2023年 原子力政策、急転換か
GXへの道に沿う?
新しい年を迎えました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。原子力政策が大きく転換されようとしている。未だ「原子力緊急事態宣言」は解除されていないのに、まるで、東京電力福島第一原発事故などはなかったかのような、GX(グリーン トランスフォーメーション)のための原発推進の政策だという。
2022年8月末、第2回GX実行会議において、議長の岸田首相はGXの実現にむけて、エネルギー政策の新しい道すじとして、原発政策の転換について4点をあげ、年末までにまとめるよう経済産業省などに指示した。それは、次世代革新炉の開発・建設、既設炉の再稼働、原発の寿命延長、再処理・廃炉・最終処分のプロセスの加速化のことである。
GXとは、「温室効果ガスの排出原因となっている化石燃料などから脱炭素ガスや太陽光・風力発電といった再生可能エネルギーに転換して、経済社会システムの全体を見直すこと」とされている。現代社会全体をグリーンに変身させるものらしい。例えば、2030年までに温室効果ガスを19年比で43%削減し、50年までには実質ゼロにするというのだ。
原発は①エネルギーを生むが、②プルトニウムを創り出し、③十万年間は生活空間から隔絶しておかねばならぬ核のごみ(「死の灰」)を残す。そのうえ、スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマのような事故を起こす。①でいうエネルギーとは電力のことである。20世紀は「電気の世紀」といわれたものだが、電気のもつ利便性に人々が魅了されてしまった。まさしく「電気は魔物」であった。
「安全確保を大前提に」と言うが
首相の指示を受けた経産省の「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会」には、委員長の他に、20名の委員がいて、そのうち3名が専門委員(業界の代表者)だ。顔ぶれを見ると、2名を除いて18名は原発推進の論者である。委員長は「原子力ムラ」の守護神のような人。原子力に批判的な専門家は寥々たるありさま。こういう審議会で議論すれば、結論は推して知るべしだろう。
この「原子力小委員会」が9月以来、5回にわたる審議をへて、12月8日に結論をまとめた。その経緯は当室の松久保事務局長による「参加記」①~⑤、および本誌今号の関連論稿に詳しい。革新炉などと、いかにも新しく素晴らしいような原子炉を進めるという案はすっかり後退して、既設炉の最大限の活用、原発の運転期間延長、次世代革新炉の開発・建設に絞られた。ちなみに、次世代革新炉については、「革新炉ワーキンググループ」に参加した松久保委員の論稿が本誌581号にある。
その審議会で、推進派の委員が口をそろえて、「安全確保を大前提に」と言うのが、奇異に聞こえた。そもそも、誰が安全の判定をするのか。彼らによれば、原子力規制委員会らしい。だが、それは違う。原子力規制委員会は「新規制基準に適合しているかどうかは審査する。安全性を審査するのではない」と田中委員長(当時)が明言している通りだ。政治家や官僚が、勝手に、適合性審査に合格すれば安全審査に合格していると喧伝しているだけなのである。
「安全性」に関して、とりわけ重要なことは原子炉容器の中性子照射脆化の程度を正しく把握しておかねばならないことである。しかしじつに遺憾なことに、日本電気協会が提示した照射脆化予測式に、初歩的な誤りがあったのに、規制委員会はこれを見逃し、しかもこれを是認してしまった。現状では、原子炉容器の脆化度を正しく把握できないのである。緊急時の加圧熱衝撃によって原子炉容器が破損して重大事故になるおそれがある。
いっぽう、原子炉は停止中も脆化は進むのに、今回の運転期間延長論は、原子炉が停止中は運転期間に含めず、仮に10年間止まっていたとすれば、70年の寿命ということになる。つまり、「発電用原子炉を運転出来る期間は40年とする。ただし、原子力規制委委員会の認可を受けて1回に限り、20年を超えない範囲で延長できる」(最長で60年)、というのが福島事故後2012年に導入された規制条件であった。怖いのは、原子炉容器の中性子照射脆化なのだ。こういう議論が「原子力小委」では、何もなかった。そして、「安全確保を大前提に」と合唱する。
ウクライナ戦争と気候危機
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナの原発が攻撃され、また、占拠されて、原発が新たな核兵器の様相をしめしている。原発はプルトニウムを創り出すが、原発内部には使用済み核燃料が蓄えられているので、それらが環境に放出されるなら、チェルノブイリ、フクシマの二の舞になるおそれがある。平和の時代に始まった原発が想定外の状況の中に置かれているわけである。日本海岸にずらっと並んでいる原発がミサイルで攻撃されたら、防ぐ手立てはない。
最近の岸田政権は、敵基地攻撃能力を保持しようとしており、防衛予算の拡大を狙っている。実に危うい。気候危機に対応するために、石炭、石油、天然ガスに比べると、発電時の二酸化炭素が少ない原発を推進しようと言うのだが、原発はグリーンではない。当節もてはやされているSDGsには、住みつづけられるまちづくりを、海と陸の豊かさを守ろう、平和と公正を・健康と福祉をすべての人に、などが挙げられている。原発とは相容れない。
再稼働
福島事故後廃炉が24基、長期停止中が23基、最稼働したのは10基だけだ。また、新基準に適合と判断されたのは7基で、女川2(東北電力)、東海第二(日本原電)、柏崎刈羽7,6(東京電力)、高浜1、2(関西電力)、島根2(中国電力)である。
ただし、新基準の中には、避難問題が入っていない。立地自治体に任されている。福島事故のさいの避難の困難さを考えると、被ばくさせずに住民が避難する計画を自治体が作るのは至難である。
首都圏にある東海第二原発の場合、水戸地裁は住民の訴えを認め、再稼働を認めなかった(21年3月)。福島事故を引き起こした張本の東京電力は新潟県に柏崎刈羽原発全7基を抱えている。そのうちの6、7号機が新基準に合格したが、2021年に発覚した核物質防護規程違反によって実質的に凍結している。
米山前知事がつくった福島事故に関する3つの検証委員会と検証総括委員会は花角現知事に引き継がれたが、「国が全面にたって」再稼働を促進する岸田政権のもとで、県民との間に大きな齟齬が生じている。去年11月、県内4箇所で「3つの検証 説明・意見交換会」が開かれた。結果は惨憺たるもので県の役人が一方的に検証報告書を説明し、会場に集まった県民には1人、1分、1つの質問のみというありさまだった。
特に「避難委員会報告書」の概要では、456の課題のごく僅かを示しただけだった。県民の間からは強い反発が起こったが、時間切れで、一方的な説明会で終わった。意見交換会ではなかった。政権の明白な圧力を感ずる。鳴り物入りで発足した検証総括委員会(池内了委員長)は4年間で2回しか開かれず、県民の大きな期待が実現しないでいる。
こう見てくるとき、わたしたち市民一人ひとりの判断と選択が問われていると思わないわけにはゆかない。核兵器としての「核」とも、民生利用としての「核」とも、ともに決別するときが来たのである。
(山口幸夫)