ラ・アーグ再処理工場 高レベル放射性廃液蒸発缶の腐食問題発生

『原子力資料情報室通信』第509号(2016/11/1)より

 

 フランスのラ・アーグ再処理工場で、高レベル放射性廃液蒸発缶に設計の想定以上の腐食が発生し、原子力安全規制当局(ASN)が、異例の監視体制を実施している。腐食に過度の進展が確認されれば、運転を停止させる措置も考慮されている。この指示が出されたのは2月だが、日本側の対応も含めて報告する。

ラ・アーグ再処理工場 

 ラ・アーグ再処理工場は、フランスの北西部ノルマンディー地方、コタンタン半島の先端に立地し、当初は軍事施設として原子力庁が運転し、核燃料サイクルの中核基地としての機能を持っている。その後運転は、国営公社COGEMA(コジェマ、1978年~)、さらに現在は民間企業となっているAREVA社(アレバ<CODE NUM=00A4>2001年~)に移された。現在ラ・アーグでは、UP2-800(1994年操業開始)とUP3(1989年操業開始)2つの再処理工場が稼働している。UP2-800は、古いUP2-400工場の前処理工程等を増強しMOX燃料や高燃焼度燃料の処理も予定している。UP3は海外顧客用の工場で、日本やドイツなど各国からの委託再処理は終了している。UP2-800とUP3両工場あわせて年間1,600トンの稼働が可能で、今日までに合計20,000トン以上の再処理を実施している。

湿式再処理・ピューレックス法 

 現在稼働中のほとんどの再処理工場は湿式のピューレックス法を採用しており、工程の多くが濃硝酸を沸騰状態または高温で使用する化学プロセスとなっている。ピューレックス法は、原子力発電所から再処理工場に輸送された使用済燃料を濃硝酸で溶解し、燃え残りのウラン、生成したプルトニウム、核分裂生成物(死の灰)の三者を硝酸溶液の形で化学的に分離する。工程全体に強酸である硝酸が流れるため、工程内の機器類等に硝酸の腐食に対する十分な耐性が求められる。

高レベル廃液と蒸発缶 

 例えばラ・アーグのUP3工場とほぼ同様の構造を持つ六ヶ所再処理工場で発生する主な高レベル廃液は、抽出廃液と呼ばれるものだ。これは再処理行程の中でプルトニウム、ウランを分離した残りの残液で、使用済燃料中のほとんどの核分裂生成物とマイナーアクチノイド(超ウラン元素)を含む。工程中から発生する他の廃液と比べても廃液量は非常に多く、放射能濃度も極度に高い、主たる高レベル廃液である。高レベル放射性廃液の発生量は、使用済燃料1トンあたり約500リットル、その比放射能は約37兆ベクレル/リットルといわれている。
 高レベル放射性廃液蒸発缶は、抽出廃液と、さらに酸回収設備蒸発缶の濃縮液、ガラス固化排ガス処理設備で発生する洗浄廃液とともに、高レベル放射性廃液の量を減少させ、さらに回収する酸を蒸発させるために加熱・蒸発・濃縮する機器である。ここで製造された高レベル濃縮廃液と他の高レベル放射性廃液がガラス固化工程に送られ、高レベルガラス固化体が製造される(図1参照)。

「蒸発缶」の腐食 

 ラ・アーグ再処理工場で問題となっている高レベル放射性廃液蒸発缶は、図2のように容器の下部と底部周りのハーフパイプに10気圧145℃という高圧過熱水を流して高レベル放射性廃液を加熱し濃縮する構造だ。強力な酸、高い圧力、高放射線下という大変過酷な条件での運転を求められ、その危険性から1基ごとにセル(小部屋)に収納されて事故に備え、決して人が近づける設備ではない。
 ASNの公表によれば、ラ・アーグUP3工場の「蒸発缶(3基)」は1989年から、UP2-800工場の「蒸発缶(3基)」は1994年から稼働している。1980年代に設計され、耐腐食性、耐震性能を考慮した腐食代を想定し30年間の運転に耐える設計になっていた。
 蒸発缶の肉厚測定は2012年、UP3工場のAユニットで10年ごとの大規模安全審査時に、ASNの要請によりAREVAによって実施された。この結果AREVAの予想より早い速度で腐食が進んでいることが明らかになり、AREVAは2014年10月にASNにはじめてこの事実を報告した。2015年にも追加の測定が実施され同年12月にASNに提出されたこれらの測定結果は、設計値より早い速度で蒸発缶の容器が腐食し減肉していることを示した。(蒸発缶の詳細な仕様、測定データ等は公開されていない。)

ASNの見解 

 このような経過をうけてASNは2016年2月11日、AREVAグループのP・バラン会長とP・クルノ最高経営責任者を「蒸発缶の腐食に関する公聴会」に召喚し、ヒアリングを実施した。
 ASNは測定結果について、施設の中期的な安全性を損なうものであると、強い懸念を示した。腐食の進展による肉厚の減少は、加熱回路による圧力や地震に対する蒸発缶の耐久性を今後数年間で著しく劣化させる可能性があること、さらに減肉の進行が一番早いものについては2018年以降にも問題が具体化することを懸念している。そのため、ASNはラ・アーグ再処理工場に対し法的監視を実施し、同工場の継続運転を規制することを決定した。
 2016年6月のASNのリリースでは、
・ 蒸発缶の最終的閉鎖基準の定義
・ 肉厚測定検査ゾーンの拡大
・ 腐食進展防止措置の実施(温度・圧力の制限等)
・ 腐食孔が発生した場合の危機管理の準備
・ これら措置についてASNに6ヶ月ごとの報告
などの諸条件の順守を指示し、過度の腐食による劣化が明らかになった場合、施設の運転を停止させるとしている。

