原発は地震に耐えられるか 新耐震指針でも安心できない(講演資料)

原発は地震に耐えられるか-新耐震指針でも安心できない(講演資料)

湯浅欽史

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原発は地震に耐えられるか―新耐震指針でも安心できない

湯浅欽史(原子力資料情報室 ボランティア)

【I】地震と地震動

◆ 地震→地震動→地震力→震災

地下深くの震源断層が突然ずれて地震が発生し、その震動が地盤中を伝播して地表に達し、地震動として観測されます。

地震動によって地盤が壊れ、地割れ・段差・横ずれ、などが生じます。地盤が壊れなくとも、そこに設置された建物等の構造物や中に納められている機器類は揺さぶられ、地震力を受けます(図-1)。地震力は地震動の強さだけでなく、機器類の震動特性(固有周期)によります(後述、図-14)。地震力が構造物等の強度を超えれば破壊され、災害になります。

震源から地表に達し観測される地震動は、まず震源の性質(図-8参照)によって決まる地震規模などに加え、伝播経路の地殻の性質に依存して減衰しながら固い基盤に達します(図-10の例)。さらに、地震計が設置してある地盤が柔らかければ基盤から地表までの間に増幅されます(図-2)。

◆地震動の活発な地域

世界中で地震が起りやすい場所は極限されていて、帯状に連なっています。図-3はジグソーパズルのようです。地球の殻は何枚かのプレートの集りになっていて、各プレートは今でも動いていて、押し合っているところが地震帯になっています。アフリカ西海岸と南アメリカ東海岸が”嵌め込み”になっていて、「大陸漂流説」が目に見えるようです。

日本列島では何枚かのプレートが押し合い、有数の地震多発地帯になっています(図-4)。ここに57基もの原子力発電所が造られているなんて”狂気の沙汰”だと思いませんか。

太平洋プレートとフィリッピンプレートが潜り込んで地震を起こしているというプレートテクトニクス理論は、図-5の震源深さの等深線からうかがわれますし、また図-12右上の断面図からも読取れます。何回も繰り返された地震によって地表に生じるずれは、累積されて活断層(図-6)となって変動地形を形成しています。

◆ 地表断層と震源断層と伝播経路

地表に現れた断層は、圧縮力で地盤が壊されると「逆断層」となり、引張り力で壊されると「正断層」となります(図-7)。

震源断層の性質は図-8の静的パラメータによって表わされます。これまでの大地震の震源断層面の形状は図-9のように推定されています。阪神大震災をもたらした兵庫県南部地震(1995)は、地震規模としては意外に小さいものでした。

図-2に記してある「伝播経路特性」の例として、兵庫県南部地震の距離減衰の観測結果を図-10に示しました。加速度で表わした地震動の大きさが震源から離れると急速に減じていく様子が分ります。また、同じ距離でも5倍もの差があることは、観測点の地盤特性の影響が大きいことを示しています。

【II】耐震設計審査指針の改訂(説明を省略し、項目のみを記す)

◆ 改訂の背景(『原子力発電所 耐震設計審査指針の改訂』参照)

◎ (工学)構造物の動的解析の普及

◎ (理学)地震学や地形学・地質学の知見の深化

◎ 兵庫県南部地震が与えた衝撃

◎ 予想外の地点に予想外の大地震、が続く

◆ 審議過程(『原子力資料情報室通信』388号 参照)

◎ 5年にわたる熱心な議論

◎ パブリックコメントへの取り扱いをめぐって

◆ 改訂の主な点(『原子力発電所 耐震設計審査指針の改訂』参照)

◎ 「岩盤支持」と「剛構造」と、両規定の削除

◎ (弾性状態重点から塑性状態重点へ)基準地震動の”逆転”/ S1+S2 ⇒ Ss(+Sd)

