報告:日韓プルトニウムシンポジウム in TOKYO 2018 日韓の核燃料サイクル政策 ―その影響と代替策―
『原子力資料情報室通信』第535号(2019/1/1) より
報告:日韓プルトニウムシンポジウム in TOKYO 2018 日韓の核燃料サイクル政策 ―その影響と代替策―
2018年11月26日、原子力資料情報室は、韓国のInstitute for Peace and Cooperation(IPC)との共催で「日韓プルトニウムシンポジウム in TOKYO 2018『日韓の核燃料サイクル政策 ―その影響と代替策―』」を開催いたしました。このシンポジウムは米国のマッカーサー基金(John D. and Catherine T. MacArthur Foundation)からの2018年~2019年の研究助成を受けた研究の一環として行ったものです(圓光大学(韓国)を代表者とする助成)。
シンポジウムは午前と午後の2つのセッションに分けて行いました。韓国、米国、日本のスピーカーがそれぞれプレゼンテーションをし、それを受けて討論したうえで、参加者と意見交換するという形式をとりました。
シンポジウムの翌27日には衆議院第一議員会館で、国会議員・スタッフ、メディアなどを招いた意見交換会を開催、韓国の乾式再処理や日本の48トンに上るプルトニウム保有やMOX利用計画などといった再処理をめぐる問題を議論しました。再処理の代替策としての放射性廃棄物の直接処分についても議論が行われました。
議論の中では、朝鮮半島非核化という文脈の中で、日本と韓国の再処理政策を終わりにすべきだとの力強いアピールもありました。北東アジア地域の平和を実現するためには、やはりプルトニウム保有やプルトニウム分離ができる状況をなくさなければなりません。
核燃料サイクル政策の影響
シンポジウムの第一セッションでは、現在進んでいる朝鮮半島の非核化をめぐる動きの中で、核燃料サイクル政策が持つ影響を議論しました。このセッションでは、冒頭、梅林宏道さん(NPO 法人ピースデポの特別顧問、創設者、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)客員教授、写真)に基調講演をいただきました。講演で梅林さんは、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮、DPRK)の核をめぐる歴史を概観したうえで、1.DPRKの核開発は自衛のため、米国からの脅威に対抗するためのものであること、2.2018年1月、DPRKは核開発目標を達成したと判断して外交政策を変更し、これが南北の首脳会談、および米国との首脳会談を導いたこと、そして北東アジアの新しい未来を拓く大きなきっかけを生んだと説明しました。しかし、このチャンスは、米国のDPRKの体制保障とセットでなければ非核化プロセスは達成しえません。梅林さんは非核化をめぐる段階的アプローチの私案をしめして、相互信頼の構築こそが平和プロセスにとって最重要であること、米中ロを巻き込んだ北東アジア非核兵器地帯(NWFZ)の設置こそが非核化と体制保障を解決するものだとして、非核兵器国(日本、韓国、DPRK)が核兵器の保有、開発などを行わないことを、また核兵器国(米中ロ)は非核兵器国を核兵器では攻撃しないことを宣言する、非核兵器地帯条約の締結とこれを順守していることを保証する検証措置の導入といった構想を説明されました。
基調講演後、パネルディスカッションに移りました。パネリストは梅林さんのほか、外務省軍縮不拡散科学部の竹内雅幸さん(首席事務官)、石坂浩一さん(立教大学准教授)、田窪雅文さん(核情報主宰)、また当初予定していたソク・カンフンさん(グリーン・コリア)が都合により参加できなかったため、キム・ソクウさん(IPC理事)が参加して、韓国側からの視点を提供してくれました。
竹内さんからは日本政府のDPRKとプルトニウム問題に関する立場を説明いただきました。前者については、DPRKは核兵器を保有することなど、さまざまな安保理決議に違反しており、この状態が解消されない限り、現時点では日本政府はいかなる協力も提示できない、との説明がありました。この立場について、梅林さんは、米国からの脅威という、DPRKが安保理決議違反をした原因を無視していると述べました。また、石坂さんはDPRKが繰り返し日本の大量のプルトニウム保有について懸念を示していると指摘、プルトニウム利用をやめることは日本が信頼構築や状況の進展を望んでいることを示す方法の一つだと指摘しました。
竹内さんはプルトニウムに関して、余剰プルトニウムを持たず、プルトニウムは平和目的にしか使わないとする日本政府の立場を説明しました。政府は現在のプルトニウム保有量を削減することを約束し、外務省は他の関係省庁と連携して取り組むとのことでした。日本はIAEAのすべての査察やルールに適合しており、範囲を広げた統合保障措置についても適合結論を得て、国際社会からも認められていると説明しました。これについては田窪さんが、米国務省高官が日本のプルトニウム保有について懸念を示したことをあげて、疑問を投げかけました。国際社会は現時点で日本がプルトニウムを使って核兵器を開発することを懸念はしていませんが、保有すること自体が将来の核兵器開発疑念を抱かせることにつながり、また他国に対して悪しき前例となること、さらに、近隣諸国で核兵器開発競争ではなくとも、プルトニウム保有競争になりかねないからです。
