原子力空母の原子炉事故で、首都圏に100万人以上の死者が!/写真でみる原子力空母母港化

『原子力資料情報室通信』406号(2008/4/1)より

地震を原因とする原子力空母の原子炉事故で、
首都圏に100万人以上の死者が!

呉東正彦
(弁護士、ストップ原子力空母母港裁判を進める会)

 今年8月、配備予定の原子力空母G・ワシントンの横須賀母港のため、現在国によって行なわれている浚渫(しゅんせつ)工事に対し、汚染拡散と原子力空母の事故の危険性を理由として、約1000名の原告及び申立人によって横浜地裁横須賀支部に起こされている差止訴訟本訴の第5回公判が、2月18日午後1時30分に開かれました。
 原子力資料情報室の上澤千尋さんが出廷して、原子力空母の原子炉の事故の危険性を、この事件のために作成した意見書をもとに、以下のポイントにつき、詳細かつ力強く証言しました。

1 原子力空母の原子炉は、商業用原子力発電所に比べ、事故を起こしやすい数多くの要因をもっていること。

2 三浦半島活断層群の直下型地震が起こる確率は相当高く、その時に横須賀基地に原子力空母が入港していた場合、関東大震災や今回の中越沖地震の柏崎刈羽原発での事象も踏まえると、津波、その前の引き潮、海底の隆起等によって、原子力空母の原子炉を冷却するための海水取り入れが、座礁や海面の低下によって困難になり、原子炉が緊急停止したり、原子力空母が原子炉停止した後にも、崩壊熱を除去するための施設である発電所、変電施設、純水工場等が、地震により同時に破壊され、原子炉の冷却が困難となること。

3 さらに米海軍が原子力空母の安全性に関するファクトシートで主張する非常用安全システムとしての艦内の非常用補助電力システムも、地震時にダメージを受け作動しない可能性が十分にあること。また自然対流のみにより冷却する崩壊熱除去システムも、海水による緊急炉心冷却装置も、地震時に作動する保障はないこと。

4 その結果、原子炉が冷却不能となり炉心の温度が上昇し、ジルコニウムと水が反応して熱と水素を発生させ、核燃料がメルトダウンし、大規模な水蒸気爆発を起こして格納容器や船体を破壊し、原子炉から放射性物質が、周囲の環境中に大量に放出されること。

5 その場合、風下7キロ以内の住民は、放射能障害によって全数致死、13キロ以内の住民は半数致死等、さらに首都圏165キロ以内の住民が、職業人限度の50ミリシーベルトの被曝に見舞われ、100万人以上の死亡が予測されること。

6 国が定めている原発の立地審査指針や原子力船の運行審査指針を原子力空母の原子炉に適用すると、横須賀に原子力空母の母港をおくことはおよそできないものであり、国が原子力空母の原子炉の安全性を全く具体的に審査していないことは、危険かつ無責任で到底許されないことであること。

 このショッキングな内容について、満席の傍聴者も裁判官も聞き入っていました。
 この2月18日の上澤さんの証言内容が、昨年末にすでに結審していた同じ差止請求についての仮処分事件の決定に反映することが期待されたのですが、2月29日に横浜地裁横須賀支部の出した決定では、残念ながら差止の申立は却下されました。
 同決定は、原子力空母によって発生する住民の被害は審理の対象となるとして原子力空母の事故の危険性についての実体判断に入ったものの、私たちが具体的に指摘する原子炉事故の危険性について、ファクトシート等の主張を鵜呑みにし、事故発生の蓋然性が高いと認めるに足りる相当程度の疎明はないとしたものです(同決定については、原子力空母・市民の会ホームページhttp://cvn.jpn.org/cvn 参照)。
 しかしながら、その内容が原子炉の安全性についての科学的理解を欠いたひどい内容であるので、3月25日のこの本訴訟の最終弁論期日に、上澤さんにこの決定の科学的誤りについての反論を内容とした意見書2を作成して頂き、横浜地裁横須賀支部に提出して、決定を批判しつつ、裁判所の再考を求めることとしました。
 私たちは原発と同様、いやそれ以上に危険な原子力空母の母港が首都圏に出現することをストップさせるため、引き続き全力を尽くしていきます。その1つとして、3月6日?4月6日までの1ヵ月間、横須賀市内で、原子力空母母港化の是非と安全性を問う住民投票の実施を求める直接請求の署名活動を、前回の1.5倍である6万の市民の署名を目指し、行なう予定です。
 全国のみなさん、是非カンパやお手伝い等のご支援をお願いいたします。

■郵便振替口座00200-6-80423『住民投票を成功させる会』

図 放射能の広がりと被曝の影響範囲


写真でみる原子力空母母港化 by小林晃


しゅんせつ工事風景
しゅんせつ中の横須賀本港12号バース付近


横須賀海軍基地
手前はショッピングセンター


母港化に反対する人々


しゅんせつ工事を撮影中のメンバーを妨害した海軍警備艇


北武断層 基地から6km 砂浜の下に2本の活断層

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