国の取り組み強化に対する市民社会の準備を-「どうする?原発のごみ全国交流集会」開催に向けて-

『原子力資料情報室通信』第587号(2023/5/1)より

 岸田政権による「GX実現に向けた基本方針」の推進に伴い、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関しても、政府が取り組みを強化している。その一環として打ち出された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」の改訂案が、間もなく閣議決定される見込みだ。その問題点については、3月2日に放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)委員として出席した筆者が、すでに前号で指摘した。
 今回は、そこでは触れることができなかった「複数地域での文献調査の実施に向けた当面の取組方針」に基づいた活動例を紹介する。また、そこにある最終処分政策強化を目指す国の思惑を指摘する。そして、それに対抗するためには、脱原発団体や一般市民が一堂に会して、問題意識を共有し、ネットワークの強化や共同戦略について話し合う場が必要だ。そのためのイベントも最後に紹介したい。
 2019年11月に、経済産業省は、文献調査実施のための取組方針を策定した。これは現役世代や若年層の最終処分事業の意義に対する理解促進や、文献調査を実施する地域の発展ビジョンの具体化を推進強化するために作られた。WGでは2つの例が具体的に紹介された。一つは北海道寿都町の高校生と福島県浜通りの高校生10名ずつが参加した交流プロジェクトだ。これは福島県にあるNPO法人のハッピーロードネットが企画した「未来につなぐまちづくり塾」というプロジェクトで、経産省やNUMO、原子力事業者も協力している。事業目的は、SDGs(持続可能な開発目標)に示された「住み続けられるまちづくりを」に取り組む具体的な課題として最終処分事業を位置づけ、次世代のリーダーを育成するこ
とだ。お互いの地域を訪問し、議論をしながら、報告会で取りまとめを発表した
※この発表報告会はここから視聴できる。

 

 その発表会では、高レベル放射性廃棄物事業を「他人事にしない」「特別視しない」「先送りしない」という意識で議論することが必要と報告された。受け入れ地域の町づくりについては、文献調査による知名度向上及び町づくりの機会を活かし、雇用の創出・人口増加・移住定住の加速・地域の活性化というよいサイクルを実現することが重要と指摘された。主
催者や協力した原発事業者がバランスの取れた情報提供をしていたのか、疑問に思わざるを得ないほど、原発推進側にとって都合のよい発表内容が多かった。参加した高校生を責めるつもりはない。問題なのはこの事業を成果として誇っている経産省だろう。
 2つ目の例は、2月10日に経産省が主催したシンポジウム「わたしたちの子どものための街づくり~地層処分問題と共創する未来~」だ。ここでも若者をパネリストとして招待し、最終処分場を受け入れたらどういう町づくりをしたいのかについてディスカッションをした。

※このシンポジウムはここからで視聴できる。

 

 議論の中には「青森県六ヶ所村に行って、村民から話を聞いたが、自分たちの手で生きていく町を作るという信念と主体的な姿に感銘を受けた」「人口減少の中で人口を増やしていく、町に活気を作っていくことが重要だ。それにはお金がかかるので、片岡町長の考えもよくわかるし、英断だと思う」といったような意見が出た。こちらも原発推進側に耳触りの良い意見が多かった。
 また分科会では、福島県会津地方で町づくりに関わる住民が登壇し、最終処分を受け入れる地域のビジョンをどう転換すればよいか発表した。そこでは、人口が増えて、雇用があって、産業がたくさんという地域振興のイメージから転換し、人・場所・知恵を結びつけて地域ブランドを高め、ウェル・ビーイングを実現することが重要だと指摘された。発表内容自体には同意できる部分はあったが、懸念せざるを得ない発言もあった。「若者がたくさん福島県浜通りに来ている。どうせやるならここでチャレンジした方がいいという思いがある。最終処分地域があったなら、その地域のために貢献したいことを考えたい。処分場を受け入れることをリスペクトするし、かっこいいと考える若者がいる。受け入れれば、結果としてチャンスが増える」といった趣旨の内容だったからだ。

