連続ウェビナー報告「GX基本方針を徹底検証する」 第2回「文献調査が進む北海道寿都町から見る核ごみ政策の問題点」

『原子力資料情報室通信』第587号(2023/5/1)より

当室は連続ウェビナー「GX基本方針を徹底検証する」の第2回「文献調査が進む北海道寿都町から見る核ごみ政策の問題点」を3月18日に開催した。北海道寿都町で進行している高レベル放射性廃棄物最終処分のための文献調査に対する反対運動を続ける住民組織「子どもたちに核のゴミのない寿都を!町民の会(以下、町民の会)」)共同代表の南波久さん
をお招きし、講演をして頂いた。また町民の会メンバーである大串伸吾さんにもコメントして頂いた。
 寿都の魅力と愛着から南波さんの講演はスタートした。南波さんは寿都生まれで18歳まで寿都に暮らした後、東京へ移住した。その後、水産加工業者の父の死をきっかけに55歳で寿都に戻り、仕事を引き継いだ。特産品はホッケ、サクラマス、ウニ、イクラなど種類が豊富な魚介類だ。最近も、ニシンが春に産卵をしに海岸に大量に押し寄せる「群来」を見た時、海の美しさに心を打たれたという。この美しい寿都の海を守りたい、豊かな寿都湾の漁場を後世にも残したいという思いで、核ごみ反対運動を現在まで継続している。
 実際、寿都での文献調査反対運動の始まりは、水産加工協同組合の青年部だった。2020年8月13日に寿都町の住民は、片岡町長が文献調査応募の意思があることを、地元メディアの報道で突然知った。1週間後、組合の青年部は反対組織を作り、署名活動を開始し、約700筆を集めた。翌月には、町民全体が加われるよう組織を改編し、名前も現在のものに変えた。
 南波さんは、文献調査に反対する理由は3つあると述べた。第一に、片岡町長の独断と民意無視だ。それは、片岡町長の「肌感覚で住民の半分以上が賛成だ」という表現に象徴されている。信頼、透明性、住民の意思確認があって初めて応募できるが、それがまったくなかった。第二は、地層処分の安全性の不確かさだ。町民の会は、講演会を企画するなど独自に地層処分について勉強してきた。その過程で、フィンランドやスウェーデンとは地盤が全く違い、地震大国でもある日本で地層処分が本当にできるのか、数十万年先の安全が確保できるか、懐疑的になった。
 第三に、高レベル放射性廃棄物に関する最終処分法の規定だ。法律では、自治体の首長の意見を聞き、尊重すると規定しているが、これは意見を述べる機会を保障しているだけで、最終的な判断は国だ。つまり地元自治体に拒否権はない。一方、国はいったん調査を開始したら、次の段階へ進まなければならないという規定になっている。国に非常に都合がいい法律となっている点を指摘した
 次に、大串さんが寿都で起きた分断の状況について説明した。文献調査に関する意見対立を避けるため、住民の会話が減り、賛成・反対双方のお店に互いに行かなくなった。寿都高校でも、「内申に響く」という理由で、生徒が文献調査に対する考えをメディアに語ることに対して、自粛要請があった。そして今でも町長や副町長は、町民の会メンバーと会っても、目を合わさず無視するという。
 核のゴミを押しつけられ、分断まで起こってしまった寿都町の現状に、日本社会全体がもっと関心を持たなければならない。そして分断を克服する努力をしながら、文献調査に地道に反対を続ける町民の会の活動に、共感の輪を広げる必要がある。町民の会と連帯し、どれだけ大きな核ごみ反対のうねりを作れるのか、市民社会の力量が問われている。

(高野 聡)

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