事故時に役立たないブローアウトパネル ―東海第二原発の原子炉建屋の基本設計の欠陥

『原子力資料情報室通信』第531号(2018/9/1) より

事故時に役立たないブローアウトパネル ―東海第二原発の原子炉建屋の基本設計の欠陥

後藤政志(元東芝技術者・NPO法人APAST理事長)

ブローアウトパネルとは何か

日本原子力発電(株)(以下、日本原電)東海第二発電所の原子炉建屋ブローアウトパネルの審査を巡って様々な設計変更や設備の追加および試験が行われている。
ブローアウトパネルは、原子炉建屋の圧力が増加した時に、自動的に圧力を逃がし建屋の破壊を防ぐ装置である。福島事故以前から設置されていたが、福島事故で原子炉建屋の水素爆発等の課題が指摘された。「ブローアウトパネルが開放した場合に閉止できるようにすること」が、2017年11月に新たに新規制基準に取り込まれ、東海第二発電所では、工事計画認可申請書の審査にあたり、ブローアウトパネル閉止装置を新たに開発し、地震後においても所要の機能(開閉動作、気密性能)を維持できることを実証するために加振試験を行うことになった。
同設備の加振試験や機能確認試験で、技術的な問題が指摘されているが、ブローアウトパネルは原子炉建屋の構造、換気空調系、非常用ガス処理系、原子炉格納容器設計外圧、可燃性ガス濃度制御系、原子炉建屋内水素爆発防止等複数系統の設計に関係している。
本稿では、その全体像を把握し、それらの設計条件等を考慮した上で、ブローアウトパネルの設計基準や運用(耐震設計、負圧制御、高圧時開放、開放維持、再閉鎖・維持等)を精査し併せて、設計条件および重大事故条件の設定の妥当性を検討する。

 

原子炉格納容器は外圧に弱い
-格納容器は、内圧の20分の1の外圧で潰れてしまう-
沸騰水型原発(BWR)の原子炉格納容器は、事故時に放射性物質を閉じ込める一次格納施設(PCV:Primary Containment Vessel)と呼ばれ、格納容器の中で配管が切れる等の冷却材喪失事故の際、内圧に対して風船のように膨らむことで強度が保てるようになっている。
図1に、東海第二原子力発電所が採用しているマークⅡ型格納容器の圧力バウンダリー(圧力に耐える境界部)を示す。設計上の圧力は、310kPa(G)つまり約3.1気圧(G)注1)である。 直径約26 m、厚さおよそ20mm~30mm程度の鋼板でできており、(直径/板厚)比が1000近い薄板の溶接構造物である。内圧により膨らむ方向(内圧>外圧)には、設計上は約3.1気圧、重大事故時にはその約2倍の約6.2気圧まで耐えられる。しかし、外圧が内圧より大きくなる(外圧>内圧)と、格納容器のシェル(壁)は設計上の圧力よりはるかに小さい差圧の、約0.14気圧(2psi≒13.7kPa)注2)で潰れてしまう。例えば、薄いアルミ缶は中からの圧力には強いが、外から押すと簡単に潰れてしまう。
このように外圧で容器が潰れる現象を外圧座屈と言い、設計上の内圧の20分の1あるいはそれ以下で潰れる可能性があるので、格納容器にかかる外圧は十分小さい値に抑える必要がある。格納容器の外圧は、格納容器の外圧座屈強度の半分、1psi(6.9kPa)の許容外圧以下に抑える必要がある。
図1に内圧と外圧の関係を示す。格納容器のシェルにかかる力は、格納容器内の圧力(Pi)と格納容器外の圧力(Po)の差圧(Pi-Po)が正であれば外向きに、負であれば内向きにかかる。

 

二次格納施設・原子炉建屋とブローアウトパネル

二次格納施設としての原子炉建屋が、原子炉格納容器および最上階の燃料交換用のフロアと使用済み燃料プールを取り囲むように設置されている。原子炉建屋は鉄筋コンクリートでできている(図2)。
事故時に格納容器から漏れ出た放射性物質を外部に出さないように、空調設備を使って少し負圧にしてある。ただし、鉄筋コンクリート製とはいえ、平らな床や壁できているので、建屋の耐圧強度は原子炉格納容器に比べてはるかに小さい。また、原子炉から原子炉格納容器を通って、タービンまで蒸気を送る主蒸気配管が原子炉建屋内(原子炉格納容器の外)で破断する事故が起きると、原子炉建屋の圧力は急激に上がることになる。この時、原子炉建屋の壁が壊れるか原子炉格納容器が外圧座屈するので、原子炉建屋の上部にブローアウトパネルを設け、建屋圧力が上昇し1psi (6.9kPa)になると自動的にパネルが外れて圧力を逃がす設計になっている。

