東電柏崎刈羽原発の問題について
2007年7月19日(7月24日修正)
東電柏崎刈羽原発の問題について
古川路明
今回の地震にともなう東電柏崎刈羽原発に関する一連の事態は日本の原子力発電にとって非常に深刻なようにみえる。
あまりにも多くの問題があり、もっとも重要なのは活断層の問題であろうが、ここでは7号機の排気中の放射能の問題に限定して私の考えを述べてみたい。
1.東電の報告から
7月17日に東電が発表した報告の該当部分は以下の通りである。
「当所7号機(改良型沸騰水型)、定格出力135万6千キロワット」は、平成19年7月16日新潟県中越沖地震の影響により停止しておりますが、7月17日午後1時頃、週に一回実施している主排気筒の定期測定において、ヨウ素および粒子状放射性物質(クロム51、コバルト60)を検出いたしました。検出された総放射能量は、約3×108ベクレルであり、これによる線量は、約1.1×10-7ミリシーベルトで、法令に定める一般人の一年間の線量限度(1ミリシーベルト)に比べてきわめて低いものであり、周辺環境等への影響はありません。今後、他の主排気筒について測定を実施する予定です。なお、7号機主排気筒放射線モニタおよびモニタリングポストに有意な変化はありません。以上」
発表されている数値などには、曖昧な点が多い。
「検出された総放射能量は、約3×108ベクレルであり、これによる線量は、約1.1×10-7ミリシーベルトで、」と記されているが、これでは重要なことが伝わってこない。「放射能量」については核種ごとに値を示さねばならない。「線量」についてはどのような基準で出した値か、まったくわからない。
「法令に定める一般人の一年間の線量限度(1ミリシーベルト)に比べてきわめて低いものであり、」のような表現はよく用いられる。しかし、今回のような普通とは異なる事態では、法令などを引用しないで、もっと心のこもった言い方が望ましい。
2.東電の報告内容について思うこと
放射能に関心をもっている身としては、理解しにくい所が多いが、思いつくままに問題になりそうな点を挙げてみる。
1)放射性ヨウ素
核分裂生成物であり、揮発性があるので、放出される可能性はある。ただ、放出を抑える設備があるはずであり、それが機能していなかった恐れはある。
問題はどの核種がどの程度に存在するかである。検出できるのは、ヨウ素-131(半減期、8.04日)とヨウ素-133(同、20.8時間)である。二つがどのくらい存在するかを明示して初めて意味のある情報となる。
元素としてのヨウ素は、体内に取り込まれると、ほとんどすべてが甲状腺に集まる。放射性ヨウ素は、成人で20g(1歳の幼児では1g)の重さの甲状腺に入るので、被曝線量は高くなり、健康への影響はきわめて大きい。微量であってもその放出を避けるように努めねばならない。
2)コバルト-60(半減期、5.3年)
コバルトの中性子照射で生成し、核分裂生成物ではない。コバルトは揮発性のない元素であり、コバルト-60は核燃料中に生成するものではない。一次冷却水中に含まれたコバルトが中性子と反応してコバルト-60に変わり、配管の内部に付着した後に、定期点検などの時に剥げ落ちて、床の上などに付着したのではないか。
3)クロム-51(半減期、28日)
クロムの中性子照射で生成し、核分裂生成物ではない。クロム‐51についてもコバルト-60の場合と同じことがいえるが、半減期がより短いので、比較的最近に原子炉内で生成したものであることを示している。
3.コバルト-60とクロム‐51が排気中に出た経過
廃棄物貯蔵庫の中に保管されているドラム缶が転倒し、一部についてはふたが外れたと伝えられている。廃棄物はポリ袋に入っていて外には出ないといっているようであるが、ポリ袋は簡単に破れる。現在のところ、このような場所にある低レベル放射性廃棄物の一部が空中に舞い、そのごく一部が外に放出されたと考えている。床の表面が汚染されているはずであり、該当する場所について放射能ごとに区別して、汚染検査結果を公表することが望ましい。法令では要求されていない測定であろうが、そのようなこともするのが誠意ある対応である。
4.コバルト-60が排気中に出た過去の例
1970年代後半に、敦賀、福島第一、浜岡の各原発の周辺で採取された松葉からコバルト-60とマンガン-54(半減期、312日)が検出されて話題になった。
森江信氏によると、原発作業員の体内にある放射能の測定によってコバルト-60とマンガン-54が検出されている(『原子炉被曝日記』、技術と人間社、1979年刊、p.81)。私がオシロスコ-プ・ディスプレイのスペクトルから判断したところ、各々の核種はそれぞれ1,000ベクレル程度が存在しているようにみえた。初期に建設された沸騰水型軽水炉の周辺では日常的なことだったかもしれない。
問題の試料の測定にあたった一人である私としては、検出された放射能の中にマンガン-54が入っていないのが不思議である。鉄の中性子照射で生成する放射能で、必ずあるはずである。採取試料のガンマ線スペクトルの公開を求めたい。
5.おわりに
今回の地震が東電柏崎刈羽原発に与えた影響は非常に大きいようにみえる。これまでも原発周辺で大きな地震が起きてその影響が問題にされたこともあったが、今回はそれを上回るのではないか。
情報の公開が不十分であり、しかも小出しに出てくる現状なので、限られた情報から判断せざるを得ない。それでも情況の一端は垣間見ることができる。施設内の機器の破損はかなり大規模なのではないか。
燃料棒の破損を心配している向きもある。そのような事態になれば、一次冷却水中に多種類の放射能が入ってくると思う。燃料棒破損の可能性を判断するための情報として一次冷却水の放射能測定の結果を開示すべきである。
新潟県内で遠く離れた温泉などで宿泊のキャンセルが続き、長岡市寺泊町では海水浴に来る人が例年より少ないという。このような情況をもたらしている主な原因は、国、電力会社などの関係者、その意向を代弁しているようにみえる「専門家」および一部の報道機関のふるまいにある。「風評被害」を防ぐための誠実な努力を望みたい。
今後ともこの問題に関心をもっていたい。
リーフレット『地震大国に原発はごめんだ』 PDF
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