東海工場、六ヶ所工場 

 ASNの情報をうけて、日本の原子力規制庁も事業者からヒアリングを実施している(2016年3月、8月)。東海、六ヶ所ともラ・アーグとほぼ同様な形の高レベル放射性廃液蒸発缶だが、東海では周囲(下・底部)だけではなく内部にも加熱蒸気配管が設置されている。当初設置された古い蒸発缶(1基)は、1995年に5系統の加熱用蒸気配管の1系統で腐食による貫通孔が発生し、1996年以降予備の蒸発缶に切り替えられている。2007年以降は運転を停止しすでに工場の廃止が決定している。東海工場の「31年間でわずか1,140トンの再処理」という稼働実績の原因が、溶解槽や蒸発缶の事故・トラブルに顕著なことは明らかである。
 六ヶ所工場の高レベル廃液「濃縮缶」(2基)(六ヶ所ではEvaporator:蒸発缶を「濃縮缶」と呼ぶ)については、イギリスのTHORP再処理工場から減圧蒸発法を技術導入している。これは缶内圧力約50mmHg、運転温度を約50℃と低くすることによって腐食環境を緩和する方式だ。もちろん、腐食の発生が抑えられるわけではない。高放射線下での補修等は非常に困難で、故障に備え隣接するセルに予備濃縮缶を設置する対策が取られている。
 各再処理工場の蒸発缶の構造に相違はあるが、強酸、高温、高放射線にある蒸発缶の腐食事故やトラブルは耐えない。ASNが指摘しているように、アクセスできない領域の肉厚測定の不確かさ考慮の困難性、さらにわずかな漏えいから大きな破壊に至るということがいつも成り立つとは言えず、たとえ減圧によって進展の規模は低減できても、腐食を止める抜本的手立てのないことは明らかだろう。

国内外の再処理施設での腐食事例     
No.発生時期発生場所設備/機器名称材質腐食状況対策処置六ヶ所再処理での対応
11978JNC(旧PNC)/東海酸回収蒸発缶URANUS65約6000時間の運転後に加熱部の上部管板と伝熱管の溶接部に貫通孔(5箇所)が発生CRONIFEER2520Nb製の新蒸発缶(第二世代)に交換・減圧蒸発法の採用
・極低炭素304系ステンレス鋼の採用
21978BNFL/セラフィールド溶解槽UNS S34700約14年間の運転後,ノズル取り付け部の溶接線に貫通欠陥を確認改良ステンレス鋼NAG 18/10Lの溶解槽に交換・Zrの採用
31978BNFL/セラフィールド高レベル廃液貯槽UNS S34700冷却コイルの溶接部からリーク(溶接の初期欠陥)予備コイルに切り替え 
41981JNC(旧PNC)/東海酸回収精留塔SUS310ELC加熱用蒸気配管3系統のうち2系統の溶接部3箇所に腐食によりピンホールが発生溶接補修,のちに下部を交換・減圧蒸発法の採用
・極低炭素304系ステンレス鋼の採用
51982JNC(旧PNC)/東海溶解槽URANUS65約3100時間運転後,片側の溶接部で加熱用ジャケットに覆われた溶接線上にピンホールが発生溶接補修・Zrの採用
61982JNC(旧PNC)/東海溶解槽URANUS65その後の調査により他方の溶解部で連通管取り付け部の溶接線上にもピンホールを確認溶接補修・Zrの採用
71982JNC(旧PNC)/東海プルトニウム溶液
蒸発缶
SUS304L塔部計装ノズル溶接部近傍に貫通欠陥を発見溶接補修.その後に塔部を耐食性に優れたTi-5Taに交換・Zrの採用
81983JNC(旧PNC)/東海溶解槽URANUS65約4100時間運転後,溶解部で加熱用ジャケットに覆われた溶接線上にピンホール発生ステンレス鋼の不純物を低減し(NAR310Nb),溶接線を減らした溶解槽を追加設置・Zrの採用
91983JNC(旧PNC)/東海酸回収蒸発缶CRONIFER2520Nb約13000時間の運転後に加熱部伝熱管195本のうち2本に貫通孔が発生蒸発缶加熱部をNAR310Nbに取り替え・減圧蒸発法の採用
・極低炭素304系ステンレス鋼の採用
101995JNC(旧PNC)/東海高放射性蒸発缶URANUS65約21年(約59400時間)運転後に5系統の加熱用蒸気配管のうち1系統に腐食による貫通欠陥が発生長期予備の蒸発缶に切り替え・減圧蒸発法の採用
・極低炭素304系ステンレス鋼の採用
     和田史博,再処理プラントにおける信頼性向上技術,『材料と環境』Vol. 48,771-775(1999)より

 

(澤井正子)