【原子力資料情報室声明】問われる東京電力のガバナンス―日本原電への資金援助を機関決定―

問われる東京電力のガバナンス

―日本原電への資金援助を機関決定―

2019年10月28日

NPO法人原子力資料情報室

今日、東京電力は取締役会で日本原電の資金援助要請に応じることを決定した。東海第二原発の新規制基準対応費用などに必要な資金だという。いくつもの意味で異常な決定だ。

 まず単純に、東海第二原発の発電する電気は高い。当室がおこなった日本原電の有価証券報告書に基づく試算によれば東海第二原発の売電価格は14.5円/kWh前後になる[i]。日本卸電力取引所のスポット市場は9.75円/kWh(2018年度システムプライス平均)、電源開発の2018年度の売電単価は9.26円/kWh、2019年度の事業用太陽光発電のFIT制度における買取価格は14円/kWhだ。なぜ高い電気の供給を確保するために、資金支援を行わなければならないのか。

 第二に、福島第一原発事故の賠償義務をおった東京電力には、余分な支出はできない。新々・総合特別事業計画(第三次計画)では年間1,600~2,150 億円(2017~2026 年度平均)の経常利益の創出を目指すことを明記したが、仮に東海第二原発からの電力を購入する場合、市場価格と比較して、単純計算で約200億円のコスト増[ii]となる。なぜADRの仲介案を度々拒否している東京電力が 日本原電にこのような巨額資金を援助できるのか。

 第三に、国庫から交付国債による巨額の資金援助を受け、さらに電力消費者にたいしても賠償費用を付加している東京電力には、不要な支出を削減すべき倫理的責任がある。会計検査院の2018年の報告によれば、交付国債が13.5兆円となった場合の東京電力返済額は3.4~6.1兆円(国が保有する東電株の売却価格による違い)にすぎず、国民負担で返済される額(4~6.9兆円)をどのケースでも下回る[iii]。

 最後に、東京電力のガバナンスが問われる。これまで地域独占を許され、自由化されたのちも国の巨額の支援を受けている東京電力は公的企業の最たるものだ。そのような企業が、明確な説明もなく、経済的にも成り立たないこのような意思決定を行ったことは、関西電力キックバック事件をほうふつとさせる、きわめて異様な事態だ。電気料金に混ぜてしまえば消費者にはわからないと考えているのではないか。

 東京電力の社員一人一人は福島復興に尽力している。しかし、このような非常識な決定を行うことで、積み上げた信頼回復への努力は水泡に帰す。東京電力経営陣は、本来であれば東京電力は破たんしていたことを念頭に、今回の決定を再考するべきだ。

以上


[i] cnic.jp/8811cnic.jp/8186

[ii] 年間50億kWhの電力を購入した場合

[iii] www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/30/pdf/300323_youshi_1.pdf

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