田窪さんはまた、米国務省は1987年、日本と交渉して再処理をあきらめさせようとしたが、強硬な日本の態度の前に屈したことに触れて、こうした交渉を再度行いたくないという組織の論理にも触れました。もし、日本人が再処理に対して強い反対姿勢を示し、政府に対して何らかの形で影響を与えることができれば、米国は日本の再処理政策を転換するために強い姿勢で臨むことができるかもしれません。しかし、そのような姿勢が見えない中では、そうした交渉は極めて難しいでしょう。
キムさんは、韓国政府のプルトニウム分離につながる乾式再処理政策について市民の関心を高めることが難しいとコメントしました。乾式再処理について研究開発を行っている韓国原子力研究所(KAERI)の科学者たちは、乾式再処理を「リサイクル」だと言い換え、放射性廃棄物を減らすと主張しているとのことです。日本政府も同様の主張をしています。再処理を阻止するためには、こうした主張に市民や政治家たちがわかりやすい形で反論することは、両国の再処理を阻止する運動にとって重要な課題だといえます。
会場からはいくつかの質問が出ましたが、もっとも重要なものは「一体、プルトニウムの平和利用とはなんでしょうか?」というものだったでしょう。キムさんは端的に「そんなものはありません」と答えていました。
再処理への代替策
第二セッションでは乾式再処理をめぐる現状と日本と韓国の再処理、そして、プルトニウムを処分するための代替策について議論を行いました。ファン・ヨンスさん(韓国原子力研究所上級副所長、写真)が冒頭、政府の原子力からの移行政策について報告がありました。この政策によって、韓国が処分しなければならない使用済み燃料発生量はこれまで想定していたよりも少なくなります。いくつかの選択が検討され、現時点ではサイト内やサイト外での乾式貯蔵がもっとも有力な選択肢とされているとのことでした。最終処分場に関しては公衆・ステークホルダー関与(PSE)のプロセスにゆだねられており、昨年最初のラウンドが実施されたそうです。このラウンドでは結論は出されませんでしたが、2019年には新たなラウンドが実施されるとのことでした。しかし、韓国内で適切な規模の最終処分場を探すことが難しいことから、深地層処分場面積の削減や、ナトリウム冷却高速炉用のプルトニウム+超ウラン元素(TRU)の分離のための乾式再処理の研究が行われているとのことです。この研究は米国と共同で行われており、2021年に完了するとのことでした。 ファンさんの報告後、テキサス大学のアラン・クーパーマンさん、憂慮する科学者同盟のエドウィン・ライマンさん、IPCのキムさん、当室の伴英幸が、ファンさんが提起した若干技術的な点について議論しました。まず、ファンさんは乾式再処理によって処分場面積を縮小できると報告しましたが、ライマンさんは、プルトニウムを燃料とすると、もともとの燃料よりも発熱量が多くなる。処分場面積は体積ではなく発熱量によって決まるので、処分場面積の削減にはつながらないと指摘しました。ファンさんもこの指摘に同意して、処分場面積の縮小は乾式再処理の大きな理由にはならないと回答しました。コストについてもファンさんは、燃料コストは原発の発電コストの中で小さな割合を占めるにすぎないので、再処理のコストが高かったとしても全体コストには大きく響かないと述べました。これに対してクーパーマンさんは、原発の最大のコストは建設コストなので燃料は総コスト比では低い割合を占めるに過ぎないが、建設費支払い後の運転費に占める燃料代は大きなシェアを占め、そのために、電力会社にとってMOX燃料(混合酸化物燃料、ウランにプルトニウムを混ぜた燃料)の利用は極めて高額となることを指摘しました。さらにナトリウム冷却高速炉は最も高額な原子炉であり、これの導入は理解できないと述べました。伴は、原発には隠れたコストが多くあるが、特に廃棄物処分、廃炉には不確定要素が多く、再処理の追加コストが多くないとは言えないと指摘しました。
ライマンさんは米国の経験に基づいて、日本が48トンの分離プルトニウムを処分するためのいくつかの代替策を提案しました。直接処分はMOX製造及び原子炉での利用よりもより安全な手段だとコメントしました。クーパーマンさんは世界各国でのMOX計画の失敗について報告し、日本のMOX計画もプルトニウム削減にはつながらないだろうと述べ、たとえば、英国に日本が保有する22トンのプルトニウムは英国側に引き取ってもらうべきだといった代替策を提案しました。
クーパーマンさんは、再処理のような不合理な政策が続いている重要な原因として、誰も放射性廃棄物を引き受けたくないということを指摘しました。原発近隣住民は保管してほしくないし、青森県民は最終処分場を拒否している。この問題に公開・正直・透明性を持った形で取り組まない限り、再処理といった不合理な解決策は続くだろうともコメントしました。
このセッションの結論としては完全な解決策は存在しないが、すでに大量の使用済み燃料が存在しており、「他よりましな」解決策を求めるしかないことが示されました。ファンさんは使用済み燃料の処分をどこでどのように行うのか、科学者や専門家は研究することはできるし、提案することもできるが、最終的な結論は市民が出すしかないと述べました。科学者と市民社会は、市民が理解できる形での、選択肢を提示する責任を担っています。
(報告:ケイト・ストロネル、松久保肇)