【原子力資料情報室声明】福島の教訓を投げ捨てた国会 GX電源法可決抗議声明

福島の教訓を投げ捨てた国会 GX電源法可決抗議声明

2023年5月31日
NPO法人原子力資料情報室

 2023年5月31日、参議院本会議で自民・公明・維新・国民などの賛成多数により「原発の運転期間延長や原発利用を推進するための法律を含む束ね法案」(GX電源法)が可決、成立した。この間、当室をふくむ多くの市民が繰り返し、この原子力基本法、電気事業法、原子炉等規制法など5つの法律を束ねたGX電源法の問題点を指摘してきた。しかし、そのような声は一顧だにされることなく、スケジュールありきのきわめて乱暴な審議が進められてきた。国策民営と呼ばれ、国、原子力産業界、学界がいずれも安全神話に陥った結果だった東電福島第一原発事故からわずか12年。いまだに原子力緊急事態宣言が発令中、避難指示も解除されず数万人に上る避難者が存在する中でのGX電源法、すなわち原発全面回帰政策である。この国の反省が、これほどまでに浅いものだったということを目の当たりにし、愕然とする。

福島の被災者を無視して顧みない

 何より問題なのは、たとえば原子力基本法において、「安全神話に陥り…東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を防止することができなかつたことを真摯に反省」すると言いながら、福島の被災者の声を一度たりとも聞くことがなかったことである。これは原子力委員会の「原子力利用に関する基本的考え方」の策定過程での有識者ヒアリングでもそうだったし、経済産業省の審議会である原子力小委員会での議論でもそうだった。「GX実現に向けた基本方針」策定後に全国10か所で開催した「全国説明・意見交換会」も福島では開催されず、国会の審議過程では、参考人や国会議員も福島での地方公聴会の開催を求めたが、これも行われなかった。反省すると言っておけばよいと言わんばかりである。

投げ捨てた福島の教訓

 さらに問題なのは、福島の教訓をうけて安全規制として導入したはずの運転期間規制を、利用政策で設けた制限であるとして、すなわち過去を偽って、原子力規制委員会の所管から経済産業省に移管したということだ。それも、こともあろうに「ダブルの規制」だと称してのことである。運転期間規制が安全規制として導入されたことは2012年当時の政府答弁などを見れば明らかなことである。もし利用政策であると判断を変えたのであれば、その理由を説明するべきだ。しかし、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、導入の経緯が利用政策であると繰り返し強弁している。

 今回の法改正では長期停止期間を運転期間から除外し、例えば10年間停止していた場合、60年に加えて10年の運転を認可する。その認可にあたっては、脱炭素や電力安定供給に必要か否かを考慮して経済産業省が延長を認めることになる。つまり、延長を認可した原発は脱炭素や電力安定供給に必須だということだ。

 どのようなものでもそうだが、劣化した施設が、いつ、どのように壊れるかを断言することは難しい。しかし、運転期間が長期化すればするほど、施設は劣化していく。安全と危険の明確な境界がない中で、これ以上の運転は危険だと人間が判断する。原子力規制委員会は原子力の安全性のみを所管している。だが電力安定供給や脱炭素といったことに無責任でいられるわけもない。この原発の運転が電力安定供給や脱炭素に必要だという圧力がある中で、それでも、明確な境界線がない安全性を最優先に判断できるのか。過去の直視すらできない人間に、そのような厳しい判断ができるのだろうか。今回の法改正は「ダブルの規制」ではない。単に、分離されたはずの推進と規制を元に戻し、規制側に圧力を加える材料を増やしたに過ぎない。このような法改正をダブルの規制と称するのは、あまりに恥ずかしいことである。

電力安定供給にも低廉な電力供給にも資さない原子力

 政府や原子力事業者は原子力によって電力安定供給や電気料金引き下げ効果があると称する。しかし本当にそうだろうか。むしろ、原発が、その内包する巨大な危険と、それを軽視した結果生じた問題によって、電力の安定供給が危機に瀕することが繰り返されてきたのではなかったろうか。2002年に発覚した東京電力の原発でのトラブル隠ぺいでは、同社の原発がすべて停止、夏の電力危機に至った。2011年の東日本大震災や東京電力福島第一原発事故では、最終的にはすべての原発が停止した。2020年冬季の卸電力市場の高騰では、関西電力の複数の原発定期点検の長期化が大きく影響を与えた。

 原発再稼働により、あたかも巨大な電力価格引き下げ効果があるよう言われる。しかし、原発再稼働を見込む事業者の電気料金値上申請によれば、値下げ効果は0.47~0.77円/kWh、モデル世帯の消費量では月額122~201円に過ぎない。

原発再稼働による 値下げ効果総原価 (送配電除く総原価 (原発再稼働しなかった場合)販売電力量原発再稼働時の単価原発再稼働しなかった場合の単価
東電-900億円45,934億円46,834億円1,902億kWh24.15円/kWh24.62円/kWh
東北電-327億円15,680億円16,007億円687億kWh22.82円/kWh23.29円/kWh
中国電-360億円10,620億円10,980億円468億kWh22.69円/kWh23.46円/kWh
モデル世帯の電力消費量(月260kWh)を用いた申請上の月額料金モデル世帯の電力消費量(月260kWh)を用いた原発によるコスト削減を除いた月額料金月額料金差額 単価差額
東電6,279円6,401円122円0.47円/kWh
東北電5,933円6,055円122円0.47円/kWh
中国電5,899円6,100円201円0.77円/kWh

 むしろ問題は動かない原発の維持費だ。2011年から動いていない原発も複数存在し、東電柏崎刈羽原発の場合、2・3号機で2007年、4号機で2008年から停止を続けている。これらは今後も当面、再稼働稼働は見込めない。一方で、維持費や改修費は電気料金に加算されて消費者は費用負担を強いられている。2011~2021年度の電力各社の有価証券報告書によれば、各年度で保有する原発が1kWhも発電しなかった電力会社の原発維持費は12.62兆円に上る。国民一人当たり約10万円である。このような負担が続いていること自体が異常である。むしろ、原発を廃止して早急にコスト削減をはかるべきではないか。

CO2削減にも貢献しない原子力

 原発は脱炭素電源だとされる。確かに原発のCO2排出量は火力発電に比べて少ないことは事実である。しかし、だからと言って原発を選択すべきかどうかは別の問題である。原発は運転によって超長期に渡って環境からの隔離が必要となる高レベル放射性廃棄物を生み出し、運転や廃炉に伴ってその他の放射性廃棄物を環境に放出するからである。さらに、今後世界の気候危機が激化する中、気候危機によって原発の安定運転に支障が出る可能性も指摘されている。現実にフランスなどの内陸部原発では、河川水の高温化や減少により、原発の出力調整が余儀なくされている。

 GX基本方針は2030年代前半に原発の建て替えに着手するという。近年の原発建設期間は長期化傾向にあり、さらに事故後最初の新設原発であることを考えれば、数年程度で運転開始できるとは到底見込めない。G7で「2035年までに電力部門の完全または大部分の脱炭素化」に合意したものの、特に新設原発はまったく期待できない。加えて再稼働原発についても、現在停止中の原発が再稼働できるかは極めて不明確だ。にもかかわらず、原発がいずれは再稼働するという前提があることで、再エネへの投資が抑制される恐れすらある。

原発は安全でもなく、電力安定供給にも、電力価格引き下げにもCO2削減にも貢献しない。このような電源に、福島の教訓を踏まえたと称して再び回帰しようとすることは、あまりに非道徳的であり、この法改正の撤回を改めて強く求める。

以上

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