廃止措置費用総額15兆円の超過少評価 公表された「廃止措置実施方針」を読む

『原子力資料情報室通信』第537号(2019/3/1)より

廃止措置費用総額15兆円の超過少評価 公表された「廃止措置実施方針」を読む

2018年12月25日から27日にかけて、電力会社や核燃料サイクル事業者、核燃料物質使用者が、所有施設の「廃止措置実施方針」をホームページに公開した。16年4月の国際原子力機関勧告を受けて17年4月に 改正原子炉等規制法が成立・公布、第57条の4に作成・公表が定められたものである。18年10月の施行で、施行から3ヵ月以内の実施が義務付けられていた。
具体的には、次の項目について記載されている。
・廃止措置の対象となることが見込まれる施設及びその敷地
・解体の対象となる施設及びその解体の方法
・廃止措置に係る使用済燃料若しくは核燃料物質又は使用済燃料から分離された物の管理及び譲渡
・廃止措置に係る使用済燃料若しくは核燃料物質による汚染の除去
・廃止措置に係る使用済燃料若しくは核燃料物質又は使用済燃料から分離された物又はこれらによって汚染された物の発生量の見込み及びその廃棄
・廃止措置に伴う放射線被ばくの管理
・廃止措置中の過失、機械又は装置の故障、浸水、地震、火災等があった場合に発生することが想定される事故の種類、程度、影響等
・廃止措置期間中に性能を維持すべき施設及びその性能並びにその性能を維持すべき期間
・廃止措置に要する費用の見積利及びその資金の調達の方法
・廃止措置の実施体制
・廃止措置に係る品質保証計画
・廃止措置の工程

 

東海再処理工場、「もんじゅ」の廃止措置費用

公表された廃止措置の見積額のうち、日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)の79施設について、共同通信は2018年12月26日、合計で約1兆8000億円に上ると配信した。「試算は維持管理費などを含まず、実際の費用は作業の長期化などにより大きく膨らむ恐れがある」と。その維持管理費を含めた試算結果は約3兆3000億円と報じたのは、19年2月9日のNHKだ。原子力機構によると、「現在、年間で400億円かかっているすべての施設の維持費を参考に、解体に合わせて一定の割合で減少していくと仮定して計算したところ、70年間で1兆4000億円ほどかかる」という。「予算の規模感をイメージするために出したもので、詳細な計算ではない」とのことだが、先の1兆8000億円に加えると3兆3000億円になる。
以下では、原子力機構の数多くの施設のうち、東海再処理工場と「もんじゅ」に絞って「廃止措置実施方針」の廃止措置費用見積額を見ることとしたい。
東海再処理工場については、施設解体費:約1400億円、放射性廃棄物処理費:約2500億円、放射性廃棄物処分費:約3800億円の合計約7700億円とされている。その上で、以下の記述が加えられている。「なお、上記費用以外に、東海再処理施設の廃止に向けた計画(平成28年11月30日付け報告)に示した当面10年間の計画に必要な費用(約2170億円)等が必要になる。これには新規制基準を踏まえた安全対策費、高経年化対策費、ガラス固化運転費等が含まれる」。
合計すれば、およそ1兆円。ただし、費用が必要な期間は「当面10年間」よりはるかに長い。「最終的に管理区域を有する約30施設の廃止措置(管理区域解除)が全て完了するためには、約70年の期間が必要となる見通しである」。廃止措置の進捗状況(原子力規制委員会東海再処理施設等安全監視チーム)からすれば、期間延長は必至だろう。
高速増殖炉「もんじゅ」では、使用済燃料取出・廃止措置準備費:約150億円、施設解体費:約870億円、放射性廃棄物処理費:約240億円、放射性廃棄物処分費:約240億円で、合計約1500億円だ。当面の費用についても、何の言及もない。
2016年12月に廃止が決まった際に文部科学省が公表した試算では、解体完了まで30年間の維持管理費を約2250億円、新規制基準対応経費をαとし、上記金額との合計を約3750億円+αとしていた。18年5月に会計検査院が「高速増殖原型炉もんじゅの研究開発の状況及び今後の廃止措置について」の報告書をまとめていて、そこにはこう書かれている。
「一方、廃止措置が終了するまでの間に必要となる職員の人件費や固定資産税については、上記の費用に含まれていない。また、もんじゅの燃料は、処理施設まで輸送し、適切な処分を行うなどの必要があるが、当該輸送・処分等の具体的な計画及び方法は燃料体取出し期間において検討するとされていることから、それらに要する費用については、現時点で見積もることができる範囲の費用のみが計上されている。さらに、ナトリウムの処理・処分に要する費用については、廃止措置の過程で処理等の方法を検討することとしているため、廃止措置の進捗に伴って変動する可能性がある。
このように、今後のもんじゅの廃止措置に要する費用については、高速増殖炉の廃止措置が国内で初めての取組となることもあり、廃止措置の過程で変動する可能性があるほか、廃止措置に要する期間が当初の想定の30年よりも長期化した場合には、費用が増加することが見込まれる。したがって、機構は国民に対する説明責任を果たすためにも、廃止措置の実施状況及びそれに要する費用について適時適切に明らかにしながら、廃止措置を進めることが重要である」。
東海再処理工場にも他の施設にも当てはまるところの多い指摘である。

 