原発の運転をする中央制御室は、非常時には放射性物質の侵入を防ぐように隔離ダンパという蓋を閉めて外気を遮断し、非常用ガス処理系(SGTS)で放射性物質を除去しながら空気を循環させる。原子炉建屋で漏えいが生じたり、ブローアウトパネルが開き、原子炉建屋の気密性が保てなくなると、中央制御室を隔離するが、隔離ダンパは多少の漏えいもありうるし、SGTSの故障や機能喪失は運転員が汚染された空気による危険にさらされることになる。

 

ブローアウトパネルに求められる機能
【機能1】 原子炉建屋の圧力上昇で自動的に開放
東海第二発電所では,原子炉建屋の外壁に合計12枚のブローアウトパネルが設置されている。建屋は二次格納施設であるから気密性を要求されるが、ブローアウトパネルは、前述のように、建屋内で配管破断が起きた場合に圧力上昇を防ぐために,放出蒸気を建屋外に放出することが要求される。建屋内圧上昇の際、1枚約4.1m×約3.7mのパネル4枚以上を開くことが必要とされる。開放時の設計差圧6.9kPaで1枚のパネルで約104kN(10.7トン)の荷重を18個のクリップで止めている。電源や空気圧力源に頼ることなく、圧力上昇によって自動的に開く必要がある。しかし、パネルのサイズが大きいうえに、18個のクリップにかかる力にばらつきがあり、確実に開くかどうか、懸念される。

【機能2】 基準竜巻で開放した場合設備を防護可能
設計条件の瞬間最大風速100m/sの竜巻によって外気圧が低下し、差圧でブローアウトパネルが開いてしまう可能性がある。その場合、建屋内機器を竜巻から防護できることが要求される。建屋の閉じ込め機能が必要となる設計基準事故とブローアウトパネルが開く竜巻が同時に発生する確率は小さいので、開いたブローアウトパネルは時間をかけて元にもどせれば良いとして落下防止チェーンを設置しているが、どの程度の時間で気密性を再び確保できるかは、大きな疑問である。

【機能3】 竜巻飛来物に対する防護対策
竜巻による飛来物により、ブローアウトパネルや別途設置するスライドドアが機能を阻害されることがないよう、防護ネットを設置する。

【機能4】 開放状態で炉心損傷した時に、速やかに遠隔および手動で開口部を閉止できること
そのために、ブローアウトパネル開口部を覆うようにスライドドアを設置する。

【機能5】 大規模損壊時に、放水砲による使用済燃料プールへの放水のため、必要箇所を手動で開放できること
対策としてはブローアウトパネルを油圧ジャッキで強制的に開放する仕組みを追加し、さらに、スライドドアでブローアウトパネル開口部を閉止、あるいは開放できるように設計変更した。

 

スライドドア機能確認試験の不具合
日本原電は、上記の仕様に沿ったブローアウトパネルの機構およびスライドドアの試験を2018年6月頃の規制委へ審査ぎりぎりまでやっていたが、試験で不具合が多発している。
ひとつは、スライドドアの扉開状態と扉閉状態の両者で、設計基準地震動Ss以上の加振試験を行ったところ、電動駆動用チェーンの破損が生じたことである。かんぬきを設置するとか、チェーンの材質を変更するとか対策を議論している。だが、予め十分強度評価ができる加振試験で、地震時に機構にかかる荷重や変位、強度に関して事前評価ができないようでは、他の主要部分の耐震設計が十分できていない可能性が否定できない。
もうひとつは、同じくスライドドアの扉閉状態でSsレベルの加振をしたところ、扉は約300mm開側にスライドし、気密を保つパッキン部でも約50mmの隙間が生じた。
さらにもうひとつの加振試験でも、扉が全閉位置から約85mm開側にスライドした。チェーンの伸び量等調査しているとしているが、このような、試行錯誤を繰り返している状態で、どうして規制委が設置変更許可を承認するのか分からない。
本件は設置変更許可上の問題ではなく、工事計画認可設計上の問題として位置付けているそうだが、後述するように、ブローアウトパネル問題は、スライドドアを含めて放射性物質の閉じ込め機能に係る重要事項であると同時に、原子炉建屋等を含む基本的なシステム設計の問題と見るべきである*)。

 

 

