ライト・ライブリフッド賞設立40周年記念イベント   エネルギーは少なくても、幸せな世界を作るには

『原子力資料情報室通信』第562号(2021/4/1)より

2021年2月20日に開催したライト・ライブリフッド賞40周年記念オンラインイベント「小さなエネルギーで楽しむ豊かな社会のつくり方~危機的な世界をどう変えるか~」には約460名の方が参加してくださいました。どうもありがとうございました。写真は配信スタジオの様子。(左から)河合弘之弁護士と当室共同代表伴英幸、画面にはゲストスピーカーのみなさん。

 2月20日、ライト・ライブリフッド賞(RLA)の40周年を記念するイベントがオンラインで開催されました。この賞は「地球規模の問題を解決する勇気ある人々を称え、支援する」もので、グレタ・トゥンベリさんやエドワード・スノーデンさんなど、世界72カ国から182の個人や団体が受賞しています。原子力資料情報室の前代表である高木仁三郎は1997年に同賞を受賞しており、日本では1989年に「生活クラブ連合会」も団体として受賞しています。今回のイベントは、日本のRLA受賞関係者が共同で主催し、韓国の受賞者の「経済正義実践市民連合」をお招きして、彼らの経験や活動を共有していただきました。2020年は高木前代表の没後20年の年でもあり、特に原子力資料情報室にとっては、高木前代表のビジョンを振り返り、私たちが社会としてどこに向かうべきなのかという大きな問題を、幅広い聴衆と様々なオピニオンリーダーの方々と一緒に考える機会となりました。

第1部:ライト・ライブリフッド賞と受賞者たち
 イベントは4つのセッションで構成されました。最初のセッションでは、ライト・ライブリフッド賞の説明と、参加している各受賞者の紹介が行われました。高木前代表の紹介は、パートナーである久仁子さんが行いました。観ている方の中には、一緒に活動に参加したことがあり、さまざまな形で原子力に反対していた当時のことを記憶している人がたくさんいたと思います。高木前代表の「核のない世界」というビジョンは、単なる技術論ではないことを改めて実感しました。また、核科学者でありながら、核エネルギーが生み出す社会のあり方に強い関心を持っていたのです。民主的で持続可能、そして公正な社会をいかに構築するか、これがRLA受賞者全員に共通するテーマなのです。

第2部:韓国からのインスピレーション
 第2部では、ソウルからオンラインで参加していただいた「経済正義実践市民連合(経実連)」事務総長のユン・スンチョルさんにお話を伺いました。韓国では非常に強い社会運動が展開されていることは日本でもよく注目されています。日本では “正義 “という概念が希薄で、活動家もあまり議論しないと感じていましたが、経実連のミッションは、経済的正義が基本となる社会を構築することです。すべての人が平等な経済的機会と適正な生活水準を得る権利を持ち、政府が市場の不公正を是正する義務を負う社会。これが経実連の活動の大前提となっています。経実連のキャンペーンは、具体的な問題に焦点を当て、現実的な構造的解決を目指すものです。ユンさんは、経実連のキャンペーンが大きな政治改革を実現した具体的な例を挙げてくれました。1997年の強力かつ持続的なキャンペーンの結果、金融取引の際に実名を使用することを義務付ける法律が施行されました。これにより、賄賂の支払いや税金の逃れ方が格段に難しくなりました。経実連は、地域レベルで一般市民を多数動員し、専門家や法律家も動員することで、彼らのビジョンである公正な経済を支える政治的変化を実現してきました。 

