新大綱策定会議奮闘記(2)
『原子力資料情報室通信』第441号(2011/3/1)より
新大綱策定会議奮闘記(2)
柏崎刈羽原発「再開までにこれだけの時間がかかって問題であると私は受けとめておりません」(清水電気事業連合会会長)
伴英幸
新大綱策定会議はいつも意見募集をしているとはいえ、全体のスケジュールがわからないと焦点を絞りにくいとの声を当室会員の方からいただいた。そこで、現時点で伝えられている全体のイメージを報告したい。
新計画策定会議は1年程度の期間で作り上げたいとされている。月2回程度の会合が計画されているので、おそらく20数回の審議となるだろう。議論の大まかな順は、
1.エネルギーと原子力(~3月)
2.核燃料サイクル(放射性廃棄物の処理・処分 含む、2~5月)
3.放射線利用(4~5月)
4.原子力研究開発(5~6月)
5.安全確保、平和利用、核セキュリティ(6~7月)
6.国際的取組(6~7月)
7.原子力と国民・地域社会(7~8月)
8.人材育成・確保(8~9月)
9.大綱の位置づけ、基本的考え方など(9~10月)
といった流れである。
10月中旬ごろに新大綱(案)を示し、ご意見を聴く会やパブコメを並行して行ない、最終決定を12月にしたいとしている。
1~9の議題ごとに暫定的な論点整理を行なうとしているが、第4回の会合では、議論していない事まで書き込まれているとクレームがでた。スケジュールは目安であって、スケジュールありきで進めるものではないと繰り返し説明されている。とはいえ事務局側としてはスケジュールにこだわるに違いない。年度内には閣議決定をすませたいと考えているだろうから。
もちろん、委員や市民から寄せられた意見により、いっそう活発に議論が続けば予定通りにはいかない。意見を提出するときの目安としてほしいが、提出時期を逸したと思う必要はない。気付いた時に書き込んでくださればよいと思う。
第4回の会合で、原子力委員会が何らかの形で回答するべきと意見を述べたが、第1回目に、個別に回答しないことを確認して進めていると言われて撃沈(失念していた!!)。寄せられた意見をどのように活かしていくかが筆者の大きな課題と再認識した次第だ。
* * *
筆者の究極の目的は脱原発の意見を政策に反映させることだ。実際の策定会議の議場では、脱原発の視点から議論を尽くしたいと身の丈を超えて挑んでいる。
原子力推進基調の意見は多いが、しかし現行の政策に批判的な微妙な意見も出てくる。自分のように脱原発の看板を掲げていないだけに興味深いし、このような言い方もあるのかと感心しながら聞いている。
かつて、近藤駿介原子力委員長はIPFM(核分裂物質に関する国際パネル)の会合で、日本の政策は徐々にしか変わらないと、述べたことがある。確かに言うは易いが、現実には一気に変わることは難しいと思われる。
ドイツでもまず地方自治体レベルで政権交代が進み、原子力推進を頓挫させていたことが、原子力業界に脱原発合意をさせる力となっていた。政策転換には原子力を取り巻く環境が総合的に変化している必要があるのではないだろうか。これは、原子力を中心とした現行のエネルギー政策への反対の声、新増設を許さない運動や安全性を追及する運動などの現場の運動、そして、省エネや再生可能エネルギーを推進する運動などを通して作られていくものだと思う。国会や議員の動きも重要な問題だし、各審議会委員の人選も大きな課題だ。
省エネと再生可能エネルギーで電力をまかなうことはすでに技術的には可能であり、多くのシナリオも作られている。技術的に可能なことを政治経済的に可能にしてくためには、これを求める多くの市民の声と政策決定者の意識変革が必要だ。原子力の推進が再生可能エネルギーの進展に障害となっている現実も見据えるべきだろう。この点ではもう少し具体例があると、主張にふくらみが出ると思っているが、能力不足を感じている。
新大綱策定会議でのエネルギーと原子力の問題では、①原子力を過渡的なエネルギーと位置付ける、②省エネ、再生可能エネルギー、原子力の順に位置付ける、ことで、この次の改訂へとつなげていけるのではないかと考えているがどうだろうか? ②から原子力を削除することを願ってやまないが、これは将来の課題だろう。
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中越沖地震で7基が停止した柏崎刈羽原発の耐震安全性をめぐって新潟県の小委員会で議論が続いていることは、本誌で毎号報告している。この県の対応に対して、原子力安全・保安院が安全と評価して運転再開を認めた後にも、県が独自の検討で時間がかかっていることを批判する空気が国の中にはあるようだ。
また、第2回の策定会議で又吉由香(モルガンスタンレーMUFJ証券 ヴァイスプレジデント)委員は「資本市場の観点からは、こうした安全基準を満たす発電設備の未稼働事例はやはり機会損失の拡大ととらえられます」と県が無駄なことをしているような言い振りだった。
第3回会合の配布資料には、地元了解に時間がかかっている表が載っていたが、県の対応については全く触れられていなかった。そこで、東電トラブル隠しを契機として技術検討会が設置され、さらに中越沖地震の引き金となった断層が十分に評価されていなかったことから2つの小委員会が設置された経緯と同委員会が国でも検討されていなかった問題点を審議している事例を上げて、小委員会が機能していることを示した。
これには思わぬ反応があった。清水正孝委員(電気事業連合会会長、東京電力取締役社長)が以下のようにのべた。「再開までにこれだけの時間がかかって問題であると私は受けとめておりませんし、むしろ、これだけの審議を重ね、透明性のある議論を徹底的にされているという意味で私どもは受けとめておりますし、これからもそういう必要性は大いにあると思っています」透明性のある議論を徹底的にやっていくとのメッセージが地元住民の方々や県の小委員会の人たちに届いてほしい。
●新大綱策定会議奮闘記(1)
新大綱策定会議:脱原発・核燃料サイクル政策の転換を求め続ける
https://cnic.jp/977
■新大綱策定会議についての情報は、内閣府原子力 委員会のホームページをご覧下さい。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki_sakutei.htm
■意見提出は、内閣府 原子力政策担当室 新大綱策 定会議ご意見募集担当
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki_oubo.htm