ブローアウトパネル問題の整理
①原子炉建屋は、二次格納施設であり、放射性物質を閉じ込める働きをしている。したがって、負圧にしてあるので、動的機器の非常用ガス処理系の使用は、信頼性に欠ける。

②格納容器外で主蒸気配管が破断すると、主蒸気隔離弁が約5秒以内に閉まり、建屋の内圧が急激に上がるから元の設計でブローアウトパネルをつけた。

③ブローアウトパネルが機能喪失し、原子炉建屋内圧が一定以上上がると、建屋が壊れるか格納容器が座屈してしまう極めて厳しい事故になる。

④したがって、ブローアウトパネルの作動圧力6.9kPaの精度は重要である。

⑤ブローアウトパネルが開いた状態では、原子炉建屋の二次格納機能が失われているので、早急に復旧する必要がある。実際にどれだけの時間で復旧できるのか不明。また、主蒸気隔離弁にリークがあると、放射性物質が出続ける。

⑥主蒸気配管で設計基準事故が起きると、二次格納施設のバウンダリーを自ら破ることになるブローアウトパネルは、基本的な設計上の問題だ。

⑦格納容器が外圧座屈に弱い。格納容器は、通常正圧だが、事故時は、格納容器スプレーで負圧になることもある。真空破壊弁の作動遅れは格納容器の外圧座屈を起こす。

⑧原子炉建屋が、内圧6.9kPaという低い圧力制限があることが、二次格納施設の信頼性を大きく損ねている。それは、設計基準事故を想定して設計したブローアウトパネルが、炉心損傷以降の重大事故状態に閉じ込め機能を要求されることに無理がある。一度外れたブローアウトパネルを塞ぐことなど、事故の状態によってはできるかどうか不明である。例えば、放射性物質が大量に漏えいしていれば、閉じ込め機能を維持できない。

⑨さらに、ブローアウトパネルだけでは、無理があるので、スライドドアを別途設置し、耐震性や竜巻の防護も必要とされた。ブローアウトパネル開放時にスライドドアで代替えしようとすると、主蒸気ラインからの大量放出があった場合に、圧力上昇を防げず、建屋あるいは格納容器破壊となる。
⑩水素爆発を防げない可能性が高い。福島事故で起きた、格納容器からの水素漏えいがあった場合、水素濃度が上がってもブローアウトパネルは作動圧まで達しないので作動しない。また、水素爆発が起きた場合に、爆発力は瞬時に働くのでブローアウトパネルは全く役に立たず、建屋は破壊する。

⑪放射性物質の閉じ込め機能は、設計圧が約3~4気圧の原子炉格納容器が一次格納施設で、設計圧が約0.14気圧の原子炉建屋が二次格納施設となっていることに無理がある。重大事故時に、格納容器から漏れることが有り得るから、二次格納施設を設けているが、炉心溶融のような重大事故に役立たず、原発の設計上の矛盾が多々出てくる。

⑫したがって、現行のBWRの設計では、格納容器が小さい事、圧力抑制機能の信頼性がないことを除いても、格納容器バイパス(主蒸気配管破断)等に対して、建屋がもたないことが問題である。

 

まとめ
ブローアウトパネルに関する日本原電のトラブルは、単なる試験上の不備や準備不足の問題ではない。基本的な耐震設計上の荷重の評価や強度、機能維持に関する技術的能力の不足を疑わしめる。
また、ブローアウトパネルの問題は、福島事故を真摯に反省するなら、原子炉格納容器、原子炉建屋、冷却材喪失事故、非常ガス処理系、水素爆発防止、耐震設計、耐竜巻設計等、多くの基本的な系統設計上の問題に関係していることから、小手先の対策ではなく、原子力プラントの建屋等の基本設計を抜本的に再検討すべきである*)。
設置変更許可審査までもどって見直すことをせずに認可することは、東海第二原発の新規制基準に対する適合性審査の質を疑わしめることになる。

 

注1) (G)は大気圧をゼロとしたゲージ圧を示す。3.1気圧(G)は絶対圧で4.1気圧を意味する。
注2) psi:圧力の単位のひとつ。ポンド/平方インチ。

 

①福島第一原発2号機建屋の空撮。ブローアウトパネルが外れてできた壁の穴から蒸気が出ている。パネルが下に落ちている。奥には1号機。(2011年4月10日撮影)②開口部と落下したブローアウトパネル。(2011年8月29日撮影)③スライドドアの一例(2013年3月11日撮影) 写真引用:東京電力ホールディングス株式会社