第3部:考え方を変えるには? 実践の力
 第3部では、辻信一さん(文化人類学者)と枝廣淳子さん(幸せ経済社会研究所所長)によるトークセッションが行われました。まず、私たちが直面している根本的な問題を明らかにすることから始めました。両氏は、私たちが無意識のうちに、経済成長やグローバリゼーションが私たちに幸せをもたらしてくれると信じているにもかかわらず、実際には自然環境やお互いからどんどん分離していっているという考え方に陥っているという点で一致しました。その結果、大きな環境破壊を引き起こし、私たちの支えとなっていた地域社会を引き裂いています。これによって人間は悲しくなる一方ですが、それを解決するには物をどんどん買って経済を活性化させることではなく、分離してしまったものと再びつながることです。しかし、考え方を変えることはとても怖いことです。具体的に実行可能な代替案がなければ、人々は経済成長への信念を簡単には手放さないでしょう。
 両氏のお話では、地域経済やコミュニティの力を示す具体的な事例が数多く紹介されました。枝廣さんは、福島第一原発事故後、原発推進派と反原発派が完全に二極化したときにかかわった活動を紹介しました。同じ情報、同じ状況を見ているにもかかわらず、異なるものを見て、全く異なる結論を出していたのです。
 前進するための一つの方法は、大規模な政策について延々と議論するのではなく、地域レベルで行動を起こすことです。ある地域の人々は、自分たちが必要とするエネルギーを政府や企業に頼らず、再生可能なエネルギー源を使って自分たちで発電することを決めました。これは、「小さなエネルギー」が、使いたいエネルギーを自分で決められる幸せと、環境への優しさをもたらしている好例です。そしてもちろん、コミュニティとのつながり、コミュニティの一員であることも。
 人々の「幸福」こそが重要であるという観点から政策と国家予算を立てている国もあります。ブータンの例では、政治的な意思決定に必要な経済指標としてGNPを用いる代わりに、GNH(国民総幸福量)を取り入れています。また、ニュージーランドでは、「幸福度予算」を導入していることも紹介されました。

第4部:核のない世界を想像してみて、どのようにそこにたどり着くのでしょうか?
 最後のセッションでは、映画監督で脱原発弁護士である河合弘之さん、原子力資料情報室共同代表の伴英幸、生活クラブ神奈川県支部副支部長の櫻井薫さんによる原発にかんするパネルディスカッションが行われました。河合弁護士は、法廷で原発と闘っていることを紹介しながら、「裁判官が安心して反原発の判決を出せるようになるには、裁判官にもわかりやすい資料をつくることや、 世間の意識が変わることが必要だ」と述べました。伴は、高木前代表の主要プロジェクトの一つである、日本の核燃料サイクル政策の失敗について報告しました。櫻井さんは、生活クラブの再生可能エネルギープロジェクトを紹介してくれました。生活クラブの組合員が、自分たちが消費するエネルギーの生産に関わることは、重要なポイントです。
 このセッションの後半には枝廣さんと辻さんも加わり、明るい未来を想像できるような前向きなディスカッションが行われました。
 辻さんは、「福島第一原発のメルトダウン後の気持ちを思い出してほしい。もちろん、この大事故の前に原子炉を止められなかったことへの深い悲しみと悔しさがありましたが、一方で「もうこれで原発は絶対に終わりだ。やっと止めることになる」という確信もあったでしょう。10年後も政府の方針は変わっていないが、現実は変わっています。事故前に54基あった原子炉は、現在、日本で稼働可能なのは9基だけです。」と述べ、また、「 (特に男性の)活動家には問題点や困難な面を強調する傾向がありますが、運動には大きな勝利(ポジティブな面)もあることを忘れていけません。」「豊かで幸せな低エネルギー社会を実現するためには考え方の大きな変化が必要です。時々、この(低エネルギーのような)話をすると、周囲には、‘ナイーブ(な考え方)だ’と言う人もいます。しかし、変化を起こすには、ナイーブと言われることを恐れずに、ポジティブなことを強調していきましょう。」 という激励のコメントをいただきました。

 私にとって今回のイベントで最も重要なメッセージは、高木前代表も含めて、ライト・ライブリフッド賞受賞者たちが、変化は可能であることを示してくれたことです。自分自身と仲間の「人間を信じる勇気」があれば、コミュニティと協力に基づいた世界を築くことができるのです。

(ケイト・ストロネル)

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