【プルトニウム問題に関する3度目の訪米報告】歴史的瞬間:米朝協議、日米原子力協力協定延長、日本のプルトニウム保有

『原子力資料情報室通信』第530号(2018/8/1) より

【プルトニウム問題に関する3度目の訪米報告】歴史的瞬間:米朝協議、日米原子力協力協定延長、日本のプルトニウム保有

6月24日~27日にかけて、当室は新外交イニシアティブと共同で、日本のプルトニウム政策について米国の上下院議員と議論するための国会議員を含む訪米団を派遣しました。この訪米は2017年9月、2018年2月の訪米に続く、3度目の訪米となりました。今回の訪米には、山崎誠衆議院議員、宮川伸衆議院議員(ともに立憲民主党)、猿田佐世(弁護士、新外交イニシアティブ代表)、当室からはケイトリン・ストロネルと松久保肇が参加しました。

訪米の概要
今回の訪米では計14の議員事務所(上院6、下院8/民主12、共和2)を訪問しました。また専門家との意見交換や、インタビュー、記者会見も行いました。訪問した先の多くは、すでにこれまでの訪米で訪問済みの事務所であり、以前の意見交換の中で、日本のプルトニウム問題に関する懸念を共有できる相手でした。そのため、直前に控えていた日米原子力協力協定の自動延長や、今後の動き方についての意見交換が主な論点となりました。

今回の特徴
これまでの訪米と比べて、今回の訪米はいくつかの状況の変化から、より重要なものとなったと考えています。
一つは、7月17日の日米原子力協力協定自動延長を前に、米国政府が日本政府に対して保有プルトニウム量を削減するよう要望しているという事実が報道されるようになったということです(6月10日付日本経済新聞など)。日本の47トンものプルトニウム保有は米朝間の朝鮮半島非核化協議に影響することが懸念されています。
協定は修正なく自動延長されたものの、米国は日本に対して、削減に向けた公式見解を求めたと見られます。この点は、私たちがこれまでの訪米で米国側と意見交換してきたものと、軌を一にしています。ただし、残念ながら、第5次エネルギー基本計画で出てきた日本政府の見解は、「プルトニウム保有量の削減に取り組む。(中略)プルトニウムの回収と利用のバランスを十分に考慮しつつ、プルサーマルの一層の推進や、2016年に新たに導入した再処理等拠出金法の枠組みに基づく国の関与等によりプルトニウムの適切な管理と利用を行う」、さらに「使用済MOX燃料の処理の方策について(中略)引き続き研究開発に取り組みつつ、検討を進める」というものでした。あたかもプルサーマルによってプルトニウムを削減できるかのように述べていますが、これまでも同様に説明してきた結果が、現在の47トンものプルトニウム保有となっているのです。
もう一つの点は、米国政府が今年2月、公式にサウジアラビアと原子力協力協定の締結交渉にはいったということです。米国は通常、原子力協力協定において自国から輸出された核物質や技術をもちいたウラン濃縮や再処理を認めていません(例外はEURATOM、インド、日本)。しかし、サウジアラビアはウラン濃縮と再処理技術の保有の権利を主張してきました。そのため、交渉自体は以前から行われていたものの、公式に交渉に入ったのは、トランプ政権になってからのことでした。
サウジアラビアは、ウラン濃縮能力を持つイランと対立関係にあります。今年3月にはムハンマド・ビン・サルマン皇太子が米CBSテレビのインタビューで、「イランが核兵器を開発すれば、サウジアラビアもすぐにそうする」と答えるなど、かねてより核兵器開発に懸念が持たれてきました。原発や石炭火力の維持に積極的なトランプ政権は、サウジアラビアを有望な原発輸出市場とみなして、公式交渉に乗り出したのですが、核不拡散の観点からは大きな懸念があります。
そこで、米国議会では、原子力協定締結においては、限定的な今の議会の権限を拡大することや、再処理・ウラン濃縮を認めないようにすることなどを盛り込んだNuclear Cooperation Reform Act(原子力協力改革法)という議員立法が提案されています。サウジアラビアは米国との交渉の中で、日本が再処理や濃縮を認められていることを例に出して、自国にも容認するよう要求しているようです。そのため、私たちの訪米においてもある議員事務所で、この法案が議論されているということが示唆されました。

3回の訪米のまとめ
この間、米国の議員や専門家と議論を重ねることで、米国の大勢は日本のプルトニウム問題について憂慮していることがよく理解できました。また、少なくとも、日本の一部で議論されているような、日本が脱原発できないのは日米原子力協力協定があるからだという主張も間違いであるということがわかりました。
米国は日本の原子力政策について、一義的には国内問題であると理解しています。ですから、再処理政策を憂慮していても、内政干渉となることを懸念して、婉曲的にしか問題提起をしてこなかったのです。その結果、日本政府はたとえば、2016年6月に菅義偉官房長官が述べたように、米国から核燃料政策に懸念を伝えられたことは無いと述べるような状態に至っていました。
そのような状況に業を煮やした結果、報道にある通り、米国側は日米原子力協力協定の期間満了のタイミングを捉えて、強いメッセージを出すようになりました。この米国側の動きには、この間、私たちが米国議会へ働きかけた結果も少しは影響しているのではと思っています。
残念ながら、日本政府は核燃料サイクル政策を依然として維持するとしていますが、この政策の行き詰まりは誰の目にも明らかなことです。7月12日には訪米報告会を衆議院第一議員会館にて開催しましたが、平日夜の時間帯にもかかわらず参加者は100人を超え、この問題への関心の高まりを感じました。この関心を維持し、核燃料サイクルを止めるための運動を継続して取り組む必要があると考えています。
当室では日米原子力協力協定が自動延長期間にはいった7月17日、「日米原子力協力協定自動延長、核燃サイクルは放棄すべきだ」と題した声明を発表しています(https://cnic.jp/8074)。合わせて御覧ください。

(ケイトリン・ストロネル、松久保肇)