特定放射性廃棄物小委員会奮闘記⑥ 中身のない省令改正と対馬市長の調査受け入れ拒否への反省がまるでない第1回小委

『原子力資料情報室通信』第593号(2023/11/1)より

 特定放射性廃棄物小委員会(小委)の初会合が10月13日に開催された。今まで40回開催された放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)を原子力小委員会傘下のWGから格上げし、別個の新たな小委員会として再出発した。委員は筆者を含むWG委員に加えて、組織改編にあたり、上智大学教授で環境法専門の織朱實氏と大阪大学教授で科学技術社会論が専門の八木絵香氏が新たに就任した。
 議題はまず「文献調査段階の評価の考え方(案)」に関する審議だ。経済産業省は、パブリックコメント(パブコメ)の意見を例示しながら、それらを反映させた変更点を参考資料として示した。次に文献調査報告書の縦覧・説明会開催の期間に関する省令改正についてだ。特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律の施行規則では、NUMO(原子力発電環境整備機構)が文献調査報告書の公告を行った後に、報告書の縦覧と説明会の開催を規定しており、その期間は1ヶ月だ。経産省は、丁寧な説明が必要だとして、期間を1ヶ月以上に変更するための省令改正を提案した。それに対するコメントが委員に求められた。
 そのほか、対話の場の総括に関する方針案が示された。国とNUMOが主体で、実施地域の多様な声を集めて、透明性のある形で進めること。その後、中間的な取りまとめをして、第三者専門家から助言・アドバイスを得ること。それを小委に報告し、最終的な取りまとめをすることが説明された。なお第三者専門家は小委の推薦で選ばれた。さらに北海道寿都町と神恵内村で行われた対話の場でファシリテーターをつとめた竹田宜人氏と大浦宏照氏が、それぞれ20分ずつ対話の場の進行状況や教訓・課題などを説明した。また議題ではないものの、経産省から長崎県対馬市で文献調査応募の動きがあった経緯と比田勝尚喜市長が応募を拒否した理由についての説明があった。
 まず「文献調査段階の評価の考え方(案)」の審議について、複数の委員から注文が出た。パブコメの意見をいくつか紹介するだけでなく、すべての意見とそれに対する経産省の回答を示すこと。パブコメの意見を審議するために、別途、地層処分技術WGの開催を検討することなどだ。私も同意見だった。
 これに対して経産省は、パブコメの全意見とそれに対する回答を、今後委員に共有し、それに対する意見をメールで受け付けた後、高橋滋委員長と相談して、評価の考え方(案)を確定すると説明した。私は手続き上の正当性を高めるため、パブコメの意見の中の批判的な意見を十分検討するために、地層処分技術WGを開催すべきで、それなしに進めるのなら案には賛成できないと表明した。しかし経産省はそれを受け付けず、地層処分技術WGの委員からもメールで意見を受け付けると述べるにとどまった。文献調査報告書について、丁寧な説明をしたいと言っているにもかかわらず、肝心の審議自体が不十分では言行不一致も甚だしいと評価せざるを得ない。
 次に省令改正について、私はまず、報告書の電子縦覧、つまりネットでの公開を要求した。さらに施行規則では、説明会の目的を「報告書の記載事項を周知させるため」と規定しているが、省令改正をするならば、報告書の内容が妥当かどうかの検証をするためと目的を変えるべきだと主張した。そのために説明会の開催ごとに、文献調査や地層処分に批判的な専門家が発表できるような機会を保障すべきと提案した。さらに、地域の分断や核抜き条例制定を含めた近隣自治体の反発など文献調査実施により様々な問題が発生し、それに対し、懸念を抱いている北海道民もいると指摘した。したがって、報告書では経済社会的評価を土地利用に限定したが、それ以外の経済社会的観点を持って文献調査を評価したい道民の要望にも応えるべきだと要求した。
 経産省は、電子縦覧については、実施する方向で適切に対応することを表明した。説明会の目的については、今まで文献調査報告書の評価の考え方について、放射性廃棄物WGと地層処分技術WGでしっかり議論して、パブコメも反映して確定される。報告書はそれに基づいて作成されるので、その内容を説明することを目的にしたいと説明した。討論や熟議を活性化させるのではなく、概要調査に進むためのアリバイ作りとして説明会を進行しようとする経産省の態度は厳しく批判されるべきだ。
 また、対馬の動きについては、NUMOと経産省にそれぞれ提案を行った。まず対馬の住民団体が、NUMOの費用負担で対馬市議を視察旅行に連れて行ったのは市の政治倫理条例違反だと調査請求をした事実を指摘した。メディアによるとNUMOは法令違反には当たらないと認識しているが、このように陰でこそこそ住民懐柔を行うことが、健全な市民の合意形成を阻害し、住民不信を植え付けたことは明らかなので、法令違反か否かを問わず、今後、NUMOはこのような行為は行わないと約束すべきだと要求した。
 一方、経産省に対しては、まず事実経過と対馬市長の受け入れ拒否の理由程度の短い資料で済ませたことについて、大きな当惑と不満を表明した。受け入れを拒否された原因や問題点、落ち度に対する検証がなく、選定プロセス見直しへの意思もない資料には、まったく誠実さがない。対馬に混乱を持ち込んだことへの反省や謝罪の一言も述べることができないのか。経産省の見解を求めた。
 NUMOは、地層処分への理解醸成のために視察旅行は必要であり、法令違反にも該当しないとの従来の見解を繰り返した。しかしなぜNUMOが経費の大部分を負担する必要があるのかについての説明はなかった。対馬住民に不信を与えたのは確かであり、法令違反でないなら問題ないという考えでは、これからも市民の合意形成は阻害され、地域の分断は引き起こされるだろう。NUMOの無責任な態度は容認できない。
 経産省は、文献調査の議論をしてくれたことに対して、対馬市に国からの感謝を表明したいと述べ、これから対馬市の案件を分析し、どう改善していくか検討すると説明した。不十分な議論と拙速で不透明な進め方で地域社会を混乱させ、住民に不信を植え付けたことへの反省どころか、感謝をしたいという言葉に、政府の無責任さと傲慢さが表れている。これでは対馬住民の感情を逆なでにするだけだろう。また高橋委員長は「いろんな場で議論が起こるので、今回はとっかかりの意見を頂戴した」と述べた。政府の不誠実さを指摘するどころか、フォローするかのような発言に疑問を感じた。
 対話の場の総括に関しては、2点提案をした。住民への意見聴取について、透明性を確保するための方法として、聞き取りの際には、委員や第三者専門家を同行させるべきだと提案した。一方、第三者専門家の意見聴取について、基本的に賛成するが、意見聴取に関する議事録はすべて公開すべきだと要求した。また、委員が希望すれば、第三者専門家の意見聴取と同様のレベルで、意見聴取を実施することを要望した。この小委での数分の意見表明や質疑では不十分だからだ。
 これに対しNUMOは、スケジュールの問題もあり、実現可能性を含めて、聞き取り調査への委員の同行を検討したいと回答した。経産省は、委員からいろいろな意見が出たので、それを整理して、対話の場の総括に関する方針案を検討するというごく一般的な回答にとどまった。一方、高橋委員長は、私の提案に触れ、議論の深堀のために発言を希望する委員がいれば、別途、そのような場の設定の検討を経産省とNUMOに促した。対話の場については、住民からその不公正な運用に対する怒りの声を筆者は聞いている。総括を通じて、問題点を露わにすることで、不満を持つ住民の声に応えていきたい。


(高野聡)

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