トルコの原発事情 シノップに原子力発電所はいらない

『原子力資料情報室通信』第476号(2014/2/1)より

 トルコ共和国では現在2つの原子力発電所建設計画が進行中だ。一つは地中海沿岸のアックユで、ロスアトム社(露)が4基のVVER-1200原子炉(出力120万kW級のロシア型加圧水型原子炉)を建設する予定で、もうひとつは黒海沿岸のシノップに、日本企業が主導する国際コンソーシアム(三菱重工、伊藤忠商事、GDFスエズ(仏)、トルコ発電会社などから構成)が4基のATMEA-1原子炉(出力110万kW級の加圧水型原子炉、三菱重工とアレバ(仏)の合弁企業が開発)を建設する予定となっている。

 1月7日には、来日中のエルドアン・トルコ首相と安倍首相が会談し、原子力発電所輸出の前提となる原子力協定(調印済み・国会未承認)を速やかに締結することで合意しているが、同協定は、第8条で「移転された核物質及び回収され又は副産物として生産された核物質は、両締約国政府が書面により合意する場合に限り、トルコ共和国の管轄内において、濃縮し、又は再処理することができる。」と記載されており、核拡散上、問題が大きいものとなっている。
 今号では、現地で反対運動を行なっているギュルビュズさんにトルコのエネルギー状況と現地の今を寄稿いただいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

オズギュル・ギュルビュズ(Anti  Nuclear  Platform)

 

 トルコに原子力発電所を建設しようという計画が最初に現れたのはおおよそ60年前のことだ。そして、メルスィン県のアックユとシノップ県のシノップはこの計画の最初期の段階から原子力発電所建設候補地として挙げられてきた。

 様々な原子力発電所建設計画が立案され、それぞれ違う理由ではあったが、経済状況や政治状況の変化もあってそれらは中止に追い込まれてきた。しかし、過去60年間、経済状況や政治状況は大きく様変わりしたが、2つの点は依然変わらないままだ。それはトルコに国内の電力需要を満たすための原子力発電所は必要ないということ、もうひとつは原子力発電所に反対する人々が、賛成する人々よりも多いということだ。

多数派は原子力発電所建設に反対

 2013年4月にKonda Research and Consultancy(訳注:同社はトルコの大手世論調査・コンサルタント企業)が行なった調査によれば、原子力発電所建設反対派は63.4%だった。この比率は東京電力福島第一原子力発電所事故後には一時80%にものぼった。政府が報道機関の相当部分を支配していることや、電力会社や建設会社と報道機関の重役たちが密接な関係を作り上げている今のトルコのメディア事情にもかかわらず、市民の根強い反原発意識はなくなっていない。また、この調査結果は2002年から12年間政権与党の座にあり続けている公正発展党(AKP)に投票した人ですら、政府の原子力エネルギー政策を支持していないことをも明らかにしている。
 反原発の世論の強さはシノップとメルスィンではよりはっきりみることができる。AKPは2009年統一地方選挙では45市(大都市10市含む)で勝利したが、野党も各党合計で36市(大都市10市を含む)で勝利している。この選挙でAKPが敗北した地方にはシノップとメルスィンが含まれている。
 こうした世論の反原発意識の強さにもかかわらず、政府はこれまで、市民に対して原子力発電所の要否を問いかけたりはしてこなかった。政府はこの問題について反原発派の市民や、野党と議論することすら避けてきた。私たちはエネルギー天然資源大臣が原子力問題で原子力反対派の市民とテレビの生放送やパネルディスカッションといった場で議論している姿を見たことが無い。
 トルコにおける原子力発電所建設は技術的問題をはるかに超えた問題だ。技術以前に、私たちは民主主義にかんする大きな問題を抱えているのだ。AKPは原子力発電所を建設したがっており、世論に耳を傾けようとはしない。こうした態度が、以前から脆弱なトルコの民主的プロセスにさらなる打撃を与えることは明らかだ。
 日本やロシア共和国とトルコ共和国が締結した協定には市民の意見は盛り込まれているだろうか。シノップの市民もメルスィンの市民もこれらの協定にかんする十分な情報は提供されていない。彼らは原子力発電所に反対しているが、協定を締結する上で、だれもそのことを問題にはしていない。また、放射性廃棄物はどこで保管されるのか? 原子力発電所は誰が審査するのか? 独立した審査機関は設立されるのか? そうした疑問にもだれも答えていない。 
 反対する人々の意思に反して原子力発電所を建設する決定を下したことによってトルコ政府は民主主義に対する犯罪を犯した。日本とロシアの政府はこの犯罪に加担したのだ。