廃棄物処分という未踏領域
共同通信は2018年12月30日、原発や核燃料サイクル施設など主な商業用原子力関連73施設を廃止した場合の費用が、少なくとも約12兆8000億円に上ると、原子力機構に続いて公表された分の「廃止措置実施方針」について配信した。19社が公表した69施設の見積額の合計を4兆8000億円と集計し、そこに含まれていない東京電力福島第一原発1~4号機の政府試算8兆円を加えたものだという。「ただ、大半の原発の廃止完了年数は30~40年と見込むが、今回は施設の維持管理費や老朽化対策費などは含んでおらず、費用がさらに膨らむことは確実だ」と、注釈が加えられている。原子力機構の前出1兆8000億円と合わせて、超過少評価で約15兆円となる。原子力機構の他にも放射線医学総合研究所や理化学研究所などの国立機関があるが、金額としてはさほど大きくないようだ。
原発の廃止措置費用については、これまでも「原子力発電設備解体引当金」の見積額として、毎年算出されてきた。今回公表された額は手元にある2015年度の「解体引当金」見積額と大差ないので、これが最新なのだろう。福島第一原発1~4号機のみが、「解体引当金」見積額、「廃止措置実施方針」見積額ともに、費用の公表がない。8兆円という政府試算も、無根拠である。
原子力機構の人形峠環境技術センターや日本原燃のウラン濃縮工場、核燃料加工の各事業所でも、「廃止措置実施方針」に費用の公表がない。人形峠環境技術センターでは施設解体費のみが記載され、廃棄物処理処分費は空欄とされている。他の施設では「廃止措置に要する費用を合理的に見積ることができない」とあるだけだ。それは、ウラン廃棄物の処分制度が未整備で、「除染等処理方法・廃棄物処分方法を選択することができず、費用を見積るための前提条件が定まらない」ためという。
日本で原子力開発が始まって60年余。いまだに放射性廃棄物の処分制度が未整備なのは驚くべきことと言えるが、対応を迫られるところから泥縄的に整備を進め、他は置き去りにしてきた結果である。さらに、一応は処分制度が整備されていても、実際の処分は未踏領域というものが大半とすら言える。
原発に限って見ても(福島第一原発1~4号機を除く)、「放射能レベルの比較的低いもの(L2)」とされる約5万6000トンは六ケ所埋設施設に搬出することが可能としても、「比較的高いもの(L1)」とされる約6000トンも、「極めて低いもの(L3)」とされる約97万トンも、行き先は決まっていない。クリアランスレベル以下で「放射性物質として扱う必要のないもの」とされる約97万トンと、それより1ケタは多い「放射性廃棄物でない廃棄物」(施設により、数量を記載しているところとしていないところがある)は、「再生利用に供するように努める」とされているものの、見通しは立っていない。
なお、「推定発生量には付随廃棄物を含まない」との注記がある。また、廃止時点で保有している廃棄物の量も含まれない。
L1については原子力規制委員会が「廃炉等に伴う放射性廃棄物の規制に関する検討チーム」で、深さ70m以上の地下に埋め、約10万年後まで管理するなどの規制基準を策定中。L3では2015年7月16日、東海原発の廃止措置を進めている日本原子力発電が、発電所敷地内にトレンチ処分する埋設事業許可を原子力規制委員会に申請した。鉄箱に収めた金属、プラスチックシートで梱包したコンクリートブロック、フレコンバッグに入れたコンクリートガラを、深さ4メートル程度の溝(トレンチ)に埋め、約2・5メートルの盛り土で覆うという安直な処分方法である。他社も同様の処分を望むことは目に見えているが、福井県などは「どんなごみも県外排出だ」と強く求めており、容易ではない。敷地内処分も搬出もできない仮置きが続くと予想される。
クリアランス対象の廃棄物についても、廃止措置中の浜岡原発1、2号機では2017年10月に金属の一部の測定・評価方法について原子力規制委員会に申請したものの、大部分は新たに敷地を拡張して屋外に仮置きする計画だと、18年7月15日付静岡新聞が伝えている。
再生利用の実績は、東海原発で発生した金属廃棄物でベンチをつくって原発のPR館などに置いているなど限定的だ。エネルギー総合工学研究所の原子力発電所廃止措置検討委員会は、2018年11月にまとめた報告書「原子力施設及びRI施設の解体廃棄物のリサイクルについて」で、「法改正当時の国会答弁に基づき、当面の再利用は、原子力施設由来のものであることを理解した業者等での再利用に限定されています」として「再利用の制約は速やかに解除すべきと提言」した。
その前提として原子力事業者などは、放射性物質濃度の測定・評価方法の見直しを求めている。2018年8月30日に原子力規制庁が電気事業連合会等との面談でクリアランス規則・内規の改正(改悪)の方針を示し、その後も面談が続いている。10月11日には原子力規制委員会と事業者との意見交換も行なわれた。19年1月9日の原子力規制委員会会合で更田豊志委員長が19年の重要課題のひとつとして挙げていることから、年内にも見直しが強行されそうだ。改めてクリアランス反対の声を上げる必要がある。
それにしても、約100万トンのクリアランス対象物のほとんどは、再利用できようはずもない。仮置きしかないゆえんである。L3を先導役にして敷地内に居座る公算が大だ。「放射性廃棄物でない廃棄物」も、「放射性でない」と強弁したところで、再生利用にしろ処分にしろ、すんなり受け入れられるとは考えられないし、受け入れるにも量が多い。
廃止措置が完了するまでの期間は約30年~40年とどの原発も見込んでいるものの、そうは問屋が卸さず、費用も増え続けそうだ。
核燃料サイクル施設に至っては、L2も六ケ所埋設施設では受け入れてもらえない。発生する廃棄物および廃止時点で保有する廃棄物のすべてが行き先不明である。廃止措置が長引き、さらにコストアップとなることは確実だ。

(西尾漠)