【原子力資料情報室声明】 第6次エネルギー基本計画素案、原子力をやめる明確な道筋こそ描くべき

2021年7月22日

NPO法人原子力資料情報室

7月21日、国の中期のエネルギー政策のガイダンスになるエネルギー基本計画の素案が発表された。原子力については「依存度を低減」という文言は残ったもののの、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」という記述になった。前回までの計画では「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」という記述だった。原発を活用していくということをより強く打ち出した格好だ。

2030年時点の電源構成にしめる原発比率は前回計画同様20~22%とされた。ただ総発電量を約1割削減したことから原発の発電電力量も若干減っている。それでも、この目標を達成するにはすでに再稼働した原発だけでなく、地元の反対などで合格しても再稼働の目処が立たないものも含めて、現在、新規制基準適合性審査合格、または審査中の原発がすべて再稼働して、さらに設備利用率が平均80%にならなければ達成できない。現実を見据えれば、2030年断面で稼働原発がこれほど増えることも、設備利用率が80%を平均的に超えることも、相当楽観的な見通しだといえよう。

東京電力はエネルギー基本計画の素案が発表された7月21日、発表が遅れていた第4次総合特別事業計画を公表した。この中で東京電力は、収支改善とカーボンニュートラルのために原子力が必要だとして、2022年に柏崎刈羽原発7号機の、2024年に6号機、2028年に更に1基の再稼働を予定するとしている。しかし、東京電力は福島第一原発事故を引き起こした当事者である上に、今年発覚したテロ対策問題、さらに完了していない工事を完了したと発表したなど数多くの問題を抱えている。東京電力は原子力事業者としての資格自体に疑念がある。再稼働以前の問題だ。他社を含め、カーボンニュートラルを人質に原発再稼働を要求するようなことはあってはならない。

原発が20~22%という極めて高い目標を達成できなければ、2030年温室効果ガス排出量50%削減(2013年比)どころか46%の削減も危うい事になる。原発の発電電力量が目標未達になり、電力需要が目標通りだった場合、その穴埋めを火力に求めなければならなくなる可能性が高いからだ。そもそも原発ありきで電源構成を決めているところに無理があるのだ。大手電力は原発に巨額の安全対策費を投じて再稼働を目指している、さらに原発がいつ再稼働するともしれないとなれば、当然ながら投資家は電源への投資をためらうだろう。原発が再稼働すれば、巨大な電力が供給されることになり、電源への投資が回収できなくなるかもしれなくなるからだ。そして、大手電力は原発に巨額の安全対策費を投じた結果、他の電源への投資が説明できなくなる。原発の存在は、電力の安定供給の大きな妨げとなっている。

2050年までのスパンで考えれば、さらに状況は更に厳しい。仮に2030年時点の原発の目標が達成できた場合でも、40年稼働を前提とすれば、その後数年で続々廃炉となり、2040年時点でさえ十指に満たない状況となる。60年稼働であれば、2050年時点では20基程度が稼働しているだろうが、同様にその後急速に原発は廃炉となり、2060年には数基という状況になる。この急速に減少する原発の発電電力量をどのように補うのか。

もはや原発は低炭素・安定電源ではなく、むしろ、不安定電源である。今、日本のエネルギー政策に必要な施策は、原発をいかにやめていくかの明確な道筋を示すことだ。それによって、電源投資を促すことも可能になり、温室効果ガス削減も計画的に行うことができる。

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