シノップの反原発集会の様子

 トルコにおける原子力発電所建設の最大の理由は国内の電力・エネルギー需要の急速な高まりだ。
 エネルギー天然資源省の予測によれば、電力需要は低成長シナリオでも少なくとも毎年6.4%の上昇が見込まれ、高成長シナリオとなると毎年7.6%の上昇が見込まれている。しかし、公表された過去2年間の電力需要の実成長値を見ると、低成長シナリオの値よりもさらに低い成長でしかなかった。
 また、この予測の正確性自体が大いに議論の余地のあるものだ。トルコ送電公社(TEIAS)が2005年に作った需要予測では、高成長シナリオの場合、電力需要は2011年には2,620億kWhになるはずだった。しかし、実際には2011年でも、2,300億kWhでしかなかった。2013年末でもこの予測値まで到達することは見込めない。TEIASは2005年の予測値を12%も外したことになる。
 こうした予測値はトルコ経済が高成長を継続することを前提に作られたものだが、ここ数年のトルコの経済成長は減速気味だ。高成長を前提においた予測値は信頼性が低い。
 さらには、我々は上記2つの予測値が省エネルギーの導入やエネルギー効率の向上を含んでいない値であることも考慮する必要がある。開発省の第9次開発計画には、主に建設と輸送部門の効率化にともなって、エネルギー・電力需要を全体で20~25%削減可能だと明記されている。省エネルギーとエネルギー効率向上に努めれば、トルコに原子力発電所が不要であることは明らかだ。

ムダの多いエネルギー消費

 加えて、トルコ政府は、誇張された需要成長を疑問視すること無く、送電ロスやエネルギー効率向上対策には「驚くほど対応が遅い」ことを強調したい。トルコは同等の製品やサービスを提供するのに、ヨーロッパの他の国々の2~3倍のエネルギーを消費している。全世界的にエネルギー効率が向上していく一方、トルコでは1990年からほとんど何の向上も見られなかった。
 トルコの1990年のGDP1,000ユーロ当たりエネルギー消費量は242 kgOE(kg of Oil Equivalent=石油換算kg)だった。今日でもこの値は233 kgOEだ。つまり、私たちの国はこの25年間、エネルギー効率の向上について何もやってこなかったのだ。このことは一見、最悪であるようにもみえるが、巨大なエネルギー効率の向上余地が残されていることも示している。

クリーン電力の可能性

 トルコ政府の対応が弱いもう一つの点は、再生可能エネルギーだ。誰でもトルコがヨーロッパで最も日照時間が長い国の1つであることを知っている。潜在的な発電電力量は公式発表で年間3,800億 kWhあるとされている。トルコの2012年の総消費電力量が年間2,400億kWhであることから、このまだ開発されていない資源を一部でも有効利用できれば、原子力発電所建設計画を葬り去るのに十分であることが分かる。
 トルコの総発電設備容量は約5,700万kWだ。一方トルコの導入済み太陽光発電の設備容量は1万kWにも満たない。風力や地熱、バイオマスなどもすでに商業的に導入可能となっている。しかし、たとえば、4,800万kWの導入ポテンシャルがある風力発電でも導入されているのはほんの230万kWにすぎない。
 環境保護主義者たちが問題視している褐炭や大規模水力などを導入しなくとも、トルコは原子力発電所を建設せずに、電力需要に簡単に対応できるといえるだろう。
 加えて、トルコが管理、調査、透明性にかんする政策に大きな疑問がある国である上に、地震国であることを考慮する必要もある。

 

 東京電力福島第一原子力発電所事故の後、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相は「事故リスクのない投資などない。もしそうなら、家庭でプロパンガスなど使えないし、天然ガスや原油のパイプラインを国内に通すこともできない」と発言した。原子力発電所を建設しようとしている国の首相が原子力発電所の事故とプロパンガスの爆発事故を同列に扱うようでは、まさに事故は起こるのを待つばかりだ。
 黒海沿岸地域でチェルノブイリ事故の影響を最も受けたのはトルコである。シノップのどの家庭を訪ねても、だれもが親しい人をガンで失っている。
 シノップの人々は誰もが原子力発電所が彼らの苦しみの本当の原因であることを知っており、災厄が再びおこることを許さないと決意している。日本との原子力協定の締結の決定を耳にした時、複数のNGOや政党からなる反原子力プラットフォーム(Anti Nuclear Platform)が設立された。
 つい最近にも巨大な火力発電所建設計画に反対し、止めさせたシノップの人々は、原子力発電所の建設も許すことはないのだ。

(翻訳 松久保肇)

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