※このシンポジウムはここから視聴できる。


 
 このような活動例から、経産省の思惑が垣間見られる。それは文献調査の交付金による町づくりをSDGsや地域ブランド向上などで彩りながら、最終処分を受け入れることが責任のある行動であり、受け入れた地域の町づくりを若者たちが応援するのがチャレンジングな行いであるというイメージ作りだ。そしてそのような若者主体の町づくりの実践例が、福島事故からの再生・復興の中から生まれているという印象操作だ。今年中に2019年制定の取組方針を改定することで、処分場政策推進強化を図る予定だ。

 ここで我々に求められるのは、原発推進側が広める、最終処分場受け入れによる美しい町づくりのイメージを打破し、調査実施の拡大と加速化を防ぐための市民社会側の戦略と行動だ。当室と原水禁、北海道平和運動フォーラムが呼びかけ団体となり、5月27-28日に北海道札幌市で「どうする?原発のごみ全国交流集会」を企画した。27日開催の分散会と28日開催のパネルディスカッションの内容を紹介したい。分散会①では寿都と神恵内への連帯のあり方について話し合う。神恵内村議とは交渉中だが、寿都住民の報告が行われる。さらに東北大学の明日香壽川教授に未来世代法の理念を活かした持続可能な社会づくりについて、福島大学の藤原遥准教授に原発交付金に頼らない地域づくりについて発表していただく。

 分散会②では、他地域での文献調査の応募をどう阻止できるか議論する。政府は今後、電源立地交付金をちらつかせながら、地域の有力者を取り込んで、応募への圧力をかけてくるだろう。それをどう跳ね返すのか、北海道、岩手、岡山など核ごみ問題と関わりのある地域住民からの報告を聞き、運動戦略を練る。分散会③では最終処分政策の在り方を根本的に批判しながら、抜本的見直しに向けた提言を行う。最終処分法の専門家である弁護士の山本行雄さん、政府の最終処分政策推進を批判してきた東京電機大学の寿楽浩太教授、ドイツの高レベル放射性廃棄物に関する公論形成に詳しい専修大学の岡村りら教授に発表をしていただく。分散会④では、当室の伴英幸共同代表が、核ごみ問題初心者向けにスライド解説とトークを行う。

 「我々の世代の責任とは 処分地選定加速化に抗して」と題したパネルディスカッションでは、政府が提唱する現世代の責任論の虚妄を指摘しつつ、これ以上原発のゴミを生み出さない責任と、それを果たすための公正な脱原発社会の構築の必要性について論ずる。パネリストは北海道出身で、福島原発事故被災者への丹念な取材をし続けるジャーナリストの青木美希さん、世代間倫理や環境倫理に詳しい中央大学の寺本剛教授、高レベル放射性廃棄物に関する日本学術会議の提言にも関わった東北大学の長谷川公一名誉教授、それに岡村りら教授が参加する。参加方法などは以下をご確認ください。

 

参加費:1,000 円(当日支払い)

■参加方法:氏名、連絡先、参加希望分散会番号を原水禁にお知らせください。当日参加も可能ですが、資料準備の都合上、極力、事前の申し込みをお願いします。(締め切り:5月22日)

<原水禁>

FAX 03-5289-8223

メール office@peace-forum.top

■集会賛同: 団体一口 3,000 円、個人一口 1,000 円(複数口のご賛同を歓迎します)

※ご送金先:郵便振替口座 00100-8-663541

 「フォーラム平和・人権・環境」。

 通信欄へ「原発のごみ全国交流会」とご記入ください。

※賛同いただいた団体・個人名は、当日の資料に掲載させていただきます。 匿名希望の方は、その旨を振替用紙及び申し込み用紙にお書きください。

 交流集会は北海道自治労会館、かでる2・7及び共済ホールで開催します。詳細は北海道平和運動フォーラムHPでご確認ください。

peace-forum.org/13398.html

 

(高野 聡)

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