志賀原発の耐震性はまったく不十分
本誌第603号(2024年9月1日)の「2024年能登半島地震による志賀原発での揺れと基準地震動の過小評価」の一番最後のところで地震動評価に大きな過小評価があることを示した。今回の震源とほぼ同じ位置に北陸電力が想定した「能登半島北部沿岸域断層帯」による地震動を、今回の地震による地震動が大きく超えていた。
地震規模であるマグニチュードは、「能登半島北部沿岸域断層帯」(M8.1)の方が2024年能登半島地震(M7.6)より大きく想定されていたことから、断層長さにあわせてマグニチュードを大きくするだけでは今後の地震動評価の想定としては不十分である。震央距離(等価震央距離)のとり方や地震波の伝わり方にさかのぼって、地震動の評価方法を見直す必要がある。
北陸電力は2024年4月26日と7月4日に「令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について」というプレスリリースを出し、建物や機器の耐震性についての評価結果を公表している。対象になる地震力として考慮しているのは、マグニチュード7.6の本震によって志賀原発でのはぎとり波として482ガルの最大加速度を与えた1回分の地震動である。
機器類の評価結果として公表されているのは、評価をおこなった機器、評価部位、発生応力の評価方法、算出された発生応力の評価値、評価基準値、そして算出された発生応力の評価値を評価基準値で割った値である。最後の欄の値は、それぞれの機器の地震による破壊の切迫度ともいうべき値で、1.00を超えるとその機器の評価部位は破損している状態(限定的な塑性変形ではなく機能が損なわれている状態)とみなされる。
応力の評価には、2006年9月に原子力安全委員会によって改訂された耐震設計審査指針に対する検証評価(耐震バックチェック)の結果が利用された。耐震バックチェックでは最大加速度600ガルの地震波の1つが志賀原発に到達した場合の影響をみている。その先は、単純に地震動の最大加速度の比較ではなく、機器・配管などが設置されている階の床の揺れ方(最大応答値の周期ごとの分布)に基づいて計算されている。
表に抜き出して示したのは、公表された「全評価対象設備の評価結果」のうち、筆者が耐震性に余裕が少ない設備・機器と考えたものである。これらは、「発生応力の評価方法」で簡易評価Aでは評価基準値を超過し、詳細な評価方法Bでモデルのパラメータのチューニング(余裕を削る方向での変更)によって、ようやく評価基準値以内におさまったとみられるものである。
志賀1号炉では、残留熱除去系で系統全体で耐震性の低さが浮かび上がっている。残留熱除去系の熱交換器の基礎ボルト、配管本体、配管サポートの耐震性が低く、とくに配管サポートの切迫度は0.97と、評価対象となった機器のうちもっとも厳しい値となっている。残留熱除去系は、原子炉が停止したのちに核燃料から発せられる熱を取り除き続けなければならない。原子炉補機系の各機器もこれに関連する系統であり、原子炉補機冷却水系配管の配管と配管サポート、原子炉補機冷却海水系の配管も耐震性に余裕が少ないものとしてあげられる。
そのほか、主蒸気配管、原子炉再循環水入口ノズル(N2)のノズルセーフエンド、高圧炉心スプレイディーゼル補機冷却海水系の配管本体、非常用ディーゼル発電設備燃料油系配管の配管本体なども、安全上きわめて重要な機器であり、これらが耐震性に余裕が少ないものとしてリストに上がることは非常に重大である。
志賀2号炉についても、主蒸気系の配管や残留熱除去系・原子炉補機冷却水系配管の各機器が表に出現することは安全上の問題を提起している。起動領域モニタドライチューブのパイプや局部出力領域モニタ検出器集合体のカバーチューブなど、原子炉内部の様子を監視する機器や原子炉格納容器配管貫通部のフランジプレート(内側)が極めて耐震性が低いことがあきらかになった。
北陸電力が示した評価で耐震上問題がないとされたことは志賀原発の今後の耐震性を保証するものではない。今回の地震による志賀原発への影響が最大のものとは限らないからである。活断層の評価・選定、地震の選定・地震動の策定は、前述の通りその評価方法に疑問があり、今後の上限値を提示してはいない。とくに建物や機器類の耐震評価のもととなる地震動の上限値がわからないことは、建物や機器の評価に過小となる要素がはっきりと残されることになる。
現在進行中の志賀原発2号炉の新規制基準適合性の審査では、最大加速度1000ガルの地震動が提示されている。今回の評価結果からみると、1000ガルの地震動では耐えられないのではないかということが予測される。また、冒頭で示したように活断層から原発の敷地へ到達する地震動が大きな過小評価されていることがあきらかになっており、評価対象とする地震動が現在提示されているものでは十分ではないのではないか、という大きな疑問がわきあがってくる。活断層の選定にも問題があることが変動地形の研究者らから指摘されており、さらに疑問はふくらんでいる。
(上澤 千尋)
■参考資料
北陸電力、令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について(4月26日現在)、2024年4月26日
www.rikuden.co.jp/press/attach/24042699.pdf
北陸電力、令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について(7月4日現在)、2024年7月4日
www.rikuden.co.jp/press/attach/24070499.pdf