・基準地震動S1:設計用最強地震がもたらすもので、重要施設はそれに”耐える”こと
・基準地震動S2:設計用限界地震がもたらすもので、重要施設は”安全機能保持”
・基準地震動Ss:複数選定された検討用地震がもたらすもので、”安全機能保持”
・弾性設計用地震動Sd:Ssをα(≧0.5)倍したもので、重要施設はそれに”耐える”こと

◎ 活断層の評価対象:5万年から後期更新世(13万年)へ

◎ 直下地震(M6.5)は「震源を特定せず」地震動に:震源近傍の観測記録を収集

◎ 応答スペクトルと断層モデル(図-11を参照)の併用

◎ “残余のリスク”の導入

【III】05.8.16宮城県沖地震と女川原発

◆ 図-12左上の正方形「震央分布図」で、左端「A」という記号の辺りが仙台で、女川はその東北東50kmにある牡鹿半島の付け根です。この図には、3年間に起ったM1.5以上の地震N=18,141個が”雲のように”記入されています。

やや傾いた長方形の領域aの断面図が右上に[A-B投影]として画かれ、N=7,717個が記入されています。この二つの図から”地震の巣”を立体的に眺めることができます。断面図の右上から左下へ、太平洋プレートが潜り込んでいる様子が明瞭に見て取れ、また左上部にある仙台と女川の中間の”雲”から、内陸地殻内の浅い地震もあることがわかります。

左下の図は、小さな長方形の領域bについて、下方に時間軸をとってあります。地震発生直前の8/15から9/12までの28日間にN=452個の余震が起こりました。それらが時間の経過とともに、震源の東西両側にバラケながら次第に収束していく様子と、最大の余震が9/12に本震震源のわずか西側で起ったことが示されています。

右中と右下の二つの図は、左下と同じ領域bについてのものです。横軸を時間に、縦軸をマグニチュードMとした多くの縦線群が[M-T図]で、縦軸に地震の数を累積した1本のギザギザな線が[回数積算図]です。右中図からは、4年弱の間のN=1,455個の地震に関して、M4程度以下の地震が均一な頻度で起ってきたことが分ります。右下図からは、本震直後の数日間に多数の余震(左下図の上部に広がる”雲”)が発生し、その後はまた均一な発生頻度に戻っていく様子がうかがえます。

震源断層が数秒~数分の短時間に激しくずれ動き、その”ひきつれ”が周囲に起る多くの余震による弱いずれによって、何年もかけて緩和され馴染んでいくのが、これらの図から実感できます。

◆ この地震による女川原発での地震動が「設計値を越えた」ことを確認するには、二つの概念、「はぎとり」(図-13)と「応答スペクトル」(図-14)、が必要になります。

原発サイトの近くで同じような地震が起っても、各サイトの地盤特性の違いによって様々な地震動が観測されます。そこで各サイト共通の基準としては、固い地盤が地表に露出していたらと仮定して、耐震設計のための地震動を規定しています。この仮想的地表面を「解放基盤面」といい、そこで観測したらと仮想した地震動を「はぎとり波」と呼びます。実際には解放基盤面の上には軟らかい表層地盤が覆っていることが多く、仮にそれを剥ぎ取ってあったとしたら観測されたであろう仮想の地震動が「はぎとり波」です。軟らかい表層が覆っている状態で観測された実際の地震動から、それは計算によって求められます。

次は応答スペクトルです。震源から地表に伝わってくる地震動は様々な周期の波形が含まれています。他方、構造物や機器類もそれぞれ決まった固有振動数(周期の逆数)をもっています。剛なものは短周期、柔なものは長周期、というわけで、レンガとコンニャクを叩いてみれば、その違いを実感できるでしょう。したがって、同じ程度の強さ(たとえば最大加速度)の地震動が地表に到達しても、地震動の周波数特性と構造物等の固有周期によって、受ける影響は異なります。そこで、地震動の「強さと特性」を合せて考えるには、時間軸に沿った波形(図-15の左側)ではなく、周期を横軸に加速度や速度を縦軸に画いた応答スペクトル(図-15右側は速度応答スペクトル)を用いると便利です。

