都内の住宅街に大量のトリウム-232があった

都内の住宅街に大量のトリウム-232があった

古川路明

住宅地に大量の放射能が保管されているという信じられないことが新聞でも報道された(2008年10月26日付毎日新聞、10月27日付信濃毎日新聞および11月27日付読売新聞など)。ここでは、新聞報道のもとになっている文部科学省の発表に基づいて、事件の概要を述べる。

1.10月25日の文部科学省の発表

同省の発表の概要は次の通りである。
10月23日、放射線を放出するベークライト(注:合成樹脂の1種)の所有者が2個のサンプルを持参して同省を訪れ、取扱いについて相談した。この樹脂は3×3×0.5cmの板状で、表面の放射線量は毎時2.8および4.0マイクロシーベルトであった(注:ふつうの場所の線量は毎時0.05?0.1マイクロシーベルトなのでその30?80倍である)。
保管場所は東京都文京区の住宅地の倉庫(40m2)で、隣家では6ヵ月で最大19ミリシーベルト(注:ふつうの人の年間線量は0.5-1.0ミリシーベルトなのでその20-40倍)の外部被曝を受けたと推定されている。また、この樹脂は、直ちに長野県飯綱町の山中の倉庫に移されて保管されている。ただ、どのような放射能であるかは明らかになっていなかった。

2.11月14日の文部科学省の発表

同省は、樹脂の分析結果と同省の対応について報告した。それによると、「放射能はトリウム-232で、樹脂1gあたりの放射能強度は(690±4)ベクレル、樹脂1gあたりの重量は170±1mg。樹脂1個の重量は15gで、トリウム-232は380kg」である。この濃度は原子炉等規制法の基準を超えるので、法令に基づく適切な対応をした。

3.私の感想と考察

1)トリウム-232という放射能
代表的な天然放射能で、その半減期は141億年で「地球の年齢」の約3倍である。アルファ線、ベータ線を放出して崩壊を繰り返して、最後は鉛-208になる。しかし、今度のような外部被曝が問題になる時はガンマ線放出が重要である。モナザイトのようなトリウムを含む鉱物でも精製したトリウム化合物でもガンマ線の放出については大差なく、住宅地に置ける物ではない。なお、放射能の量と上にある隣家における放射線量の関係はほぼ妥当である。

2)この樹脂についての問題点
放射能を含む問題の多い物質があるのは、「家庭にラドン温泉を」のような宣伝文句に乗って、科学的根拠がない無責任な商品が横行しているからであろう。このような物が無意味なことは、原子力資料情報室が発行したパンフレット『ほんとにだいじょうぶ?身近な放射線』の5-6ページに書いてある。人をだます商品がまだ残っていることを残念に思う。

3)この樹脂の製造についての問題点
問題の樹脂の中には、17%のトリウムが含まれている。そうであると、トリウムの化合物(おそらく酸化トリウム)が入っていることになる。樹脂の総重量を2.2tとすると、約380kgのトリウムが使われたことであって、「核原料物質」であるトリウムの入手とその取扱いは法律によって厳しく規制されているはずであるが、そのことについての情報は一切明らかになっていない。これは大きな問題である。

4)放射線測定器の活用
さまざまな種類の測定器があるが、今度のような場合は手軽なガンマ線測定器が役立つ。購入しなくてもどこかで借りることもできる。また、数万円で信頼できる個人用測定器も入手できる。あまり神経質になることはないが、このようなことを考えておくのもよいかも知れない。

最後に、トリウム-232とラジウム-228についての情報を【参考】のために載せておく。お役に立てば幸いである。

 


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