次々と海水温データ改ざんが発覚 その背景を考える 日常化する電力会社のデータ改ざん・無認可工事 (『通信』より)
次々と海水温データ改ざんが発覚 その背景を考える
日常化する電力会社のデータ改ざん・無認可工事
『原子力資料情報室通信』391号(2007.1.1)掲載
武本和幸(原発反対刈羽村を守る会)
原発の海水温記録改ざん発表が続いている。最初は11月30日、東京電力柏崎刈羽原発1号と4号が海水の温度データを改ざん。1号は94年から0.3℃、4号は02年から0.5℃、排水口の温度が低く表示されるよう、コンピュータのプログラムを操作していたとのこと。次が12月5日、東京電力福島第一原発1号が、85年から1.0℃低く表示されるよう改ざん。柏崎発覚時には福島は大丈夫と説明していた。そして12月7日、東北電力が女川原発1号で95年から01年までの5年半、温度差が7℃となるよう操作。さらに8日に日本原電敦賀2号、12日に関西電力大飯3号、4号の改ざんが発覚した。沸騰水型原子炉(BWR)で始まった改ざんは加圧水型原子炉(PWR)にも及び12月13日現在で5地点、まだまだ続くと考えられる。
経済産業省原子力安全・保安院は11月30日、電力各社に、類似問題の有無の総点検と今年度内に中間報告提出を指示した。福島で発覚した12月5日、東京電力に、原子炉等規制法に基づき1月11日までの詳細報告を求め、改ざんが他にないかの確認も指示した。
知事等県市関係者は「トラブル隠しからの信頼回復の途上で、再び同様の問題を起こしたことは、地域住民の信頼を大きく損なうもので誠に遺憾。原因を徹底的に調査し、結果を早急に全面開示すべき」と異口同音に批判している。こうした発言が、「不正発覚から4年が経過し禊ぎは済み体質改善が進んだ。そろそろプルサーマルを」との立場からでないことを期待したい。
日本の原発は、すべて海岸に立地し冷却水は海水である。原発は、原子炉で発生した熱エネルギーの3分の1を電気に変え、3分の2は廃熱として海水温を上昇させる。冷却水(海水)の量が少なければ水温上昇が大きく、多ければ水温上昇は小さい。一般に取水と排水の温度差は7℃とされ、水量が決定される。必要水量はポンプで強制循環させる。100万kW級原発1機で使用する海水は毎秒約70トンと大量である。温度改ざん操作は、経済性を理由にポンプ規模をギリギリに小さくした結果、温度差が7℃を超えたために、実施した模様。欧米の河川水を冷却水として利用する原発の水温上昇は15?20℃という。
柏崎刈羽の東電発表は「『不適切なデータの補正』を自主調査で発見した。安全に問題はない」とのものだった。『改ざん』を『補正』と表現する電力会社に不正の意識は見られない。電力会社にとっては、発覚したことが問題なだけなのだろう。電力会社にはコスト削減・経営優先のため、社会常識とは異なる判断基準が存在している。
その後、改ざんの動機や手口は「温度がなぜ目標値を超えたかを説明しづらかったためデータを補正した」「建設時の環境アセスメントで復水器の出入り口の温度差を7℃以下にする約束があった。本店が排水温管理の徹底を指示していたため、課長らは指示に合わないデータを改ざん。改ざんは発電所幹部の協議で決定され、プラントメーカーに指示」等々が伝えられている。
原発は、電力会社内部に何重も階層があり、社外の多重の下請・孫請が連なって建設・運転されている。問題発表は、発電所広報部が何回もの協議を重ねて公表されるが、所長も広報部も、その実情が把握できていない。階層社会や下請・孫請の不満が内部告発を呼び、今後も類似のことが繰り返されるだろう。
原発の海水温データ改ざん発覚に先立ち、昨年来、水力発電のダムや取水構造物の無認可工事や観測記録の改ざんが指摘されていた。国土交通省は電力会社に河川法違反の構造物確認の指示を出していた。原発温排水不正の直接の契機は、11月20日、山口県が中国電力下関火力発電所を立ち入り調査して、海水温のデータ操作を発見したことである。背後に河川環境を守る運動やダム反対運動の電力会社や国交省追及運動がある。
電力会社の発電事業は、経産省のみならず国交省等多数の官庁と県や市町村に関わっている。従前は問答無用の対応しかしなかった国や県が、情報公開・説明責任の風潮で、電力の横暴を擁護できなくなっている様子が伺える。河川や海洋環境を守る多様な運動が、今回の原発温排水不正問題を顕在化させたといえる。