【原子力資料情報室声明】原子力利用は安全保障上の脅威 ―ザポリージャ原発攻撃から1年

原子力利用は安全保障上の脅威 ―ザポリージャ原発攻撃から1年

2023年3月4日

NPO法人原子力資料情報室

 2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻開始から、すでに1年が経過した。今もきわめて深刻な人道的危機が続いている。ロシアは直ちにウクライナから撤退するべきだ。

 この戦争では史上初めて、稼働中の民生用原発が攻撃対象になった。1年前の今日、ロシア軍は欧州最大規模を有するザポリージャ原発(VVER-1000、6基)を攻撃したのだ。それから現在に至るまで同原発はロシア軍の占領下におかれている。幸い、深刻な事故は発生していないものの、その後も繰り返し原発が攻撃され、送電網が切断されるなど、危機的な状況が続いている。最近もザポリージャ原発の冷却池に水を供給している貯水池の水位が低下して問題になっている。水位が低下すると冷却池に水が補給されなくなるからだ。占拠前1万人程度いた職員は、2023年1月現在3,000人程度に激減している。またロシア側は原発の軍事基地化を進めている。

 6基ある原子炉は4基(1~4号機)が冷温停止、2基(5・6号機)が高温停止()となっているという。ウクライナの原子力規制当局は2月、ロシア軍の占領が終わり安全が確保されるまで、ザポリージャ原発の運転を許可しないと発表した。

 ロシアも批准する戦時国際法のジュネーブ条約は一部の例外を除き原発への攻撃を禁じている。だが、今回ロシアは原発を攻撃した。2022年11月末に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が発表した報告書は、ロシア側は開戦前から原発占拠を目指していたと分析している。IAEAは原発周辺地域を「安全地帯」を設けるよう求めて、ウクライナ・ロシア双方と協議を重ねているが、交渉は難航しているという。仮に交渉が妥結したとして、安全地帯を誰が維持するのかという課題もある。

学ぶべき教訓

 これまで原発への攻撃で想定されてきたのはもっぱらテロリストなどの非国家主体によるものだった。だが、現実には原発や原子力施設の攻撃はその多くは国家によるものだった()。今後もあるとみるべきだ。 

 原発への攻撃は多大な危険を伴う。最悪の場合、放射性物質が大量に環境に放出される。また戦闘中や占領下での事故対処作業は困難を極める。戦争の長期化も問題だ。燃料や修理に必要なパーツ供給が難しくなる。原発につながる送電網が戦闘などで切断されれば、原子炉の冷却も難しくなる。占拠長期化による原発職員へのストレスも大きなリスクだ。

 日本政府は原発を厳重に警備するという。だが、原発防衛は単に占拠させないだけではなく、原発を安全に防衛する必要がある。また、住民の避難も必要だ。そのようなことは本当に可能なのか。また攻撃によって原子力損害が発生した場合、だれが保障するのかも問題だ。戦争時、事業者の責任は免責される。一方、国は必要な措置をとるとしか示していない。つまり誰も損害を賠償してくれないということを意味している。

 電力供給も問題だ。ザポリージャ原発は攻撃を受けた際も発電を継続、占領下にあってもかなりの期間、発電を続けた。原発を止めることによる停電が懸念されたからだ。日本も複数の原子炉を抱えた原発は複数ある。こうした原発が攻撃されたり占領されたりした場合、電力供給はどうなるのだろうか。

 原発だけではない。日本は使用済み燃料からプルトニウムを分離する再処理工場を青森県六ヶ所村に建設中だ。すでに同工場には大量の使用済み燃料や高レベルの放射性廃液などが溜まっている。ジュネーブ条約は再処理工場などの原子力関連施設への攻撃は禁じていないが、危険性は原発を上回る。プルトニウムは核兵器に転用できるため、敵国が核開発疑惑を持ち出し、攻撃の対象にする可能性は十分ある。また他国やテロリストなどに占拠された場合、分離したプルトニウムを盗取されかねない。世界的核拡散に繋がりうる。

 岸田政権は脱炭素という名目で原発利用を押し進めようとしている。だが、安全性が最優先という原子力利用と、安全保障は両立し得ない。脱原発が、原子力利用における安全保障上の懸念を取り除くことができる最善の方法だ。

以上

※高温停止とは、原子炉は未臨界状態だが、崩壊熱によって冷却材の温度が沸点以上に保たれている状態のこと。

主な原発・原子力施設への攻撃

対象手法攻撃者
1980イラク・オシラク炉爆撃イスラエル
1981イラク・オシラク炉爆撃イスラエル
1984-87イラン・ブーシェフル原発爆撃イラク
1991/1993イラク・ツワイサ核施設爆撃など
2007シリア・アルキバール炉爆撃イスラエル
2008~10イラン・ナタンズ核施設サイバー攻撃米・イスラエル?
2014イスラエル・ディモナ原子炉ミサイルハマス(非国家主体)
2020イラン・ナタンズ核施設爆破イスラエル?
2021イラン・ナタンズ核施設爆破イスラエル?
2022ウクライナ・原発など攻撃・占拠ロシア

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