◆ 女川原発では、図-15右側に示すように、8.16地震の速度応答スペクトルが基準地震動S1を超え、さらに限界を考慮した基準地震動S2をも超えてしまいました(S1・S2は【II】を参照)。旧指針の基準地震動が過小な評価であったことが明らかになったのです。

さらに、観測された地震波を原子炉建屋に入力して動的解析をした結果(最大加速度の値)も、基礎版上で設計値を超えていました(図-16)。そこに設置されている機器類の損傷の可能性が懸念されます。

◆ 女川原発における旧指針が不備な例(『原子力資料情報室通信』282号の引用から)

◎ 地震の規模と震源からの距離から、岩盤上の地震動の大きさを求めるやり方の一つに「日本電気協会の手法」というのがあります。それで計算した推定値に対して各地の観測記録が何倍となっていたかを示したのが最終12頁の図-1で、東通地点、女川地点、福島地点、と3枚あるうちの1枚を示しました。このグラフの縦軸は、多数の地震に関して、周期0.1秒以下の波について平均した値です。この女川地点では、図で網かけした震源が30キロより深い地震では、推定値よりも観測値が何倍にもなっています(上端が10倍の対数目盛になっていることに注意)。設計に用いた地震はM7.4・震央距離48キロ、地震動は250ガルなのに対し、今回の地震はM7.2・震央距離73キロ、地震動は284ガルでした。「遠くの小さな地震なのに大きなゆれ」となったのは、現行指針の地震動推定のやり方(大崎の方法)が間違っているからだ、と批判しました。それに対して、現行指針は正しいが「女川地点の地形的・地質的特異性によるもの」と称して、その証拠として東北電力が出してきたのがこの図-1でした。

同じ「宮城県沖地震」であっても、それがどこに発生しどこに伝わるかで、大きさも振動特性もまったくちがう地震動を地表にもたらすことが、これら三地点の観測値を比べてみればはっきりしています。「内陸直下型はいざしらず、プレート型のメカニズムはわかってきた」との印象を私は抱いてきましたが、研究が進めば進むほど、「地震動を精度良く数量的に予測する困難さがはっきりしてきた」と言い直さねばなりません。

◎ もっとはっきりしているのは、女川3号機の安全審査(1995)の際に、サイトでの地震動を推定するための、1978宮城県沖地震を模擬する断層モデルの作り方が誤っていたことです。断層モデルとは、地下深くで地震が発生するメカニズムをモデル化するものです。1978地震は、M7.4、震央距離65キロ、深さ40キロということがわかっていて、記録が得られた各地での観測値を包括的に説明できるように、多くのパラメータを調整して断層モデルを決めていきます。東北電力は、大船渡には合わないけれど宮古と石巻には合うようにパラメータを選びました(最終12頁の図-2)。2月10日の対政府交渉の席上その理由を問い糾され、川原修司・統括安全審査官は、大船渡に合せると宮古・石巻が合わなくなるので「1対2」になってしまうからと答え、市民からの「多数決で決めたのですね」との念押しに、首をタテに振りました。もし安全審査の際に、大船渡での観測値に合せた断層モデルを用いて計算していれば、女川での地震動が2~4倍に推定されていて、8.16地震が設計応答スペクトルを超えていません。どの地点に合うパラメータを選ぶかは、国のいう”多数決”でいいのでしょうか。

地震波の伝わり方、地震動の増幅され方は、言うまでもなく地表付近の表層地盤の性質に大きく左右されます。硬ければそれほどでもなく、軟らかいと著しく増幅されます。女川を含めた4地点の表層地盤を図-2の右側の表にまとめました。女川での地震動を模擬する断層モデルを作ろうとするなら、当然にも女川と似ている大船渡の観測値に合うように、すなわち大船渡に大きな地震動をもたらすような、したがって女川にも大きな地震動をもたらすような断層モデルを用いるべきでした。