精米と炊飯調理によるコメのセシウム濃度変化
原子力資料情報室は東京電力福島第一原発事故後、環境放射能測定を継続している。2012年4月に設定された食品中の放射性セシウム基準値(1キログラムあたり一般食品で100ベクレル、牛乳・乳児用食品で50ベクレル、飲料水で10ベクレル)を超えるものは、現在では、野生の肉や山菜・キノコ、一部の魚に限られるようになった。しかし、基準値以下でも被ばくには健康リスクがあり、日々の食事に含まれる放射性物質への関心は高い。
ここでは、千葉県産のコメを用いた精米歩合と炊飯調理におけるセシウム濃度変化の調査結果を報告する。玄米のセシウムは糠に多く含まれており、精米して白米にする過程である程度除去されることは知られている。本調査では水洗浄(研ぎ)と炊飯過程を含めて検討した。
方法
玄米のセシウム濃度を測定した後、測定済試料を家庭用精米機(ツインバード、MR-D572W)の白米モードで精米した。1度に処理した量は4合で、精米工程を4回繰り返した。この工程で玄米の重量の88%が白米として、12%が糠として分けられ、それぞれのセシウム濃度を測定した。一般に、普段の食事で食べる白米は玄米重量の90~92%になる
まで糠を削り取ったものとされているそうで、今回用いた精米機の白米モードはやや削りすぎといえる。
そこで、別の玄米試料を用いて精米機の運転時間を調整しながら、分づき米(三分づき、五分づき、七分づき、白米)をつくり、精米によるセシウム濃度変化も調査した。精米歩合はそれぞれ97%、96%、94%、91%である。
水洗浄(研ぎ)でのセシウム除去効果を調べるため、得られた白米(精米歩合88%)を800 gずつ取り分け、片方は無洗浄で炊飯し、もう片方はよく水洗浄して炊飯した。具体的な水洗浄工程は、水中でコメをこすり合わせ、白濁した水を捨てる作業を、とぎ汁がほとんど透明になるまで9回繰り返した。米の研ぎ方は人それぞれだが、わたしにとっては通常よりかなり丁寧に繰り返し研いだという印象だ。
水加減は炊飯器(タイガー、JKZ-CH)の標準の白米のメモリに合わせ、1時間吸水させた後、白米モードで炊飯した。水の割合はコメの重量の約1.4倍だった。炊きあがったそれぞれのごはん(炊飯米)の出来上がり重量を測定した後、セシウム濃度を測定した。
放射能測定は、新宿代々木市民測定所の協力を得てゲルマニウム半導体検出器(BSI社製GCD-70200)を用いておこなった。
結果
精米と炊飯調理におけるコメのセシウム137濃度変化を図表1に示す。セシウム137濃度は、玄米が0.53、白米が0.22、米糠が2.56、無洗浄の炊飯米が0.072、洗浄炊飯米は0.052だった(単位はすべてベクレル/kg)。
図表1 調理によるコメのセシウム濃度変化
■精米工程におけるセシウム濃度変化
玄米を白米にすると、セシウム濃度は0.53から0.22になり、約4割に減少した。食品成分表における白米のカリウム濃度は玄米の約4 割であり(玄米230mg、白米89mg /100gあたり)本調査のセシウム濃度変化と同等だった。セシウムとカリウムは同じアルカリ金属で化学的性質が似ている。そのため、植物は土壌中のカリウムと同様にセシウムを吸収してしまうことが知られており、吸収を抑制するために土壌にカリ肥料をまくことが推奨されている。
別試料で実施した分づき米のセシウム濃度は、玄米が0.40、三分づき米が0.31、五分づき米が0.27、七分づき米が 0.23、白米が 0.16となった(図表2)。
図表2 精米によるコメのセシウム濃度変化
■水洗浄によるセシウム除去効果
炊飯前の白米800 gに含まれていたセシウムの総量は0.18ベクレル(0.22 Bq/kg×0.80 kg)、炊飯米(水洗浄)に含まれたセシウムの総量は0.094 ベクレル(0.052 Bq/kg×1.8 kg)だったことから、洗浄過程で約半量のセシウムが除去された計算となる。
全体を通してみると、セシウム濃度は玄米から炊飯米への調理加工において、0.53から0.052へと約1/10に減少した。
日本のコメのセシウム濃度推移
日本におけるコメのセシウム137濃度の長期推移を検討するために、環境放射線データベースを使用して主要生産地である新潟県、北海道、秋田県と、福島県産の白米の濃度をグラフ化した(図表3)。最も古いデータは1965年のもので、大気圏核実験による影響で1kgあたり1ベクレル程度の汚染がみられた。それが年々減少していき2010年には0.1ベクレル以下となっていたが、福島原発事故後に上昇した。現在でも丁寧な放射線測定をおこなえば広い産地のコメから放射性セシウムが検出されると考えられる。なお、データベースには測定品目が玄米か白米かが明記されていないものが多く、そういったものはグラフに記載していない。
図表3 日本の白米のセシウム濃度長期推移
2011年に福島県産の玄米からは、当時の暫定基準値である1kgあたり500ベクレルを超える放射性セシウムが多数検出され、当該地域では作付け制限がおこなわれた。厚生労働省のウェブサイトには2011年度の福島県産白米のデータは1件のみ存在し、セシウム合計300ベクレルだった。これは何故かデータベースに掲載されていなかった。
主食であるコメは摂取量が多いため、汚染されると内部被ばくへの寄与が大きくなる。玄米を精米・調理加工するとセシウムを一定程度除去できることは覚えておきたい。
(谷村 暢子)