廃炉等廃棄物の埋設規制 事業者の長期管理は可能か

『原子力資料情報室通信』第509号(2016/11/1)より

 

原子力規制委員会が「廃炉等廃棄物の埋設に係る規制の考え方について」(以下、考え方)まとめた。放射能レベルが比較的高い低レベル放射性廃棄物を中程度の深さに処分するための考え方である。これは、廃炉等に伴う放射性廃棄物の規制に関する検討チーム(田中知座長)で議論されて、規制委員会で承認された。具体的な規制基準はこれに基づきこれから策定される。ここでは、「考え方」の内容を報告し、問題点を指摘したい。

どんな廃棄物が処分されるか

 中程度の深さへの処分なので「中深度処分」という用語を規制委員会は使った。この処分方法が必要となる廃棄物は、原発の廃炉から出てくる廃棄物のうち比較的放射能濃度の高いもの(L1廃棄物)、具体的には原子炉容器や配管類、ポンプ類、建屋のコンクリートと鉄筋、あるいは除染廃棄物などだ。その量は全57原発が廃炉になった場合に8,000トンと推定されている。しかし、それだけではなく運転中にも発生する。例えば、制御棒や燃料を包んでいるチャンネルボックス(BWRの場合)、バーナブルポイズン(PWRの場合)、樹脂類、などである。そして、日本は再処理・プルサーマルを行っているので、その工程からも出てくる。これらを合わせた総量は35,000トンに達するとしている。
 さらに、日本原子力研究開発機構(JAEA)にもこれの対象となる廃棄物がある。JAEAには原子炉や試験施設、再処理施設やふげんやもんじゅなど、さまざまな施設がある。ここから中深度処分対象の廃棄物が出てくる。その重量は6,300トンとしている。うち4,500トンは再処理施設からのものである。
 放射能量はトン当たり10兆ベクレル程度、総量1,300京ベクレルを超える。量的に多い放射性核種はコバルト60、ニッケル63、トリチウム、セシウム137などであるが、10万年以降も残る核種はニッケル59、炭素14、ハフニウム182、ヨウ素129などの核種である。JAEAの再処理施設からでる中深度処分対象廃棄物にはプルトニウムやウラン、アメリシウムなどが量的には多くはないが含まれている。
 核燃料加工施設からでるウラン廃棄物も中深度処分の対象となる廃棄物が出てくるはずで、審議の中では議論されていないが、規制対象となる。

中深度はどの程度の深さか 

 長期にわたって公衆と生活環境を防護するためには廃棄物と生活環境を十分に隔離することが有効な手段の一つで、「考え方」では70mより深い地層に処分するとしている。この深さを少なくとも10万年間の浸食作用を考慮したうえで、なお、確保することを求めている。処分地選定にあたっては浸食作用だけでなく、火山活動や断層活動などの可能性のあるところは避けるようにする。以前は余裕深度処分と言われていたので、電気事業連合会や原子力機構などが規制委員会に提出している資料ではこの言葉が使われている。「考え方」が新たな呼び方を提案した形になっている。

どのように処分するか 

 中深度への処分が隔離のための天然バリアとすれば、処分容器などの人工構築物は人工バリアと呼ばれている。両者の組み合わせで長期にわたる隔離を保証する。「考え方」には具体的な処分方法など書かれていないが、電事連などの資料によれば、大型の処分容器に入れて処分し、容器のまわりをモルタル、コンクリート、ベントナイト(粘土)などで囲い、放射性物質の漏洩を低減するとしている。
 処分地の選定と処分事業の実施は原子力事業者の責任で、選定から建設、処分の実施、処分孔の埋戻し、閉鎖後の管理など、段階に応じたさまざまな要求事項が「考え方」には書かれているが、紙幅の都合で割愛し、事業者が行うべき管理期間と被ばく防護の水準に絞りたい。

管理期間は300~400年管理 

 「考え方」では事業者が行う管理期間を300年~400年程度としている。これは規制終了までの期間と位置付けられている。処分事業の申請から建設・埋設・埋戻し・埋戻し後の安全確認(モニタリング)などの期間である。高レベル放射性廃棄物の処分事業は80年程度かけて40,000本を処分する計画なので、同様に考えると処分事業自体も相当長期にわたることが予想される。処分場閉鎖後の管理は300年程度になるのだろう。六ヶ所村にある低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいても予定されている全廃棄物の埋設後の管理期間は300年としている。これを前例に期間が定められたようだ。
 低レベル埋設の場合は300年管理といっても、放射性物質の漏洩のモニタリングは埋設後30年程度で、その後は敷地への人の立ち入りを禁止する措置を300年間続けることになっている。しかし、中深度処分では、モニタリングを継続し10年ごとにチェック、最新機器への更新などを要求しているので、文字通り300年管理が求められることになる。
 しかし、400年も電気事業者が存続することは可能だろうか? 上記埋設センターが事業許可を得た1990年では電力の自由化の動きはなく、総括原価方式のもと電気事業は競争環境に置かれていなかった。ところが2016年には小売りを含めた全面的な自由化政策が導入され、進捗状況はともかく、20年には総括原価方式も廃止される。取り巻く環境が劇的に変化している中で、現在の原子力事業者が400年も継続することは考えにくい。
 事業者だけでなく規制委員会もこの期間は存続するので、最終的には政府が原発の後始末をすることになるかもしれない。

どれくらいの期間の安全を要求しているか 

 パブコメにかかった「考え方」案では、発生の確率が高く通常起きると考えられるシナリオ(基本シナリオ)の防護基準を年間0.01mSv(ミリシーベルト)以下とし、不確かさを考慮した変動シナリオでは0.3mSv/y以下としていた。そして規制期間が終了した後には処分場を人間が掘り返す場合も考えられ、その場合には20mSv/yまでを許容する。
 筆者は、不確かさを考慮しても、安全サイドに立って0.01mSv/y以下にできるように処分地の選定や処分方法・機器の設計を行うべきである、人間環境からの隔離は距離(深さ)によるところがあるので、場合によっては地層処分と同様の深さを考慮するべきだと意見を提出した。
 パブコメでは、逆に0.01mSv/yが国際基準から乖離し、誤用であり、ICRPの新しい勧告に倣えという意見が複数出された。検討チームは、ICRP勧告46 (1985年)にある規制免除線量が根拠であると、コメントに回答。しかし、規制委員会は16年3月に防護基準検討チームによる検討を行うことを決め、「考え方」は、「一定の水準に低減されていることを防護基準とする」とし、具体的な防護基準は規制委員会で決定すると修正された。
 7月に防護基準案が出され、0.01mSv/yは削除された。ご丁寧にも「単に数値的な規制緩和であるとの誤解を生じないよう配慮が必要である」と書いている。根拠はICRP勧告103(2007年)に計画被ばく状況の被ばく線量の拘束値として0.3mSv/yが勧告されているからだという。将来世代の影響に対して、現世代の原子力活動による拘束値を適用してよいのだろうか? ICRPは将来の状況は分からないので現在の状況が将来も続くと仮定して対策を講じることを求めているが、放射性廃棄物による環境影響が出現する将来では、原子力利用はとうに終了しているはずで、これを想定して被ばくリスクを最小化することを考えなければならないのではないか。

(伴英幸)