米・インド原子力協力:米議会が可決した法律の問題点

米・インド原子力協力:米議会が可決した法律の問題点

 12月9日に米・インド原子力協力実施に必要な米国原子力法の改正法案が可決された。可決された改正法案は7月26日に米国議会下院が、11月16日に上院が可決した法案を上・下両院協議会で一本化したものである。どちらかというと、一本化される前の両院の改正法案より弱くなった。大統領が確認する義務のある項目が報告だけで済むようになったなど、強制力がなくなった部分がいくつかある。両院の改正法案に国際原子力機関(IAEA)との保障措置協定をすでに結んでいることという条件があったが、インドの反発とブッシュ政権の圧力があって、妥協の結果、インドが保障措置協定書にまだ署名していなくてもよく、その前段階まで進んでいればよいことになった。

 弱くなった傾向の例外として、上院の改正法案だけにあったウラン濃縮・再処理・重水についての比較的きびしい条件が残った。国際的枠組みの中でなければこれらの関連技術の輸出は認められない。

 インドとの原子力貿易には根本的な問題が残る。インドは依然として核不拡散条約(NPT)に加盟していない。今回の法改正はアメリカがインドを核兵器保有国として認めることを意味する。これはNPT体制の崩壊につながる恐れがある。IAEAと協定を結ぶことによって、インドはいくつかの原子力施設への保障措置を受け入れることになるが、原子力施設の多くは「軍事用」と定められるため、こうした保障措置の範囲外に置かれ続ける。この区分によって、自国のウラン資源を軍事用に集中させることが可能となる。

歯止めをする機会は残されている

 改正法案が可決されたことによって、米・インド原子力協力は一つの大きなハードルを超えてしまったが、止める可能性はまだある。どういうふうに止められるか、以下の許可プロセスを見れば分かる(4が最後ということ以外に、順番は決まっていない)。

1)アメリカとインドが原子力協定案を作る。

2)インドとIAEAは、恒久的保障措置協定に署名する前段階まで、法律上必要なすべての措置を完成する。

3)原子力供給国グループ(NSG)は全会一致でインドに対する貿易規制を撤廃する。

4)米議会上下両院が米・インド原子力協定を可決する。

 どれが難航してもおかしくないが、一番期待できるのはNSGだろう。今度この問題がNSGで議論されるのは2007年4月と見込まれている。核実験を行なったインドを輸出規制から免除することに対する抵抗は強いが、アメリカの圧力を恐れて拒否権を行使しない国が出てくる恐れもある。NSGで日本が拒否権を行使すれば、米・インド原子力協力は法律上不可能となる。インドが核兵器保有を放棄しないかぎり、日本はNSGの原子力貿易規制撤廃を許さない立場をとるべきである。

 IAEAのメンバー国としても、日本はインドとの保障措置について言及できる。保障措置の交渉がすでに難航しているという報道がある。核兵器を保有しているが核不拡散条約のメンバーでないインドは、非核保有国が受け入れているような保障措置を受け入れたくない。保障措置が永久的になることに抵抗があり、保障措置を一部の原子力施設にしか受け入れていない。日本は非核兵器国として、すべての原子力施設を対象とする恒久的保障措置を受けることを、インドに求めるべきである。

 許可プロセスの1と4について、日本が直接的に影響を与えることは難しいだろうが、インド国内の政治的問題で難航する可能性がある。インドの原子力業界には、米議会が要求している条件に反対している人が多く、シン首相も一部の条件を認めていない。

例外はインドでとどまらない

 1998年のインドとパキスタンの核実験から8年しか経っていないのに、ほとんどの人はその時のショックと怒りを忘れてしまった。これから8年後には、北朝鮮の核実験に対するショックと怒りも同じように忘れられてしまうのだろうか。忘れないのはたぶん日本人と韓国人だけだろう。将来、北朝鮮を核保有国として認め原子力貿易を進めようという話が出たら、日本人はどう思うだろう。嬉しくないだろうが、日本は今ブッシュ政権が進めようとしているインドとの原子力協力に対して、NSGで拒否権を行使しなければ、海外の人々は共感してくれないだろう。北朝鮮はインドと違うと言う人がいるだろうが、国際状勢はどう変わるか予想できない。

 例外扱いはインドでとどまらない。すでに、パキスタンと中国との間の新たな原子力協力の動きが強まっている。パキスタンはインドと同じ扱いを要求している。パキスタンのカーン氏が中心だった核の闇市場の問題がまだ解決していないが、米・インド原子力協力がパキスタンへ広がることはほとんど止められない状態となっている。北朝鮮まで広がらないとだれが保証できるだろうか。

 インドへの原子力輸出は、世界的な核拡散状況を止めるどころか、助長することになる。

(原子力資料情報室:国際担当フィリップ・ワイト)