれら規定は効力を持続する仕組み。

●米国が他国の再処理制限策を強化した理由は?
1974 年のインドの核実験で「平和利用」目的の再処理で取出したプルトニウムが使われたため。78 年核不拡散法には、他国との原子力協力協定の再交渉を行い、米国起源の使用済み燃料、あるいは米国の輸出規制の対象となっている部品または設計情報を有する原子炉で照射された使用済み燃料(派生物)は、米国政府の事前同意なしには再処理できないようにしなければならないとある。

● 88 年日米協定で再処理制限は逆に弱体化?
前協定(1968 年)では米国側はすでに、日本から英仏の再処理工場への使用済み燃料の輸送に関し毎回検討し、日本における再処理について両国による共同決定をする権利を有していた。レーガン政権の再交渉で結ばれた現協定(88 年)では、保障措置、物理的防護、派生物などの要件に追加があったが、付属書で再処理・プルトニウム取り扱い施設を記載して発効時に再処理をまとめて事前に認める「包括的事前同意」形式となった。

●米国が再処理を認めている非核国は日本だけ?
ユーラトムとの間の1958 年協定には、欧州側における再処理に関して米国側の事前同意が必要との規定はなかった。クリントン政権が現協定(96 年)を交渉したころまでには、欧州非核国は経済性などの理由から再処理計画を放棄しており、包括的事前同意用リストに載せられた再処理工場は英仏のものだけとなった。英仏への再処理委託継続もほとんどの国が放棄。日本は非経済性にもかかわらず再処理に固執する唯一の非核国。

●もんじゅ廃止決定でも再処理が必要な理由は? 
原子力開発の当初、ウラン資源は希少、原子力発電は世界で急速に増大と想定。それで、燃えないウラン238を活用して、使った以上のプルトニウムを産み出す高速増殖炉が構想された。その初期装荷燃料提供のために再処理が必要とされた。ウランは予測以上に豊富で、高速増殖炉開発は難航。各国が撤退。日本では今は、原発の使用済み燃料プールが満杯だから再処理工場に燃料を送らないと原発が止まるとの主張により再処理推進。

●使用済み燃料はどうする?
原子力規制員会の田中(前)・更田(現)両委員長が、数年間プールで冷やした燃料は空気冷却の乾式貯蔵に移した方が安全と説明。規制委では輸送・貯蔵兼用金属キャスクによる敷地内貯蔵を促す規制方式を準備中(キャスクの型式認定、収容建物の不要化など)。これで中間貯蔵した燃料を、再処理で出てくる高レベル廃棄物と同じく最終処分場へ送るのが直接処分の道。電力会社や原発周辺自治体でも敷地内貯蔵についての関心が高まっている。

●ウランと混ぜたMOX 燃料を原発で燃やして削減? 
溜まったプルトニウムを原発で消費するとの1997 年の計画では2010 年までに合計16 ~ 18 基でMOX 使用導入。現在稼働中でMOX 利用許可のあるのは4 基。うち伊方3 号は高裁仮処分で停止中。審査終了で再稼働を待つ5 基にはMOX 許可炉はない。年間0.5 トン/ 基程度しか燃やせない。削減を目指すなら英仏保管の38 トンの処分終了まで六ヶ所再処理工場は運転しないと宣言すべき。英国のMOX 工場は10 年間稼働率1%で運転して福島事故後閉鎖。金を払えばゴミとして処分してもいいとの英国提案の交渉が先決。六ヶ所で建設中のMOX 工場が動く保証もない。今後両工場に約12 兆円が投入予定。追加のウラン燃料製造費と中間貯蔵費を差し引いても計画放棄で9 兆円以上の節約。
(「核情報」主宰 田窪 雅文)