福島原発事故から5年に想う

福島原発事故から5年に想う

2016年3月11日

NPO法人原子力資料情報室

 福島原発事故から5年が経つが、「原発震災」は未だ続いている。

 10万人を超える人々がなお避難生活を余儀なくされている。汚染状況が、人が生活できるほどには改善しないにもかかわらず、来年3月までに帰還困難区域を除いて避難指示を解除するという。ところが、復興庁の意向調査によれば、避難指示区域の50歳以下の人々の半分は戻らないと答えている。解除後には支援の打ち切りが続く。このような政府の「原発棄民」政策は直ちに撤回するべきだ。

 戻らないと決めている人たちの大きな理由は、放射能への不安、被ばくによる健康への不安である。福島県が実施している県民健康調査によれば、事故当時18才以下の子供たちに甲状腺ガンが多発している。専門家と称する人たちは被ばくとの因果関係を否定しているが、それ以外に多発は説明できなくなっている。報道によれば、そのほかの疾病も増えている。ところが、そうした不安を口に出したり、相談したりすることができない状況に陥っている。100ミリシーベルト以下はなんら健康に影響がないといった誤った主張を、専門家と言われる人たちが流布していることが、原因の一つだ。この深刻な事態が、子どもやその母親たちの心理的ストレスを強めている。放射線被ばくのリスクを十分に説明し、子供や親たちに寄り添った対応が求められる。

 除染で出た廃棄物の山が福島県内いたるところにできている。特に避難指示区域では顕著だ。これは、中間貯蔵施設への合意が遅れていることから、持ち出すことができないからだ。また、福島県外での指定廃棄物処分計画は、反対で頓挫している。どちらも政府の上からの政策の押しつけが原因と言える。人々の声に耳を傾けて、現行の除染計画、処分計画、そして避難解除計画等の抜本的な見直しが必要だ。

 福島原発事故の詳細な原因究明が未了で、従って福島原発事故の規制基準への反映が十分に行われていないにもかかわらず、「世界一厳しい安全基準」といった宣伝で原発の再稼働を進めようとしている政府の姿勢は、一昨日の高浜原発3・4号炉の運転差し止め仮処分決定によって厳しく叱責された。特定安全重要施設の猶予期間延長を許した原子力規制委員会および原子力規制庁の、事業者よりの姿勢に対しても、大津地裁の仮処分決定は反省を迫っているものと言える。関西電力はこの決定を真摯に受け止めて、抗告せずに、高浜原発をはじめ全原発の廃止へ向けた経営戦略を立てるべきだ。事故を起こした東京電力が柏崎刈羽原発の再稼働を計画するなどもってのほかであり、他社も脱原発へむけた歩みを鮮明にするべきだ。

 経済産業省は従来の原子力政策に固執して、発電に占める原発の割合を20〜22%(2030年時点)とするエネルギー基本計画をまとめた。しかし、世論の8割が脱原発を願っていることをきちんと受け止めて、同基本計画の見直しを進め、原発ゼロ政策へと舵を切るべきだ。

 このまま再稼働状況が進めばフクシマ事故の再来は避けられず、壊滅的な打撃を受けることになるだろう。事故から5年、放射能被災の現状を見つめ直し、脱原発へと政策を転換したい。