高レベル放射性廃棄物処分場の経済効果を検証する ――『どうする?原発のごみ2 ―核のごみは地域を豊かにするのか』、 『増補 どうする? 原発のゴミ―高レベル放射性廃棄物の最終処分問題を考える』 出版のご案内――

『原子力資料情報室通信』第561号(2021/3/1)より

 原子力発電環境整備機構(NUMO)は、2020年11月17日から、北海道電力泊原発に近い寿都(すっつ)町(人口2,885人)と神恵内(かもえない)村(同815人)で高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のゴミの最終処分場選定の入り口にあたる文献調査を開始しました。
 最終処分事業は、2年の文献調査、4年の概要調査、14年の精密調査の3段階からなる処分場選定プロセスと、地下300m以深での最終処分場建設(10年)、そして50年ほどかかる核のゴミの埋設と閉鎖、一定期間の処分場モニタリングからなります。
 この高レベル放射性廃棄物処分事業で大きな論点となるのが処分場受け入れに伴う経済効果です。国は最終処分事業が、地域の自立的な発展、関係住民の生活水準の向上や地域の活性化につながることが極めて重要といいます。そのため国は事業を受け入れた自治体に、文献調査期間で最大20億円、概要調査期間で最大70億円、さらに精密調査と処分場に対しても交付金を支給することとしています。またNUMOは概要調査と処分場操業・閉鎖を合わせて、立地都道府県に9,000億円超の直接支出、波及効果で2兆円を超える経済効果があると試算しています。でも本当にそんなに効果があるのでしょうか。そこで、文献調査から精密調査までの間の経済影響はどの程度なのか、先行事例から検討してみました。
 文献調査や概要調査では交付金以外の経済効果はそれほど期待できません。文献調査は地元での理解活動、概要調査もそれほど大規模な工事を伴うものではないからです。ちょうど、1980年ごろに原発建設計画が持ち上がったものの、反対運動によってほとんど建設が進んでいない上関町(人口2,597人)と状況が似ています。上関町は原発関連の交付金を累計74億円受け取ってきました。でも上関町の経済状況は改善していません。住民の課税所得も周辺自治体の中では低位に位置し、人口の急激な減少にも直面しています。
 施設が建設される精密調査の段階ではどうでしょうか。NUMOはこの段階の経済効果を直接支出で416億円、間接効果で1,060億円と試算しています。この段階は高レベル放射性廃棄物の地層処分研究施設がある北海道幌延町(同2,269人)の状況とちょうど重なります。この施設の事業費は15年間で累計429億円、交付金も約30億円受け取ってきました。でも、巨額の資金流入も幌延町の経済状況改善にあまり繋がっていません。
 幌延町や上関町では、住民に対する基礎的サービスの一部が交付金でまかなわれています。2年間の文献調査であれば、それほど大きな問題にならないかもしれません。でも、調査は段階が進むにつれて長期化します。医療や交通といった生活に必須のサービスが交付金で維持されていた場合、これ以上先に進みたくなくなっても拒否はしにくくなります。
 文献調査に入る前に、原子力政策のあり方や、核のゴミの負担のあり方がまず議論されるべきです。それなしでは、お金と引き換えにした負担の押し付けが行われるだけになってしまいます。

 この度、当室は原水爆禁止日本国民会議、反原発運動全国連絡会と共同で、上述した経済効果に着目した『どうする?原発のごみ2―核のごみは地域を豊かにするのか』(頒価250円)を出版しました。合わせて地層処分の基本的問題を解説した 『増補 どうする? 原発のゴミ―高レベル放射性廃棄物の最終処分問題を考える』(頒価300円)も、状況に合わせて改訂しました。ぜひ、各地でご活用ください。
 ご注文はcnic.cart.fc2.com/、または原子力資料情報室までお問い合わせください。

(松久保 肇)

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